長崎県五島列島の最北端に位置する宇久島(うくじま)で国内最大級のメガソーラー事業が進められている。地域振興を見据えて島民の期待が寄せられる一方、環境変化への不安の声も上がっている。過疎化が進む離島の未来をかけた取り組みの現状を取材した。
島の10分の1を覆う「巨大メガソーラー」
佐世保港から西に約60㎞、五島列島の最北端に位置する佐世保市の「宇久島」。
この島で国内最大級のメガソーラー事業が進められている。
パネルの面積は280haと島の10分の1を占め、年間発電量は51万5000MWhで、一般家庭の17万3000世帯分に相当する。
事業を手がけるのは、クラフティア(旧九電工)や京セラなど9社が出資する「宇久島みらいエネルギー」だ。
再生可能エネルギーで発電した電気を一定価格で国が買い取る制度に基づき、電気を販売する計画だ。
クラフティア執行役員の木下大氏は「交直変換所や他の建屋、機器の製造も進んでいる。工事の進捗は半分近くまで来ている」と語る。
人口減少 高齢化…島を変えられるか
この事業が動き出したのは、2013年のことだった。

当時の市議らが結成した「宇久島メガソーラーパーク誘致推進協議会」が、九電工(現クラフティア)に働きかけたのだ。
木下氏は当時を振り返り「宇久島の有志の方が会社に来て“プロジェクトを推進してください”とお願いされた。携えられた嘆願書には987名分の署名があった」と説明する。
島の人口はこの10年間で528人減少。2025年11月現在、1579人まで落ち込んでいる。
人口減少や住民の高齢化により、島には放置された「耕作放棄地」が増え続けている。推進派の島民は、ソーラーパネルの設置により耕作放棄地が活用されると期待を寄せる。
地権者の1人は「もう年で畑ができない。放棄しているから九電工(クラフティア)に貸して畑がきれいになって助かっている」と話す。賃料は年間1坪200円で、地権者は平均で年間40万円を受け取る。
現在、工事は250人体制で行われている。宿舎の管理や食堂の掃除などを島民が担うことで新たな仕事が生まれ、人口減少対策につながると考えられている。
宿舎で働く島民は「宇久島に仕事はあまりない。年をとっても雇ってもらえるし年齢制限がない」と話す。
事業者側は、一部のソーラーパネルの下で牧草を育てることで島の基幹産業・畜産業への支援につながると、地権者以外にもメリットがあることを強調する。
自然環境の変化を危惧する声
一方で、中立的な立場からのアンケートや住民投票がないとして、事業を危惧する声もある。
2020年に長崎大学が宇久島の全世帯に行ったアンケートでは737の回答があり、否定的な声が7割あったとしている。
市民団体「宇久島の生活を守る会」の佐々木浄榮会長は「美しい島の自然が壊されることが心配、自然を壊さないでなど色々な人が書いていた」と話す。
河川工学が専門の熊本県立大学の島谷幸宏特別教授も「規模が非常に大きく島をソーラーパネルで覆うようになるので、様々な影響が出るのではないか」と指摘する。
特に懸念しているのが水循環への影響だ。「地面をソーラーパネルで覆うことは、都市の中で住宅や建物ができ、道路を舗装することと同じ現象だ。雨が降った時、洪水の量が2倍から3倍に増え、地下に浸透する量も減っていく」と説明する。
島では生活用水の一部に地下水を利用しており、島谷氏はパネルの設置で雨が地面に浸透しにくくなり、地下水が減る危険性があると警鐘を鳴らす。
地域振興と自然環境の両立を探る
これに対しクラフティアは「災害リスクについては島谷教授の提言を受け、雨を浸透させる施設を作るなど防災計画の見直しを行っている」としている。
さらに、環境破壊を危ぶむ声については「景観・環境への配慮と地域再生を両立させる事業」だと、積極的に発信したいとしている。
工事の許認可権を持つ佐世保市の宮島大典市長は「基本的に事業者が住民との話し合いをしっかりと行ってほしい。反対者の懸念する状況が法的なものを含めて、抵触することがあれば我々はしっかりと指導しなければならない」と述べている。
人口が減少する中でどのように地域振興と自然環境の維持のバランスを取るか、これは単に宇久島の問題ではなく日本各地で起きている課題だ。
事業のメリットと課題を見据え、よりよい答えを探っていく取り組みを地道に続けていくことが求められている。
(テレビ長崎)
