日本一の生産量を誇る広島の養殖カキが、かつてない大量死に直面している。高水温などが影響した可能性が指摘されるが、明確な原因は見えない。国と県が支援策を打ち出したものの、生産者や加工業者の不安は続いている。
「ほぼ全滅…」来年の仕込みに不安も
「これも死んで、これも死んで、これも死んでいる。ほぼ全滅ですね」
広島市沖合のいかだで、水揚げされたばかりのカキ。殻を開けても身はなく、死滅が広範囲に及んでいる。2025年に瀬戸内海を襲った異変は収まる気配を見せず、漁場には重苦しい空気が漂っていた。
カキ養殖業者「米田海産」の米田礼一郎社長は売り上げの落ち込みについて、「前年比で、少なくとも1日あたり数十万円の減少」と明かす。

来年に向けた準備も欠かせない。
「仕込みをしなければ、来年出荷するものがない。その一方で、はっきりした原因や『こうすればいい』という解決策がまだない」
米田社長はしばらく考え込み、「どうしたらいいのかわからない」と先の見えない状況に苦悩をにじませた。
原因は“高水温と高塩分”の可能性
調査を続ける県水産海洋技術センターでは、夏以降も続いた高水温と高塩分がカキを弱らせた可能性を指摘する。永井崇裕部長は「ここまでのへい死は過去にない。高温・高塩分という2つのストレスが長期間続き、生理的な不調が生じたとみられる」と話す。
広島湾の表層水温は8月18日に30.1℃を記録。10月14日になっても25.9℃と平年より3.1℃も高い状態だった。水温が下がらなければ身が太らないため、例年10月1日の出荷開始を、2025年は10月20日まで延期。その間も、カキへの負担は続いていた。
国の支援策は“当面の命綱”か
大量死の問題を受け、国や県は支援に動き出した。
農林水産省は12月11日、被害を受けたカキ養殖業者に対し、資金繰りを支援する政策パッケージを公表した。市町の罹災証明を条件に、最大600万円または年間経営費の半分を限度として5年間実質無利子で融資。加工や流通など関連業者も支援する。すでに融資を受けている生産者も、政府の支援策を活用して追加の借り入れに踏み切る考えだ。
また、広島県も約20億円を投じ、養殖業者の再生産を支援する方針を示している。

しかし、支援策は“当面の命綱”に過ぎない。養殖業者や関連業者の間では、資金繰りへの不安に加え、原因がわからないまま借り入れを続けることへの戸惑いが広がっている。
米田社長は「今年こういうことがあって、また来年もあったりすると、カキ業界自体がなくなるんじゃないか。それくらいひどい状況だと思います」と危機感を口にした。
加工業者「影響は15億円規模」
影響は生産現場にとどまらない。
県内各地からカキを入荷し、全国のスーパーなどに出荷している広島市中区の加工業者「カネウ」では、入荷量が前年の半分以下に落ち込み、年末の繁忙期需要に応えきれていない。

村田泰隆社長は「影響は億単位。売り上げが半減すれば、今シーズンだけで10億、15億円規模になる。中小零細企業にとっては非常に厳しい」と話す。
直近の融資策だけでなく、産業としてどう支えていくのか。中長期的な視点での対策が問われている。
(テレビ新広島)
