小池百合子都知事が、23区での家庭ごみ有料化の実施に向けて「区民に行動変容を促していきたい」と発言したのを受け、(東京23区の)「家庭ごみ有料化」についての議論が活発になっている。
背景にあるのは「最終処分場のひっ迫」。 東京都がごみを捨てる最終処分場が、数十年後には限界に達するのだという。 つまり、家庭ごみを有料化することで“ごみの減量”を促し、最終処分場を延命しようというわけだ。
昨年まで東京23区に住んでいた筆者は、家庭ごみを無料で回収してくれることを当然のように思っていた。 しかし引っ越した先は有料。自治体指定のごみ袋を購入する形で、燃えるごみだけでなく、空きビンや空き缶、金属、プラスチックと、それぞれ別の袋を購入しないといけない。
どうやら、全国では有料化されている自治体の方が多いようだ。 税金の二重取りではないか、といった意見もある。 ごみ問題はどこまで待ったなしなのか。
大学の研究者でありながら、10年にわたって清掃車に乗り、ごみ収集を経験し、現場からごみ問題と向き合う、立教大学の藤井誠一郎教授に話を聞いた。
ごみは“燃やしたらなくなる”わけではない
【立教大学・藤井誠一郎教授】
ごみを出したあと、どうなるのかご存じでしょうか。
例えば「燃えるごみ」は収集した後、清掃工場に運ばれ焼却炉で燃やされて灰になります。 灰の量はごみの20分の1。単純に計算すると45リットルの袋だとペットボトル2本弱の嵩(かさ)になります。 そして、灰は最終処分場に運ばれて埋立処分されます。
今ある最終処分場の残余年数(埋め立て処分が可能な期間)は全国平均で23.4年。 首都圏は30年、近畿圏は19.6年とされています。
しかし地震や水害等の自然災害にみまわれた際に生じる災害廃棄物の処分も見込んでおく必要があるため、実際の残余年数はこれより短いと考えられます。
新しく整備すればよいと思われるかもしれませんが、迷惑施設のひとつとも言われる最終処分場は簡単には作れません。
十分な広さがある場所を見つけるのは容易ではないのに加えて、環境への影響があります。埋立地に降った雨は廃棄物の有害成分が溶けた浸出水です。ですから、地下水や河川や生態系に影響が及ばない場所を見つけ、さらに浸出水処理施設も造って浄化していかなければならないのです。
周辺住民との合意の難しさもあります。
このような制約から、新たな最終処分場の建設はかなり難しいのです。
よく、ごみの減量は「環境のため」とか「限りある資源を大切に使うため」などと言われていますが、あまりピンときません。なぜごみを減らさないといけないかというと、最終処分場がなくなると、ごみ収集・ごみの焼却処理ができなくなるからです。
だから「最終処分場を少しでも延命させなければいけない」のです。
ごみの減量は難しいが“分けて減らす”ならできるかも…
家庭ごみで最も多いのが「燃えるごみ」ですが、ごみの分別が十分になされていないのも「燃えるごみ」です。
特に知らない人が多いのが「紙類」。可燃ごみとして出している家庭が多いと思います。燃やせばごみですが、分けて出せば『資源』となり生まれ変わるのです。
自治体の定める分別方法によりますが、例えば使用したメモ用紙やチラシ、ティッシュの箱、包装紙、トイレットペーパーの芯など、多くの紙製品は「雑紙」として回収されるとリサイクル可能な『資源』になります。
ほかにもプラスチックも意外と分けていない人が多いようです。 菓子パンの袋やボトルのラベルなどは、プラスチックだから燃えますけど、『資源』に出せばごみではなくなります。
身の回りの物の裏側を見てみて下さい。マヨネーズの容器やドリップコーヒーの袋、ウェットティッシュの袋など、今、多くのものに「プラマーク」がついています。これらを『資源』に分けるだけで、燃えるごみはかなり減ると思います。
資源リサイクルはお金がかかります。燃やしてしまう方がコストは安く済みます。ですが、最終処分場の延命のためには、ごみ(焼却灰)の量を減らしていく必要があるのです。
「ごみの減量」というと、何か大きく変えないといけないように思え構えてしまいますが、『資源を分ける』のはちょっとした習慣です。
使い捨ての便利な商品を使ってもいいのです。捨てる時に「資源」として出せば、ごみにはなりません。お住まいの自治体の分別ルールを確認し、それに基づいて、少し意識して分けて出すようにすれば、おのずとごみは減っていくと思います。
正月明けはごみの量がMAX
正月明けのごみ収集は一年で最も量が多くなります。年末年始で収集が1回休みになるのに加え、大掃除で出たごみ、そして正月はいつもより家庭での飲食が増える、などごみが増える要因がたくさんあるのです。
調査で正月明けのごみ収集作業に加わらせていただきますが、ひたすらごみを収集し続けて、終わったのが夜8時の時もありました。
清掃職員の中には「正月も休まず通常通りごみ収集した方がいいよね」と言う人もいます。 それぐらい正月明けのごみ収集は大変なのです。
朝、集積所にごみを出して、夕方、帰宅したらなくなっている。当たり前となった光景ですが、ごみは回収されて無くなる訳ではありません。「ごみの向こうには人がいる」ことを意識して、ごみを分けていただけたらと思います。 (立教大学・藤井誠一郎教授)
取材:高知さんさんテレビ