「空母同士は近づけない」日本周辺での大国・米中の心理戦
日本周辺での中国軍の動きが活発化し、中国海軍空母「遼寧」が日本近海を航行する。「遼寧」は艦載戦闘機などの離着陸訓練を頻繁に行い、防衛省が警戒を強めている。
そうした緊迫する情勢の中、ある幹部自衛官が記者に語った言葉。「空母同士は近づけない」
彼は、その趣旨をこう説明した。「空母と空母は一定の距離離れて運用しないと危険だ。だからお互いの距離を保って行動する。お互いにエスカレーション上げないようにせざるを得ない」
この言葉を具現するような状況が、この12月に発生した。「遼寧」に対するもう一隻の空母は、米海軍の空母「ジョージ・ワシントン」だ。
中国空母の日本周辺での動きが活発化-その時、米空母が…
防衛省によると、12月6日午前7時頃、空母「遼寧」とミサイル駆逐艦3隻が、沖縄本島と宮古島との間の海域を南東に進み、太平洋へ向けて航行した。
その後、日本周辺海域で、「遼寧」の艦載戦闘機などによる発着艦訓練が繰り返された。
発着艦訓練する中国軍のJー15戦闘機に対して、航空自衛隊のFー15戦闘機が対領空侵犯措置を行っていたところ、中国軍機から30分間にわたり断続的なレーダー照射を受け続けるという初の事案も発生。防衛省に緊張感が走った。
また、9日には午前から午後にかけて、ロシアの核兵器搭載可能なTuー95爆撃機2機と中国の長射程ミサイルを搭載可能なHー6爆撃機2機が、東シナ海から四国沖の太平洋にかけて長距離にわたる共同飛行を実施した。中国とロシアの爆撃機が共同で四国沖まで進出したのは初めてだ。
空母「遼寧」は、中露共同飛行が行われている中も太平洋を航行し、9日には空母「遼寧」とミサイル駆逐艦と補給艦は、沖縄県・北大東島の東約450kmを航行。12日には、沖縄本島と宮古島との間の海域を北西に進み、東シナ海へ向けて航行した。
6日から12日までに確認された、空母「遼寧」からの艦載戦闘機や艦載ヘリによる発着艦の実績は、のべ約260回にのぼった。
中国空母「遼寧」が日本周辺の太平洋で活動していた8日から11日にかけ、海上自衛隊の護衛艦「あきづき」と、米海軍空母「ジョージ・ワシントン」、駆逐艦「デューイ」が、関東南方の海域で日米海上共同訓練を実施していた。
中露爆撃機は四国まで共同飛行したものの、その先に進まなかったことや、中国空母「遼寧」などの艦艇がわずか1週間の活動に終わったことは、関東南方で行われていた日米海上共同訓練が”抑止”となったとの見方もある。
防衛省関係者は、「今回の海自と米軍の連携は見事だった、日米同盟の抑止が働いたということだ」との見方を示した。
今回の中国空母「遼寧」は補給艦も共にしていたため、ある幹部自衛官は「中国は、本当はもっと太平洋に出てやりたいことがあったのだろう。しかし、アメリカの空母もいたため、それ以上は進めなかったのだろう」と述べた。
「お互いに位置がわかっているから、けん制となる。近づいたら危ない、ハレーションが起きる、あえてエスカレーション上げることはしないということになる」との海上自衛隊関係者の声もある。
海自のトップである斎藤聡海上幕僚長は16日の会見で、「我が国の防衛のためには、米海軍7艦隊との協力が不可欠である。(協力の)内容についても、かなり進化している。さらに進めていく必要がある」と強調した。
緊迫する日本周辺海域…日米同盟の抑止力強化の重要性
小泉防衛相は、かねてから「日米同盟を更なる高みに引き上げつつ、日米同盟の抑止力・対処力を強化するための取り組みを進めていく」と日米同盟の抑止力・対処力の重要性を強調する。
高市首相が10月、トランプ米大統領が来日した際、2人で神奈川県横須賀市にある米海軍横須賀基地を訪れ、停泊中の米原子力空母ジョージ・ワシントンにともに乗艦し、肩を抱き合ったシーンが象徴的である。
周辺国の軍事活動が活発化する中、不測の事態が発生するために、日米のミリタリーとミリタリーの間の連携、日米同盟の抑止力・対処力の強化の重要性が増していると言える。
(フジテレビ報道局 防衛省担当 鈴木杏実)
