被爆80年という大きな節目の年が終わるのを前に、先日、広島市は長年にわたる被爆者の功績への感謝とともに若い世代への継承を改めて誓いました。
「被爆者の思いをいかにして若い世代に継承していくのか」。
広島市の松井市長に話を聞きました。
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【広島市 松井 一実 市長】
「(若い世代に)平和を守る決意を固めてもらう、そんな意味で平和学習ということをやらないといかんと。次の世代に伝えるということを今しっかりやらないと、本当に地球上から人類、いなくなるかも分からない」
今月15日に初めて開かれた被爆者の皆様との対話。
参加者は被爆80年という長い歳月と、被爆者の存在にこれまで支えられてきた平和活動に思いを馳せました。
一方で、被爆者の高齢化をふまえ今後の平和活動のあり方を考える必要性を実感しました。
【被爆者 梶矢 文昭 さん】
「想像力、使われたらどうなるか。広島がどうだったか。それを想像していこう。そして防いでいこう」
【松井市長】
「そこに暮らす市民が共に生きて、お互いを尊重しながら生きていこうというその精神を大切にする。都市というのは重要な平和の担い手というものじゃないかなと思うんですね」
被爆80年の今年、広島市は国際平和都市としての自らの役割を改めて見詰め直し様々な取組みを進めてきました。
その中で特に力を入れたのがこれからを担う若い世代の育成です。
全国から平和学習のために広島を訪れる同年代の若者をサポートする「ユース・ピース・ボランティア」を育成。
全国から集まった若者と議論し、自分たちの言葉で平和を発信できたことが自信につながったと言います。
そこには、「世界にもっと平和を発信したい」と意欲を高めた子供たちの姿がありました。
【ユース・ピース・ボランティア】
「戦争のことや社会的なこと政治とか宗教とか調べて、何か意見を言えるように知見を広めておきたい」
「自分の意見が言いたい時、この言葉じゃないなという時があったので、本を読んでボキャブラリーを増やして自分の意見を正しく伝えたい」
平和活動を行う人材の育成に力を入れている広島市。
将来に渡って被爆者の思いや平和への思いを胸に一人一人がそれぞれの分野で活躍することを期待しています。
【松井市長】
「様々な自分の得意な分野を見つけて、そこで平和に貢献できる人材になると、そんなことを願ってるところであります」
平和学習の大きなうねりは広島だけではなく全国の他の自治体にも広がっています。
今年8月、広島への修学旅行で平和学習について議論したのは関東の教師です。
【参加した教師】
「広島や長崎に、多感な時期に来ることは大事だと思います」
市は平和学習で重要なのは現地を訪れ、実際に見て、感じることだと考えています。
【松井市長】
「(平和学習に)参加する子たちが、実際に原爆投下のあった広島という地を訪れてもらって、ああこんなことがあったんだ、原爆とか戦争というものはこんな風になるんだなということを先ず知っていただく、感じていただく。全国の拠点になっていくということ、それを目指したいなという風に思って」
被爆者から直接話を聞けなくなる時を見据え、2012年度に松井市長が立ち上げたのが、被爆者本人に代わってその体験を語る被爆体験伝承者養成事業です。
家族伝承者も含めこれまでに307人が委嘱を受け活躍。
全国での証言活動もコロナ前の1.5倍となりさらに増え続けています。
そのほか被爆体験の継承には最新技術の活用も始まっています。
10月にはAI=人工知能を活用した被爆証言応答装置のお披露目もありました。
【AIを使って 被爆者 切明 千枝子 さん と対話】
Q:「切明さんにとっての平和とは?」
A:「私はね、戦争さえなければ平和かと言うとそうではないと思うんですよ」
原爆資料館を訪れる入館者は毎年過去最多の人数を更新し続けています。
しかし、平和学習の重要な拠点にもかかわらず、子供たちがゆっくり見学して学習することが難しいなど混雑が深刻化しています。
【修学旅行生】
「全体的に時間がなかったです。説明とかが全然見られなくて」
こうした中、広島市は子供たちがしっかり平和学習に取組むことができるように「子供向け平和学習の展示」を新たに作る計画を進めていて、混雑緩和にも期待を寄せています。
【松井市長】
「被爆者が『このような思いを他の誰にもさせてはならない』。そのために何ができるか考えましょうと言ってて、皆さんがこういう気持ちを分かる、分かっていただけるような環境設定を市長である限りやり続けたいなという風に思ってます」
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被爆80年という大きな節目となった今年、「ヒロシマ」が単なる地名ではなく、平和を考える上での絶対的シンボルとなっているのは、その体験に加え、これまでの広島市と人々の取組みにより世界から共感と信頼を得ているからに他なりません。
被爆者・戦争体験者がいなくなってしまうという未来が迫る中「被爆者の思いをいかにして若い世代に引き継いでいくか」は、私たち一人ひとりに突きつけられた待ったなしの課題です。