「社会保険料の引き下げ」を看板政策に掲げる日本維新の会をめぐり今、ある疑惑が浮上しています。
維新の複数の議員が、高額な国民健康保険料の支払いを逃れるため、一般社団法人の理事になり、負担がより軽い社会保険に加入しているというのです。
維新として実態調査に乗り出す事態となり、波紋が広がっています。
取材を進めると、理事が700人以上もいる法人の存在も明らかになりました。
社会保険労務士は「制度の隙をついた“脱法アイデア商品”が登場してる」と指摘します。
国保の支払いを逃れるための脱法的な行為とは!?「newsランナー」緊急取材です。
■一般社団法人の理事につき“国保逃れ”か
維新の“国保逃れ疑惑”とは何か。
まず取材班が訪ねたのは、この疑惑を大阪府議会で指摘した、自民党の占部走馬大阪府議。
ことしの夏ごろ、フリーランスの知人が「ビジネス交流会で“ある勧誘”を受けた」といいます。
【自民党 占部走馬大阪府議】「国民健康保険の負担を軽くし、節約して、社会保険に入れるというスキーム(仕組み)を紹介されて。一般社団法人の理事になることで、社会保険に加入できるんだと説明されたみたいで」
国民健康保険は、一般的にフリーランスの人や議員が加入しますが、保険料は全額自己負担。
一方、会社員などが加入する社会保険は、会社が保険料を折半してくれるため、“国保”の方が、保険料が高くなる傾向があります。
そこで、とある一般社団法人「X」の理事につくことで、“国保”から、中小企業などでつくられる社会保険の1つ、「協会けんぽ」に切り替え、保険料を抑えようと勧誘されたというのです。
■指南書を入手「保険料負担を最低水準に落とすことが可能」
関西テレビが入手した法人Xの名前が書かれた指南書には「数万から数十万円のコスト削減が可能」と書かれています。
「フリーランスが会費を支払って法人Xの理事となり、簡単な〇×問題やアンケートへの回答の対価として、数百円程度の報酬を受け取る」と記載。
「保険料負担を最低水準に落とすことが可能」とうたわれ、「80万円程度のコストを削減できた」とする例も書かれていました。
取材班が理事の1人に話を聞くと…。
【記者】「決まった仕事はあるんですか?」
【理事の1人】「特にないんじゃないかな」
【記者】「理事会に行ったことはありますか?」
【理事の1人】「行ったことはない。あるかどうかも知らない」
さらに、占部府議の知人を勧誘した人物は、こう言って安心させようとしたといいます。
【自民党 占部走馬大阪府議】「『維新の会の議員の方もたくさん入られて、同じことをされてるので安心です』と言われたというふうに、(知人は)言ってましたね」
■法人Xの理事は700人以上 維新に所属議員4人は「いずれも本人」
一体、どういうことなのか。取材班が法人Xの登記簿を確認すると、理事として大量の人物が登記されているため、50枚以上になっていました。
理事として書かれていたのは、辞任した人も合わせるとなんと700人以上。
中には、維新に所属する兵庫県内の地方議員4人と同姓同名の人物の名前もありました。
吉村代表は、この4人が「いずれも本人」だと認め、理事としての勤務実態を調査するとともに、今週末をめどに全ての議員や首長を対象に調査を行う方針を示しました。
【日本維新の会 吉村洋文代表】「登記簿の該当者だけでなく、全特別党員に対して(調査を)やるべき」
■「言語道断」と横山副代表
例えば、兵庫県議の年間報酬は1454万円あまり。
神戸市在住と仮定すると、年間の国民健康保険料は109万円にものぼり、こうした仕組みを使うと、数十万円程度の削減効果があるとみられます。
さらに関係者によると、法人Xの代表理事は、維新の国会議員の元秘書で、“国保逃れ”の情報は、兵庫県内の維新関係者の間で共有されていたとみられています。
理事への就任は、国保逃れ目的だったのか。
関西テレビは4人の議員に取材を試み、このうち1人から、「調査中のためコメントを差し控える」と回答がありました。
