シリーズでお伝えする『2025くまもとニュースの深層』です。

4回目の12日は『8月の記録的大雨』です。

『線状降水帯』が猛威を振るい、内水氾濫や土砂災害が各地で相次ぎました。

今回の大雨の特徴などについて専門家を取材すると共に、復旧道半ばの被災地の今を見つめます。

【渡辺 俊一朗 カメラマン】(8月10日)
「午後9時45分の菊池市です。バケツをひっくり返したような雨が降り注いでいます。雷の音も聞こえます」

【西村 勇気 アナウンサー】(8月11日)
「午前0時半の熊本市北区です。旧国道3号線、車が冠水状態で2台とまっている状況です」

2020年の7月豪雨でも熊本に甚大な被害をもたらした『線状降水帯』がことし8月、再び熊本を襲いました。

『線状降水帯』が10日夜から11日の午前中にかけて13時間以上にわたって熊本県にかかり続け、記録的な大雨となりました。

玉名市や八代市、上天草市など7つの市と町に大雨特別警報が出されました。

【郡司 琢哉 キャスター】(8月10日)
「熊本市中央区の通町です。雨で景色が白くかすんでいて、市電のレールも完全に水に漬かってしまっています」

熊本市では、24時間で8月の月間降水量の2倍に当たる380ミリの雨を観測。これは、多くの犠牲者を出した72年前の『6.26白川大水害』の時の雨に匹敵します。

今回は、この時のような『白川の氾濫』という最悪の事態は免れましたが、堤防からの越水が確認された井芹川や坪井川の流域では内水氾濫も重なり、住宅や車などの浸水被害が相次ぎました。

【渕上 洋平 カメラマン】(8月11日)
「午前9時半の八代市です。降り続いた大雨で道路が冠水し、川のようになっています」

平野部の至る所で内水氾濫が起きた八代市では土砂災害も相次ぎました。

九州自動車道八代インター近くの竜峰山では、大規模な土砂崩れが発生。ふもとの興善寺町を土石流が襲いました。

【TNCヘリ リポート】
「道路や住宅に大量の土砂が流れ込んでいるのが確認できます」

崩れた大量の岩や土砂が町を覆いつくしました。

【被災した加来 美和子さん】
「晴天の霹靂。びっくり。まさか、わが身。〈この地に住んでいていいのだろうか〉昨日の夜も〈住めるかな…〉という話もした」

リフォームしたばかりだった自宅が被災した加来 啓治郎さんと美和子さん夫妻です。

自宅だけでなく、手づくりの庭や畑も変わり果てた姿となり、夫婦は肩を落としながら片付けに追われていました。

【熊本県立大学 島谷 幸宏 特別教授】
「特に八代市や熊本市などで自動車の浸水被害が非常に大きくて、内水氾濫が、非常に市民生活に大きな影響を与えたのが、今回の水害の特徴」

河川工学が専門の熊本県立大学、島谷 幸宏特別教授です。

『内水氾濫』は、市街地に降った雨が川の水位の上昇により排水できなくなり、マンホールや用水路などからあふれる現象です。

島谷 特別教授は、気候変動の影響で、これまでは〈数十年に一度〉とされていた規模の大雨災害が、〈数年に一度〉の頻度で起きていると分析。それに伴い「『内水氾濫』も起こりやすくなっている」と指摘します。

【熊本県立大学 島谷 幸宏 特別教授】
「なぜかというと、都市の排水機能は10年に1回や20年に1回の洪水に耐えうるようにできている。大きな川は50年に1回、数十年に1回の洪水に耐えうるようにできているので、『内水氾濫』のほうが起こる確率がずっと高い。それに私たちはこれから備えていかないといけない」

5年前の7月豪雨をきっかけに産官学と市民が連携した『共創の流域治水』の研究と普及に取り組む島谷 特別教授。『内水氾濫』への対策の一つとして『雨庭』をあげます。

住宅の屋根などに降った雨を水路に直接流さず浅いくぼ地に一時的にためて地中にゆっくり浸透させる『雨庭』。河川に雨水が一気に流れ込むのを抑え、洪水被害の軽減につながるとされています。

【熊本県立大学 島谷 幸宏 特別教授】
「あふれていない。雨庭から水があふれることはなかった」

熊本市東区にある熊本県立大学内に造った『雨庭』では、降った雨の水路への流出をどの程度、抑えることができるかなどを観測。8月の大雨では、速報値で降った雨の流出を約50%カットしたということです。

【熊本県立大学 島谷 幸宏 特別教授】
「個人でも企業でも取り組める方法なので、自分たちも治水対策に関われることも非常に大きなポイントだと思う」

島谷 特別教授は『内水氾濫』対策として、『雨庭』を含めたグリーンインフラの推進などを被災した自治体に提言していく方針です。

あれから4カ月。被災地は今…。

【寺田 菜々海 アナウンサー】
「八代市興善寺町です。発災当時は、この川も道路も大量の土砂が埋め尽くしていましたが、約4カ月がたってきれいに取り除かれています。ただ、山に近い上の方まで登ってきますと、こちらはまだ砂利道で土砂が残っています。道路の舗装もされておらず災害の爪痕が残されています」

【興善寺町の住民】
「(被災当初より)だいぶ良くはなってきた。ボランティアとかのおかげでやれた気がする。すごく助かったが、ここら辺だけがまだ残っているから早くしてほしい」

加来さん夫妻のもとを訪ねました。

被災した自宅はその後、大規模半壊の認定を受けました。

現在、再建に向けた手続きの最中で、今も仮住まいを余儀なくされています。

それでも前を向こうと、流れ込んだ石を使って庭に花壇を造りました。

すると、一度は土砂に埋もれた植物が再び花をつけたといいます。

さらに。

【加来 啓治郎 さん&寺田 アナウンサー】
「10日くらい前にポツンと咲いて…」
(咲いとるばいって?)「はい」
(秋にも咲く?)「いや、初めて」

いつもは春にしか咲かない裏庭のソメイヨシノが、12月に入って2、3輪花を咲かせました。

【加来 啓治郎 さん&寺田 アナウンサー】
「たぶん山の栄養分が来たのかなぁと…普通咲かないからね…〈希望の桜〉とかいって…(笑)」

〈希望の桜〉が夫婦を勇気づけています。

記録的な大雨から4カ月。これからも被災者に寄り添った支援が求められます。

【スタジオ】
8月の大雨で、県内では男女4人が亡くなり、いまも男性1人の行方が分かっていません。

また、住宅の被害は12月9日現在、8481棟に上り、5年前の7月豪雨の被害件数を上回っています。(令和2年7月豪雨住家被害確定値7414棟)

住宅が被災し、仮住まいを余儀なくされている人は11月末時点で326世帯732人です。

来週月曜の『2025くまもとニュースの深層』は物価高、コメ市場、そして年明けからは熊本で初の1000円台へ引き上げとなる最低賃金など県内経済の実情とこれからに迫ります。

テレビ熊本
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