ことしの夏、大阪府柏原市にある東大阪大学柏原高校は、夢の舞台である甲子園に大阪代表として出場を果たしました。初戦で惜しくも敗れたものの、最後まで全力でプレイする姿は多くの観客を魅了しました。

しかし、甲子園出場で学校全体が盛り上がる中、学校側から衝撃の発表がありました。再来年の2027年度から生徒の募集を停止し、2029年度に閉校することを明らかにしたのです。

■突然の“閉校”に戸惑う生徒たち

そんな中での「閉校」に生徒も戸惑いを隠せません。

【高校3年生】「えーって感じ。悲しいなーって」
【高校3年生】「僕ははショックで」
【高校2年生】「甲子園出たのにもったいないっすね。応援行ったっすもん」
【高校2年生】「できることなら続いてほしい」

1963年に開校した東大阪大学柏原高校は、もともとは女子校でしたが、共学校の時代を経て現在は男子校に。野球部は今年の夏を合わせて過去2回甲子園に出場したほか、様々な部活動で輝かしい成績を残してきました。


■『高校授業料無償化』制度が閉校への決め手の一つに

なぜこのタイミングで閉校を決断することになったのか。取材班が学校を緊急取材すると、見えてきたのは私立高校の多くが抱える深刻な課題でした。

小林康行校長は「9月に(閉校)決定になったって聞いて、みんなガビーンってなっていました」と話します。校長自身も驚いた背景には何があったのでしょうか。

「1つは少子化がこれからもずっと進んでいくということと、男子校でずっとこれからもやっていくということにもすごく困難な課題があります」と校長は説明します。

同校は昨年度、募集定員300人に対して入学した生徒は半分以下の125人。定員割れをしながらも何とか経営を続けてきました。

■「経営上、圧迫される」定員割れの学校は財源を十分に確保できず吐露

しかし、大阪府が昨年度から段階的に導入している『高校授業料無償化』制度が、閉校への決め手の一つになったと言います。

この制度では、授業料を年間63万円までは国や府が負担しますが、超過分については学校側が負担しなければなりません。

つまり、私立高校特有の設備投資に力を入れたくても授業料を上げることはできず、さらに定員割れの学校は財源を十分に確保できないという現実があります。

(Q:設備投資するほど学費を上げないといけない?)
【東大阪大柏原高校 小林康行校長】「そうなんです。値上げすると学校が負担しないといけないので経営上すごく圧迫される」

■関西有数の広さを誇る室内練習場など力を入れてきた野球部監督は

閉校の影響を最も受けそうなのは部活動です。

取材班は、学校のグラウンドを見学しました。内野は甲子園と同じ土を入れるなど、より甲子園に近づける工夫がされています。他にも関西有数の広さを誇る室内練習場もあり、野球部に力を入れてきた様子がうかがえます。

元プロ野球選手で野球部を指導する土井健大監督は、閉校の知らせを受けてどのような思いでいるのでしょうか。

【野球部・土井健大監督】「僕が携わって閉校になるということは、責任も感じますし、もっとどうにかできなかったかなというのはあるけども、未来に向けて何か新しいものをスタートさせられるきっかけにもなると思うので、僕としては、与えられたことを精一杯やる」

野球部は来年4月に入部予定の30人が最後となりますが、「この3学年で必ず結果を出します!」と意気込みを話しました。

■「私学無償化が追い風」 共学化で生徒数倍増の学校も

授業料無償化で閉校に追い込まれるところもある中、この制度をチャンスに捉えている高校もあります。

1908年に女子校として開校した「信愛学院高校」。定員割れに頭を抱えていましたが、3年前に共学化するという決断を下したところ、風向きが一気に変わりました。

【大阪信愛学院高校 矢嶋哲副校長】「やはり男女別学を望む子たちがパイとしてすごく少ない。やっぱりそこが生徒募集の上ではネックでした」

共学となった2022年度、入学希望者が増加。前年度のおよそ2倍となりました。

生徒たちからも「どっちもといる方が社会に出た時の方がいいと思ったので、共学でいいと思います」という声が聞かれました。

さらに、こちらの高校では“授業料無償化”が追い風になりました。

【大阪信愛学院高校 矢嶋哲副校長】「本校としてはありがたい制度だと思っています。公立と私学がほぼ同じ土俵に乗ったという形で、しっかり大学進路を目指していくという生徒・保護者が私学の方に流れてきている」

■「教育の質の向上には役立たない」専門家が警鐘

私立高校の経営を大きく左右する授業料無償化について、教育費用の専門家は“大阪モデル”に警鐘を鳴らします。

【日本大学 末冨芳教授】「収入が増えないと学校法人としては必要な投資ができない。それ(授業料無償化)は親の負担を軽くするだけで、教育の質向上には役立ちません」

負担を軽減し、教育の機会を均等化する「私学授業料無償化」。

一部の私立高校では、入学金を上げてしてなんとかやりくりしようとするところも出てきており、来年度の入学金は23万円を超えるというところもあります。

多くの高校が厳しい選択を迫られそうです。

(関西テレビ「newsランナー」 2025年12月4日放送)

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