福島県矢祭町にある矢澤酒造店の代表、矢澤真裕さん(53)。東北最南端に位置するこの地で、200年近い歴史を誇る酒蔵の9代目として日々酒造りに向き合う矢澤さんだが、その経歴は酒造り業界では極めて珍しいものだ。

元官僚からの転身

東京都出身の矢澤さんは、かつて国土交通省の官僚として働いていた。しかし、日本酒への強い思いが高じて醸造機械メーカーに転職。その後、行きつけの店で出会った一本の日本酒が彼の人生を大きく変えることになる。
「私が東京で出会ったのが、この『南郷純米酒』です」

矢澤さんの人生を変えた「南郷」
矢澤さんの人生を変えた「南郷」
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先代はこの酒を「花火のよう」と表現していた。料理の味を引き立てるキレの良さを持ち合わせた"究極の食中酒"と矢澤さんが評する南郷との出会いが、彼の運命を変えた。

運命の赤い糸

この『南郷』を作っていたのが「藤井酒造店」だった。当時の蔵元・藤井健一郎さんと日本酒への愛を語り合ううちに、藤井さんから「酒蔵を継いでほしい」と声がかかり、矢澤酒造店が誕生した。

先代の藤井さんと(2017年撮影)
先代の藤井さんと(2017年撮影)

「なにか運命的なものを感じました。一本の赤い糸が、もともと通っていたのではないかと思う」
そう語る矢澤さんの目には確かな手応えと情熱が宿る。

伝統を受け継ぎ新たな挑戦へ

1833年創業の歴史ある蔵では、北海道産の酒米と地元・久慈川の水を使い、伝統的な製法で酒造りを行っている。この日は「酛立て(もとだて)」と呼ばれる工程が行われていた。
「きょうのは酛立てという酒母(しゅぼ)をつくる工程。小さいタンクに酵母を育てて、その酵母を増殖させていく一歩目」と矢澤さんは説明する。

北海道産の酒米と地元・久慈川の伏流水を使用
北海道産の酒米と地元・久慈川の伏流水を使用

蔵を継いで2026年で10年目。矢澤さんは伝統を受け継ぎながら新たな味わいを生み出す挑戦を続け、手がけた日本酒は全国の鑑評会でも数々の賞を受賞するようになった。

東京育ちの挑戦

「蔵人の方々は、東京で生まれ育った人は、1週間もたないと思っていたらしい」と笑う矢澤さん。しかし現実はまったく違った。
「日本酒つくれるとワクワクして来ていますので、辛いと思ったことはないです。人生をかけて、やる価値のある、やりがいのある大プロジェクトだと思います」

全国の鑑評会で数々の賞を受賞
全国の鑑評会で数々の賞を受賞

日本酒の魅力をもっと広めたいと始めた隣接するカフェでは、ゆったりとした空間で酒とつまみを楽しめるペアリングセット(1800円)も提供している。
「可能性はまだまだありますし、日本を代表する『国酒』の一つですので、世界にもアピールしていきたい」

ペアリングセット(1800円)
ペアリングセット(1800円)

どんなお酒ができるのかチャレンジして見守るのが楽しいという矢澤さん。自分の選択に悔いはないと言い切る。作り手として、何より矢祭の酒を愛する者として、理想の味わいを追い求める矢澤さんの酒造りは続く。

(福島テレビ)

福島テレビ
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