師走の街に流れるクリスマスソングや歳末大売り出しの威勢のいい掛け声。しかしその一方で、街には苦しい声も溢れてる。厳しい寒さと経済的苦境に喘ぐホームレス。“炊き出し”で命を繋ぐ支援団体の活動に密着した。
生活困窮者の命を救う“炊き出し”
「だいたい月に2回。12月はもう毎週、金曜日です」と話すボランティアスタッフ。約30年に渡りホームレス支援の活動を行っている福岡市博多区の『福岡おにぎりの会』だ。この日は、スタッフなどが炊き出しの準備に追われていた。
毎週の炊き出しで、必ず用意するものが、たっぷりの野菜と溢れるほどの豚肉が入った豚汁。身体が温まる。

さらには約200個にも及ぶ数のゆで卵。『おにぎりの会』によると炊き出しで使用する食材は全て寄付されたものだという。

準備するのは、食べ物だけでない。生活に欠かせない歯ブラシや髭剃りなどのアメニティも用意される。

「食事をお渡ししたり、いろいろなお話を聞いたり、ご相談がある方がいらっしゃったら、ご相談を聞いて…」と『おにぎりの会』の木戸勝也さんは話す。
所持金も底をつき30代でホームレスに
物価高が続くなか『おにぎりの会』をはじめとする支援団体の活動は、その必要性を増している。活動の中心を担うのは、殆どがボランティア。『おにぎりの会』には、もともと炊き出しに並ぶ側を経験したボランティアもいる。

ボランティアのひとり、52歳の中村弥さん。20年ほど前、それまで10年間勤めていた会社を解雇され、長崎から福岡に出て来た。
ところが、思うように仕事が見つからず、頼る人もいなかった中村さんは、所持金も底をつき30代でホームレスになってしまったのだ。

「もう本当、コンビニで廃棄されるお弁当を取って食べてたんだもん。それって長くも続かないのよ。だって廃棄物でしょ、賞味期限が切れるわけやん。体調おかしくなるよね」と当時の苦しかった頃のことを中村さんは話す。

いよいよ賞味期限切れの弁当も食べられなくなり、何も食べない日が3日間、続いた。

空腹状態が限界に達した中村さんが、最後の手段として選んだのが、炊き出しだったのだ。命を救われた思いだったという。そして「恩返しがしたい」と考え、4年前に始めたのがボランティアだった。
多くの人にとって“ひとつの居場所”に
「炊き出しって、本当は行きたくなかったんだよね。めちゃくちゃ恥ずかしかった。並んでいる人たちを見てて『あぁ、俺もこの仲間に入るんだ』と思ったら、すごいショックで…」と炊き出しに並ぶことに抵抗があったと話す中村さん。

中村さんが担当する場所の炊き出しに並ぶのは毎回、30人ほど。全員の顔と名前を記憶している中村さんは、ひとりひとりと会話を交わす。

「炊き出しに行く回数がどんどん増えていくと『喋りたくなかった』っていう気持ちが、段々、薄れてくる。『次、どこで何があるよ』っていう情報を聞き出すから、必然的に喋ろうとするようになっていく。次第にふざけ、冗談話になって、最後は仲良くなっていく」。中村さんが、炊き出しに並ぶ人たちと会話する理由だ。

ボランティアの人と会話することで徐々に抵抗がなくなっていった中村さん。“会話ついで”に食事をしてくれるような空間を作ろうとコミュニケーションを大切にしている。
「この活動をするきっかけっては、自分が“もらう側”の立場からスタートしてるので『何か恩返しがしたい』っていう感じで最初はやってきましたけど、今は、自分にとっての居場所にも変わってきてるので、やっぱり大事にしたいな」と中村さんは話す。
生活に苦しむ人たちの命を繋ぐために続けている炊き出しの活動は、今や多くの人にとってひとつの居場所になりつつある。
炊き出しに訪れる人に或る変化が…
そんなホームレスのための炊き出しだが、最近はそのかたちに変化が生まれているという。『おにぎりの会』の木戸勝也さんは「ホームレスの方の炊き出しっていうのは、もうなくなって、どっちかというと、もう全ての生活困窮されている方向けの炊き出しっていうかたちに、今、なってる」と話す。

2025年1月時点で、福岡県内のホームレスの数は154人。これまでで最も多かった2009年と比べると、その数は10分の1ほどにまで減少している。

その事実の一方で「コロナをきっかけに段々、増えてきて、昨年度は多分140人くらいが、もらいに来ている。今は多い時だと200人くらい、昔の倍くらいもらいに来る」と木戸さんは話す。
ホームレスの数は減少しているものの、炊き出しに来る人は、増え続けているというのだ。

「物価高になる前、3年ぐらい前は、なんとなく切り詰めて生活をすれば、貯金とかができて、それで洋服を買ってたりしたけど、今は、もう貯金すらできない、もう絶対にできない」とその理由を話す木戸さん。静かな怒りで表情が曇る。

木戸さんによると、最近は炊き出しに並ぶ20代や30代の若年層が増えているという。
若者に食料支援などを行うNPO法人が発表した調査結果によると、食費増加への対応策として相談者の4割以上が「量や回数を減らす」と答えたほか、2割以上の人が「キャッシングなど、何らかのかたちで借金をしている」と回答したという。

若者の経済的な困窮も浮き彫りとなるなか、今後、炊き出しの需要はさらに高まるかもしれない。今こそ政治の力が問われている。
(テレビ西日本)