【日本維新の会 横山英幸副代表】「高額な国保料を回避するために、実態のない内容と分かって所属していたのであれば言語道断。政党として、身を切る改革を掲げているが、まず当たり前のこととして、絶対やってはいけない」
■法人Xは「疑義の指摘は事実に反する」と反論 所在地を訪れるも「知らない」
一方、法人Xは、ホームページ上でコメントを発表しています。
【法人Xのコメントより】「現在、当法人において、一部報道機関や関係各所において、当法人の運営実態や設立目的に関する疑義が指摘されていることを確認しております。
しかし、当法人は、個人事業主の活動を支援するため、その公的制度(社会保険や年金等)に関する理解や知識の向上を図ること等を目的として設立した法人であり、設立以降下記の内容の活動を行ってきた実態があります。
このように、上記の当法人に対する疑義の指摘は事実に反する内容であり、当法人としては当該指摘がされていることにつき遺憾の意を表します」
そして「主な活動内容」として次のような内容を挙げています。
・個人事業主に対する公的制度その他実務的事項に関するカウンセリングの実施
・個人事業主向けの事業上の課題解決を目的とした相談窓口の設置及び運営
・各業界の市場・動向調査およびその分析に基づく情報の発信
・メディアやSNSを通じた個人事業主のための実務的ノウハウにかかる情報発信や啓発活動
取材班は話を聞こうと、所在地である京都市内の集合住宅を訪れましたが、法人Xの名前が書かれた郵便受けには、別の税理士法人の名前も。
インターフォンで応答した税理士法人の職員と名乗る人物は、法人Xについて、「知らない」と話しました。
■「違法ではない」「脱法アイデア商品」の一方で「実態がない場合は、違法・無効」と社労士
“国保逃れ”を目的とした社会保険加入サービスは、そもそも違法ではないのか。
社会保険労務士の西澤さんは、「法人の理事であれば、社会保険に加入できるため、違法ではない」と話します。
【社会保険労務士 西澤明文さん】「見事に制度の隙をついた“脱法アイデア商品”が登場していると思う」
一方で、明らかに理事としての実態がない場合は、違法・無効になる可能性もあるといいます。
【社会保険労務士 西澤明文さん】「別に所得がある方が、ルールの隙をついて安い保険料にシフトすることで免れているとすれば、制度の趣旨からしても、大きく逸脱していると判断される可能性は高い」
■脱法的サービスの勧誘受けた男性は「正直意味がわからない」
“脱法的”ともいえるサービスを行う法人は、「X」の他にも複数の業者が確認できます。
取材班は去年、ある業者から勧誘を受けたという元警察官の男性から話を聞きました。
【“国保逃れ”の勧誘を断った男性】「『違法性はない』と、『このスキームを考えた人はすごいんだ』と言われて」
去年、フリーランスで仕事をしていた男性は、“国保”の負担に悩む中、ネット上である業者を見つけました。
「一般社団法人の理事になることで、50万円程度コストを削減できる」と説明されましたが、男性は不信感を覚え断ったといいます。
【“国保逃れ”の勧誘を受けた男性】「正直意味がわからないと思いました。この一般社団法人の業務をするための理事になるというわけじゃないので。
僕が刑事だったら、公正証書原本不実記載として、捜査の対象になるんじゃないかと。ダメでしょうと思って、(契約は)ないと思った」
■「法の抜け穴をついているという認識はある」
この業者を取材すると、「国保を負担に感じる方を救済するために始めたが、法の抜け穴をついているという認識はある」と話しました。
こうしたサービスが広がりを見せる中浮上した、維新の“国保逃れ”疑惑。
社会保険料の削減を「一丁目一番地」に掲げる政党として、有権者への説明責任が問われています。
(関西テレビ「newsランナー」2025年12月23日放送)