12月1日、すべての従来の健康保険証の有効期限が切れた。

今後は原則、「マイナ保険証」か「資格確認書」で医療機関を受診することになる。

しかしこの間、厚生労働省は『保険証に関する“暫定措置”』を連発している。

「後期高齢者には全員に資格確認書を送付する」「資格確認のお知らせだけでも受診できる」「有効期限切れの保険証で受診できる」など、医療現場で相次ぐトラブルにその都度対応している形だ。

全国保険医団体連合会(保団連)が実施した「今年8月以降のマイナ保険証利用状況の実態調査」では、回答した全国9580医療機関の7割に「なんらかのトラブル」が発生しているという。

しかも、半数を超える医療機関で「マイナ保険証だけでは保険資格情報の確認ができない」問題が起こっている。

「保険資格情報の確認ができない」と、その場では10割負担となる可能性がある。

政府の暫定措置は2026年3月まで。
それまでにトラブルは解決されるのか。

調査を担当した保団連の上所聡子さんと、医療現場で患者と向き合う井上美佐保団連副会長に話を聞いた。

■ずーっと続くマイナ保険証“三大トラブル”

【全国保険医団体連合会 上所聡子さん】
保団連は2023年以降、「マイナ保険証利用状況の実態調査」を6回行ってきました。

2023年6月に発表した第一回調査からずっと上位をしめているのが「3種類のトラブル」です。

*「資格情報が無効」
*「●(くろまる)で出る」
*「カードリーダー等の接続不良、認証エラー」

いずれも医療現場に混乱を招く内容ですが、特に問題なのが「資格情報が無効」です。

これは保険情報(資格情報)の確認が出来ない、つまり保険証の役割を果たしていな
いということで、第一回調査では66%、先日発表した「今年8月以降の実態調査」でも51%の医療機関で発生しています。

資格情報が無効になる原因は色々あるのですが、多くは、引っ越しや就職・転職などで保険情報が変わった時に、オンライン上の資格情報の登録・更新手続きにタイムラグが生じることで起こっています。

登録・更新手続きには、「元の保険者」と「新しい保険者」の作業が必要です。

例えば国保の人が引っ越しをした場合、まず元の保険者(転出した自治体)が古い資格情報を無効にし、次に新しい保険者(転入先の自治体)が新たな資格情報を登録します。

古い資格情報が無効にされていて、新しい資格情報の登録がまだの場合、古い方の「無効」という情報しか出なくなるのです。

この登録・更新手続きに時間がかかっていることが、トラブルの大きな要因です。

厚労省は資格変更から10日以内にシステム登録を求めていますが、実際にはもっと時間がかかっており、1~2か月以上更新されていない事例も多くあるのです。

■厚労省は10日というが、実際は…

保団連副会長の井上美佐医師によると、ある自治体では「転入者の情報は一週間分をまとめて外部委託。入力作業に1~2週間かかるので、更新は転入の手続きだけでも最大で3週間ほどかかる」とのことです。

これは実際に井上医師の患者さんが、転居後、数週間経っても「保険情報が無効」と出るので自治体に問い合わせたところ、得た回答だといいます。

これは「転入」についてで、当然、「転出」側の作業もあります。

厚労省の言う10日で済まないケースは多いと思われます。

また、「他の医療機関では利用できるのに当院では無効だった」「資格変更をしていないのに無効と表示される」といったトラブル事例も報告されていますが、原因ははっきりしません。

現在、マイナ保険証の関係で自治体などの実務負担が増えていますから、すぐの改善は難しいかもしれません。

とはいえ、保険証が1か月、2か月も使えないというのは問題です。

そもそも厚労省は「正確な資格情報のリアルタイム更新」を前提に、従来の保険証の廃止を進めました。

しかし現状、“リアルタイム更新”は完全に崩れていると言えます。


(全国保険医団体連合会 上所聡子さん)

■「●(くろまる)」はいつか無くなるのか?

【全国保険医団体連合会副会長 井上美佐医師】
トラブルの中で最も多いのが「名前や住所の一部が●(くろまる)で出る」です。
名前4文字中3文字が●という事例もありました。

●があると処方箋や診断書、領収証を出せないので、現場でその都度、手修正することになります。

また、●以外にも「大文字小文字の誤り」、「全角・半角の誤り」、「何丁目何番地がハイフン表示になっている」など、カルテ情報との不一致が多数発生しており、事務の手間が生じています。

資格情報は自治体で手入力されているようですが、人的ミスが起きていますし、なにより「表記の基本ルールが統一されていない」という根本的な問題があります。

私の印象では、●は少しずつ減っているようにも思いますが、まだまだ多く、事務スタッフの手間は増えたままです。

■本当に厄介な“カードリーダーエラー”

マイナ保険証開始以来、ずっと無くならないのが、接続不良やフリーズ、認証エラーといったカードリーダー等機器の不具合です。

顔認証の精度が低いため、暗証番号入力や目視モードへの切り替えが必要となる場合も多く、受け付けの遅延と負担を引き起こしています。

患者様が並んでいる中で、エラーが続いたり、再起動をするのは、混雑を招くだけでなく窓口業務担当者にプレッシャーを与えます。

マイナ保険証導入に際し、当初、国も一般の人も「お年寄りも慣れれば大丈夫」と言っていました。

しかし「高齢者は慣れません」。

1か月、2か月ごとの通院では、毎回スタッフによる説明が必要になっています。

暗証番号を忘れている人もたくさんいます。

実際にやってみて分かった現実です。

これまでこうしたトラブルの時は「従来の保険証による資格確認」で対応してきました。

しかし有効期限が切れ、暫定措置も来年3月まで。

数年間解決されなかった問題を、あと3か月で解決するのは難しいと思います。

患者さんと医療現場のことを最優先に考えるならば、当面はシンプルに「資格確認書」を全員に自動交付することを検討して欲しいと強く願います。

(全国保険医団体連合会副会長 井上美佐医師)

関西テレビ
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