16年間県政を率いた湯崎英彦知事が「やり残した最大の課題」と語ったのは、人口減少への危機感だった。転出超過が4年連続で全国最多の広島県。解決の糸口をどうつかむのか?
11月28日の退任を前に話を聞いた。

解決の糸口は「広島ならではの企業」

広島県の人口流出は深刻さを増し、2024年には転出者が転入者を1万人上回った。
転出超過は4年連続で全国ワースト。若い世代、とりわけ20代女性の転出は出生数の減少にも直結している。その背景には「大学進学」「新卒就職」「UIターン」という、若者が広島を離れる3つの波がある。

退任前、テレビ新広島の番組に生出演した湯崎知事
退任前、テレビ新広島の番組に生出演した湯崎知事
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ーー解決の糸口をどう捉えていますか?

湯崎知事:
広島の魅力を小さいころからしっかり認識することが大事だと思うんです。例えば、家族で自然体験をした子どもは、大人になって戻ってくるという傾向があるんですよね。
仕事の問題もあります。県はこの数年で210社以上の企業を誘致してきましたが、東京は“巨大なブラックホール”みたいな存在で、まだまだ吸い寄せられてしまう。広島ならではの企業を増やしていかなくてはいけない。

ーー転入を増やすためにも、仕事の環境づくりが重要になりますね。

湯崎知事:
仕事は最も大きな要素です。広島は今、本当に人手不足ですから産業の転換を進めなきゃいけないんですが、ここには大きなジレンマがあります。今ある企業は競争力もあって強い。だからこそ、簡単には転換が進まないんです。でも、ものづくりとデジタル系をもっと融合させるなど、新しい形をつくっていく必要があると思います。

広島に転入していた層も関西の大学へ?

県外への転出が増える一方で、もともと広島を目指していた周辺地域の若者の流れにも変化が生じている。

社会情報メディア論が専門 広島大学大学院・匹田篤 准教授
社会情報メディア論が専門 広島大学大学院・匹田篤 准教授

ーー匹田さんは若い世代と接する立場として、どのように感じていますか。

広島大学大学院・匹田篤 准教授:
これまで広島は、中四国や九州からも若い人が転入してくる“受け皿”だったと思います。でも、その広島の魅力が少し薄れてきているように感じますが、いかがですか?

湯崎知事:
それはですね、18歳人口が減って大学に入りやすくなり、関西の大学が非常に力を入れているんですよ。その結果、これまでは広島に来ていた周りの県の若い人たちが、こぞって関西に向かう現象が起きています。少子化で“取り合い”になっている部分もありますし、定員を埋めるために関西の大学が頑張っているという事情もあります。

若者が広島を離れるだけでなく、かつては“流入”していた層も関西へ流れている。二重の人口流出が進む現状が浮かび上がった。

「やり残したこと」を問われて

ーー16年間で、やり残したことを一つ挙げるとしたら?

湯崎知事:
やはり人口減少の問題ですね。自然減も大きいし、出生率も下がっている。社会増だった時期もありましたが、また減に転じています。

湯崎知事が語気をわずかに落とした瞬間だった。県政の中でも未来の広島を左右する大きなテーマである。

湯崎知事:
ただ、あまり悲観的に言うと“自己実現予言”になってしまうんですよ。心理学的な考えでは、自分の言葉が現実を引き寄せてしまう。だからもっとポジティブに取り組むことが大事だと思っています。

「もっとポジティブに」という前向きなメッセージには、この問題に向き合い続けた知事の実感がにじむ。
こうした課題を未来へどうつなぐのか。その一つの答えとして、知事選では自らが立候補を打診した元副知事・横田美香氏を支援し、初当選へと導いた。

県政のバトンを受け継いだ元副知事・横田美香氏
県政のバトンを受け継いだ元副知事・横田美香氏

ーー退任後はどうしますか?

湯崎知事:
私が教えてもらいたいぐらいです。まだどうなるかはわかりません。これからいろんな人の話を聞いて考えたいですね。

政治活動は続ける意向を示しつつ、「今後の自分」をどう描くかはこれから。16年の重みを経て、次への“余白”には静かな意欲が宿っていた。

【湯崎県政16年を振り返る 終】

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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