愛知県豊田市、徳川家ゆかりの紅葉の名所・松平郷のすぐそばに、27年間変わらぬ味で親しまれる五平餅の名店があります。店を切り盛りするのは、88歳と84歳の名コンビ。「働き続けたい」という思いで守り続ける手作りの味は、1日に500本売れるほどの人気です。
■松平郷の紅葉と五平餅の名店
「松平東照宮」は、徳川家康と共に松平家の始祖・親氏(ちかうじ)を祀る“徳川家のふるさと”で、周辺の「松平郷」は、史跡巡りと紅葉が楽しめる人気スポットです。
その「松平郷」を流れる滝川沿いに店を構えるのが、五平餅専門店「滝川ふれあい工房」。名物は「五平もち」(250円)です。
客:
「甘くなくさっぱりしている味噌。少し焦げた味がおいしい」
店長は88歳の柴田カギ子さん。柴田さんを支えるのは84歳の磯谷政江さんです。営業は週4日(金・土・日・月)のみ。それでも27年変わらぬ味を求めて多くの常連客が店を訪れます。
■27年間守られる秘伝の味噌ダレ
味の秘密を探るべく、味噌作りを見せてもらいました。砂糖は、高級菓子に使われる白ざら糖。煮物向きの黄ザラ糖、上白糖の3種をブレンド。ゆっくり煮込んで砂糖水にします。
磯谷さん:
「砂糖はすぐに焦げちゃう。だから焦がさないように、ずっと混ぜっぱなし」
次に赤だし味噌を約4キロ投入。
磯谷さん:
「これで10キロぐらいできる。300~400本分ぐらい」
焦がさないよう火加減を調整しながら、約2時間半混ぜ続けます。味噌が溶けたら、みりんと酒を加えます。さらに、普通ならクルミや落花生を使うところですが、こちらでは漢方薬としても使われる薬草「アマドコロ」の根を使っています。
アマドコロは山芋のようなとろみと独特の甘みが特徴。ショウガと一緒にミキサーにかけ、味噌に加えます。
柴田さん:
「お客さんに“クルミ入っていますか?”と聞かれるけど、クルミは高いので入れません」
磯谷さん:
「一緒だよ、薬草だって高いもん」
最後に酢とゴマを加えて1時間煮詰めたら味噌ダレが完成。27年守り続けてきた味です。
柴田さん:
「この味がみんな“おいしい”って。あんたのとこの五平餅はおいしいって言われる」
■88歳と84歳が守る味
柴田さんが続けているのが、豊田の中心部にある「JAあいち豊田産直プラザ」での毎週土曜の出店です。
JAあいち豊田産直プラザの担当者:
「こちらの店がオープンした頃からずっと焼いてもらっていて、ファンもたくさんいる馴染みの店です」
半日で200本以上売れる人気ぶり。家族に20本買っていく人や、味噌だけ求める人もいるほどファンが定着しています。
客:
「何人か五平餅の店が出店しているけど、この人にはかなわんね」
五平餅作りを始めたのは27年前。そのきっかけは、定年後に始めた野菜の直売でした。同じ思いを持った仲間が集まり始めた野菜の直売所ですが、困ったのが冬に売るものがないこと。そこで思い立ったのが、この地方の名物・五平餅の製造販売でした。
平成10年12月に開業した五平餅の店は、観光バスが立ち寄るほどの人気に。しかしあれから27年、創立メンバーで今も残っているのは柴田さん1人です。
磯谷さん:
「家庭の事情とかで皆いっぺんに辞めましたので。私はこういうの好きですから」
メンバーが多く抜けることがわかった2024年。磯谷さんは、病院で再会した柴田さんに誘われて参加。しかも磯谷さんは「五平餅マイスター」に認定された人でした。
“人生100年時代”といわれる今、高齢女性が活躍できる場所を作った柴田さんたちの活動は、国からも表彰されました。
磯谷さん:
「この味はずっと残したい。ずっと続けていきたい」
“松平郷の味”は、二人の手から、これからも未来へと紡がれていきます。
