プレスリリース配信元:あしなが育英会
貧困率53.5%。食料を買えない、学業・生活のためにアルバイト、家族の介護、部活の諦め…ウェルビーイングへの影響懸念

保護者調査票の自由記述より
遺児や親に障がいがある子どもたちを奨学金等で支援する一般財団法人あしなが育英会(本部 東京都千代田区、会長 村田治)は、2025年8月から9月にかけて、高校奨学生とその保護者それぞれ3907人を対象に調査を実施し、12月1日の記者会見で結果を公表しました。
本調査は、子どもの貧困研究の第一人者である、東京都立大学の阿部彩教授の協力を受け実施。高校奨学生と保護者あわせて4421人が回答し、奨学生世帯の貧困率が53.5%にのぼることが明らかになりました。また、貧困が高校奨学生のアルバイトの負担増や、友達と遊んだり自由に部活動をしたりという高校生にとっての「当たり前」を奪う要因になっている実態も浮き彫りになりました。
<調査結果の概要>
以下における「一般」は、東京都立大学子ども・若者貧困研究センター(2023)「令和4年東京都こどもの生活実態調査」の結果をいう
奨学生世帯の経済的貧困が深刻。特に障がい世帯の生活が厳しい
- 平均収入は249.3万円、貧困率は53.5%。
- 保護者の障がいを理由に奨学金を申請した世帯の平均収入は234.1万円と、遺児世帯より低く、貧困率は60.7%と高い
- 約5世帯に1世帯が、過去1年間に税金・社会保険料を滞納した経験あり
- 電話代、電気代、ガス代などの料金の滞納経験率は、一般の5~7倍にのぼる
- 52.2%が、過去1年間に「お金が足りなくて食料を買えなかった」経験を有する
高校奨学生の剥奪指標(欲しいのにない)に、一般との大きな差
- 「新しい洋服」が欲しい 30.7%=一般の9.8倍
- 「2足以上のサイズのあった靴」が欲しい 16.4%=一般の6.1倍
- 「スポーツや趣味の道具・ウェア」が欲しい 22.3%=一般の5.9倍
- 「友人と遊びに出かけるお金」が欲しい 36.2%=一般の5.6倍
高校奨学生の部活動参加率は、一般より8.4ポイント低い
- 背景に家の事情(家族の世話など)、アルバイト、費用などの問題
- 生活や学業の維持継続のためにアルバイトをしている高校奨学生が一定数
- - アルバイトの理由:「自分自身の生活費のため」(43.3%)、「学校で必要な物のため」(19.9%)、「世帯にお金を入れるため」(17.5%)
高校奨学生の21.7%が「ヤングケアラー」
- 親に障がいがある奨学生に絞ると、25.8%が日常的に家族のケア
- 高校奨学生は、ケア負担と金銭的困窮の両方を抱えている確率が極めて高い
総括:経済的貧困と、貧困が引き起こす様々な問題が、ウェルビーイングに影響
本調査では、あしなが高校奨学生世帯の経済的貧困と、高校奨学生の生活における複数の問題が明らかになった。これらの問題は、子どもたちのウェルビーイングにマイナスの影響を及ぼすと危惧される。
「幸福感」や「ゆとり」という言葉はウェルビーイングの重要な要素の一つであるが、これを「贅沢」と混同してはならない。高校奨学生やその保護者は、決して「贅沢をしたい」のではなく、「周囲の人が当たり前にしていることを、当たり前にしたい」と願っているにすぎない。その「当たり前」が貧困によって損なわれている現状が、浮き彫りになったといえる。まずは「当たり前」の生活が担保されることが、ウェルビーイングの実現に向けた第一歩である。
詳しい調査結果は「調査レポート」をお読みください。また、保護者調査票の自由記述欄の抜粋も、合わせてご覧ください。
調査レポート
保護者の自由記述抜粋集
調査について
実施 一般財団法人あしなが育英会
協力 阿部 彩(東京都立大学人文社会学部教授・子ども・若者貧困研究センター センター長)
名称 第1回あしなが高校奨学生調査
目的 経済的貧困が実際にどのような格差を生み出しているかを明らかにする
対象 一般財団法人あしなが育英会の高校奨学生とその保護者、それぞれ3907人(一世帯に複数の高校奨学生のきょうだいがいる世帯は、一番上の子のみを回答者とした)
回答期間 2025年8月6日~9月5日
回答方法 オンラインと郵送の併用
回答数 高校奨学生2157人(回答率55.2%)、保護者2264人(回答率57.9%)

12月1日にあしなが育英会本部(東京都千代田区)で開いた、調査会見。調査に協力した東京都立大の阿部彩教授(左から2番目)も出席した。
阿部彩教授の会見でのコメント(要旨)
私は長年、子どもの貧困問題に関わってきましたが、今回の調査には革新的な点が三つありました。
一つは“高校生を対象にしていること”です。高校生への支援は小中学生に比べ手薄で、授業料免除などはあっても、生活そのものを支える制度はほとんどありません。今回の調査では、高校生自身がアルバイトをしてもなお生活に苦しんでいる姿、部活や友人関係など、普通なら経験できるはずのことを諦めている姿が浮き彫りになりました。
二つ目は“障がい者家庭の厳しさが数値として見えたこと”です。障がいのある親を介護するために、もう一人の保護者が働けない。そのうえ通院費用や介護費用がかかる。つまり二人親世帯なのに、ひとり親以上に深刻な状況に置かれているケースがあるのです。ここを政策としてどう補うかは重要な論点です。
三つ目は“子どものケア負担の分析”です。近年ヤングケアラーという言葉が注目されていますが、今回は『1日の時間をどう使っているか』を細かく聞いたことで、平日に2時間以上家のケアや家事を担っている高校生が少なくないことがわかりました。「令和4年東京都こどもの生活実態調査」と比較しても、子どもが家族の介護を担う割合が非常に高い。こうした実態を受け止め、政策面での手当てをもっと厚くしなければいけません。
あしなが育英会について
一般財団法人あしなが育英会は、病気、災害、自死等により親を亡くした子どもや、親に障がいのある子どもを支援する、民間非営利団体です。
現在約7000人の遺児たちが本会奨学金を受け、高校や大学等へ通っています。奨学金事業に加え、小中学生遺児を対象とした「心のケア」やオンライン学習支援プログラム、奨学生の連帯と自立を促すサマーキャンプ、大学奨学生寮の運営など、遺児たちを物心両面でサポートしています。
設立:1993年4月
会長:村田 治
本部:東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館本館4F
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