『2025くまもとニュースの深層』15日は『経済』編をお伝えします。私たちの家計を直撃した物価高に、続く「令和のコメ騒動」年明けに控える最低賃金の改定など、様々な角度から熊本の暮らしを見つめます。
今年も物価の上昇が私たちの生活を苦しめました。帝国データバンクによりますと、今年の飲食料品の値上げは2万609品目に。特に原材料高が大きな要因で、去年の1万2520品目を大きく上回り、2年ぶりに2万品目を超えました。
また天候不順の影響で野菜の価格の変動も大きな1年に。年明けに高騰していたのがキャベツでした。農林水産省のデータでは1月には一時、平年の約3.4倍となる1キロ当たり553円にまで上昇しましたが、現在は180円台と落ち着いています。
一方で秋以降、高騰したのが熊本が全国一の収穫量を誇るトマトです。
11月下旬には平年の1.5倍となる1キロ当たり1462円になりましたが、ピークは超えたとみられます。
【熊本大同青果 川添洋平 常務取締役】
「8月の豪雨と9月10月の高温によってトマトの出荷量が減少したことが高値の原因と思う。ただ、いまはようやく出荷量も落ち着いてきたこともあり価格は平年並みに戻っている」
『ゆめタウンはません』などを運営するイズミでは、物流コストを抑えることなどで
低価格を実現したプライベートブランド『ゆめイチ』の販売に力を入れています。
【デイリーフーズ 主任中村勇樹さん】
「物価が上がっている中で『節約したい』という声が多いが一方で品質やおいしさにこだわりたいという客もたくさんいる。価格と品質に一番に寄り添い食卓のいちおし商品を届けしたいという思いでプライベートブランドを展開している」
納豆の場合だと、熊本市に本社がある『マルキン食品』と共同で商品を企画し作っていて、買い物客がより親しみを持ち安心して購入することにつながっているのではないかということです。
プライベートブランドの存在は「おいしいものを食べたいけれど節約したい…」
そんな気持ちに応える形となっているようです。
【西村勇気アナ・リポート】
「午前7時40分です。開店までまだ1時間以上あるんですが、既に多くの買い物客が100メートル以上列を作っている状況です」
ことし6月、熊本市東区の『MrMax熊本インター店』。
熊本で初めて売り出された備蓄米を買い求めようと並ぶ人の列は当初250人くらいでしたが…。
【西村】
最終的には400人を超えました。
【開店を待つ人】
「私がここに到着したのは朝5時半くらいですかね。4時半に起きて」「女房が『ぜひ行きたい』と言うもんだから」
この状況に、店側も開店時間を15分繰り上げることに…。
【西村勇気アナ】
「8時45分です。開店時間が早まりました。『5時から待っていた』という客を先頭に令和4年産・備蓄米に向かって買い物客がやって来ます」
このときの価格は5キロで税込み1944円。700袋が用意されましたが、約30分で完売する人気ぶりでした。
【買い物客】
「そうですね、これくらいの値段で買えれば助かりますよ。消費者は」
「あとは農家さんのね(支援策や増産が)今後、どうなるかですよ」
その後、新米が獲れる秋を迎え冬がやってきましたが、コメの価格は落ち着く気配を見せません。
農林水産省のデータでは、12月1日から7日にスーパーなどで販売されたコメ5キロ当たりの平均価格は4321円。過去最高値を更新した前の週から14円下がったもののいまだ高止まりが続いています。
新米が出ても、なぜ価格が下がらないのか。農家などから直接コメを買い付けて販売する卸店で話を聞きました。
【藤木米穀 藤木健太専務】
「かなり価格に振り回された1年になりましたね。」
「一つの原因になってるのは農協(JA)の概算金が高かったんで。それに合わせてみんな民間(業者)も買ってるんで高く売らざるを得ない状況になってます。」
農家の経営安定を狙い、JAが農家に前払いするコメの概算金が例年より高かったことも平均価格が下がらない要因の一つではと分析しています。高値が続く中、いま、コメの供給はどうなっているのでしょうか。
【藤木米穀 藤木健太専務】
「供給は十分にあるんで」「皆さん、(米卸店は)倉庫がいっぱいになって。」
藤木専務によると、現在コメは市場に多く出回り、ここ数週間は商品の動きも鈍化。
そのため仕入れを控えめにし、小売価格も下げたということです。
【藤木米穀 藤木健太専務】
「うちはもう、早い段階から(価格を)下げてなるべくあまり利益を取らずに売るようにはしてます。」
この日は熊本県産の新米が5キロで3780円と、全国平均より安い価格で販売されていました。
取材の最後に2026年の展望について聞いてみると・・・。
【藤木米穀 藤木健太専務】
「皆さんけっこう(米卸店は)在庫を持たれてると思うんですよね。(来年は)今年よりかは安くなると思います。」
「消費者と生産者がお互い納得する価格で落ち着いてほしいなと思いますね。」
9月、熊本県の最低賃金について話し合う審議会は現在の952円から82円引き上げ『時給1034円』にすると決定しました。
82円の引き上げは全国最大で最低賃金が1000円台となるのは県内で初めて。
来年1月1日から発効されることになっています。
「TSMCが来ているので県内の最低賃金が上がることで街中も活性化するといい」
「物価が高くて苦労している。当然 賃金上がらないと」
歓迎する声の一方、『年収の壁』を超えないよう働き控えにつながるのではという声も。
「扶養をはずれることを思うと(仕事に)入れる時間は限られる。実際はもっと働けるとしても働かないように調整することはあると思う」
大幅な賃金アップ、使用者側はどのように受け止めているのでしょうか。
八代市にある新鮮な海の幸が味わえる『いけす料理 宗弘』は正社員、アルバイトなど合わせて約40人を雇用しています。
アルバイトの賃金アップによって正社員の賃金も上げざるを得ず社会保険料といった
会社側の負担が増えることも懸念しています。
【いけす料理 宗弘 近宗 馨 副社長】
「(賃金を)もっと上げたいという思いはある。社会保険料が上がるということは、
賃金を上げたくても、その負担が会社にくるので難しい」
また『年収の壁』による働き控えで、人手不足が加速することも不安視しています。
【近宗 馨 副社長】
「従業員から『すみません、オーバーしているので』ということもある。来年はもっと厳しくなると思う。現状、原材料費から全部上がっているので、お客様への価格転嫁というよりはやりきったところがあるので利益を縮小するとか…」
県内経済への影響について専門家は。
【地方経済総合研究所 嶋田 英岳 主任研究員】
「最低賃金の引き上げの効果として実質賃金が上昇するかというと働き控えにより手取りが変わらなければ消費が増えることは難しいため県内経済への寄与度は限定的になると考えられる」「事業者にとっては継続的な生産性向上が喫緊の課題となる」