2026年は「午年」。宮崎県でウマと聞いて思い出されるのは、串間市都井岬の野生馬だ。紺碧の海をのぞむ宮崎県最南端の都井岬でのびのびと自由に生きる野生馬。在来馬の一種で、国の天然記念物の「御崎馬(みさきうま)」と呼ばれている。都井岬では、約100頭の馬が日本で唯一、野生本来の姿で暮らしている。そんな「御崎馬」の1年を追った。
新芽の成長を促す「野焼き」
都井岬の1年は、1月の「野焼き」から始まる。

これは、御崎馬の餌となる草の新芽の成長を促し、ダニなどの害虫駆除を目的に毎年この時期に行われる。油をしみ込ませた布を竹の棒に詰めて燃やし、枯草に火をつけていく。

野生馬たちは特に慌てた様子もなく、草を食みながら煙を避けるように移動していた。

野焼きが終わった都井岬では、3月になると新芽が出はじめる。
花咲く暖かな春
4月は、都井岬に春の訪れを告げる「オキナグサ」の花が見ごろとなる。

赤紫色の「オキナグサ」は下向きに咲く3センチほどの花で、都井岬ではいたるところで見られる。キンポウゲ科の多年草で、環境省の絶滅危惧種にも指定されている。花が咲いた後にできる果実の長く白い綿毛が白髪の老人に見えることから、翁草(オキナグサ)と名付けられたと言われている。

御崎馬は「オキナグサ」の香りを楽しむかのように花に寄り添い、暖かな春の日差しのもと、うとうととお昼寝をしていた。

訪れた観光客も、草原に咲く貴重な花を撮影して楽しんでいる様子だった。

都井岬の「オキナグサ」は、花が終わると長い白い綿毛をつけ、5月頃まで楽しめる。
待望の「春駒」誕生
春は「御崎馬」の出産シーズンでもある。2025年は4月7日に「春駒」が誕生しているのを御崎馬の保護監視員が確認した。

生まれたばかりの「春駒」は、青毛と呼ばれる黒っぽい毛色のメス。

「春駒」はおっぱいをほしがるが、おっぱいの場所を上手に探せず、やっとの思いでお乳にありついていた。
新緑まぶしい都井岬と御崎馬
5月、ゴールデンウィーク期間中には1日に7000人余りが訪れたという都井岬。そこでは、産まれたばかりの「春駒」と御崎馬たちが、気持ちよさそうに草を食み、寝そべっていた。

2025年には8頭の「春駒」が生まれたという。

人が野生馬に近づくことは禁じられているが、春駒は人懐っこく、人に近づいたり、子どもの後を追いかけたりする姿も見られた。

草原では、寝そべってすやすやと眠る馬の姿も見られた。

東京からの観光客は、「カレンダーで寝ている馬を見て、一度会いたいと思っていた。やっと来れた」と嬉しそうに話していた。

海風を受けながら、馬たちは自由にくつろぎ、観光客はその光景に癒されていた。
秋の訪れを告げる「ヒオウギの花」
8月、夏真っ盛りの都井岬だが、秋の訪れを告げる「ヒオウギの花」が草原や道端のあちこちで咲き始めた。

ヒオウギは、都井岬に自生しており、オレンジ色に赤い斑点がある花弁が放射状に開く。

「ヒオウギ」という名前は、重なり合った葉が扇の形をしていることから付けられたという。
9月の都井岬を彩る「ヒガンバナ」
とても暑い9月だったが、連休には5000人以上の観光客が訪れた。

暑さで御崎馬の姿はまばらだったが、訪れた人たちは御崎馬を見つけては一緒に写真に収めたり、夏雲の広がる海の眺めを楽しんだりしていた。

そして9月も下旬になると、都井岬では「ヒガンバナ」が見ごろを迎える。

花のそばでおいしそうに草をはむ御崎馬の姿が見られ、この日は海外から訪れた観光客が、御崎馬と「ヒガンバナ」の咲く風景を楽しんでいた。

海外からの観光客:ドイツとスペインから来ました。初めて見るお花で、とてもきれいです。こんなに野生の馬に近寄るのも初めてで、すごく思い出になります。
江戸時代から続く伝統行事「馬追い」
9月は、江戸時代から続く伝統行事「馬追い」の季節でもある。「馬追い」は江戸時代に若い馬を捕獲し搬出するために行われていたが、現在は採血検査や寄生虫の駆除などの保護活動を目的に年に1回行われている。

例年、都井御崎牧組合の組合員や大学生、一般参加者など100人以上が参加し、竹の棒を手に人の垣根を作り、群れごとにじわじわと追い込み柵の方へと誘導していく。

馬は必ず先頭の馬についていくという習性があるため、先頭の馬をきれいに柵に入れてしまえば、あとはついてきて、きれいに柵の中に入るのだという。

中には途中で逃げ出してしまったり、群れからはぐれてしまったりした子馬を優しく誘導する姿も見られた。

最後に御崎馬を馬1頭が通れるほどの囲いに誘導し、宮崎大学農学部獣医学科の学生を中心に血液検査や雌馬への駆虫剤の投与、個体識別確認のための凍結烙印などが行われる。
「馬追い」の参加者は年々増えており、都井御崎牧組合では江戸時代から続く伝統行事を後世に遺していきたいとしている。
都井岬は、初日の出スポットとしても人気で、毎年、福岡や熊本から多くの人が訪れるという。
都井岬にある御崎神社は、1年のうち正月三が日のみ、御朱印やお守りの販売が行われるため、毎年行列ができるのだという。
観光交流館「PAKARAPAKA(パカラパカ)」も、元日午前7時から午後4時まで営業し、初日の出客を迎える予定だ。
※早朝より雨天の場合は午前9時~午後5時の場合あり。1月2日以降は午前9時~午後5時。

また、PAKARAPAKAでは今回初めて「都井岬カレンダー(税込650円)」を制作した。これまでに開催してきた「都井岬フォトコンテスト」で優秀賞を受賞した22作品を掲載したA0サイズのポスターで、カレンダーとしての利用はもちろんだが、馬が好きな人にはポスターとしても楽しめるだろう。
午年の2026年、都井岬の野生馬はますます人気を集め、多くの人たちの「癒し」となりそうだ。
(テレビ宮崎)
