奈良県川上村の村道で発生した土砂崩れ。井光地区をつなぐ唯一の道が塞がれ、一時、住人が孤立状態になりました。

当時、現場では雨は降っていませんでしたが、なぜ土砂崩れは起こったのでしょうか。

また、“日本最大級”の地すべり発生地での対策を取材しました。

■奈良県川上村の村道で土砂崩れが発生 けが人なしも村が孤立

22日夜、奈良県川上村の村道で発生した土砂崩れ。斜面は長さ25メートルほどにわたって崩れ落ち、幅およそ4.5メートルの道が塞がれました。

けが人はいませんでしたが、現場は国道169号と井光地区をつなぐ唯一の道で、32世帯42人の住人が孤立状態となりました。

■「不安ばかり」住人の不安続く…

発生から4日たった26日、取材班は現場へ…。

【記者リポート】「大きな岩などは撤去されていますが、依然として作業は続いていて、緊急車両以外は通行止めとなっています」

川上村によると、電気や水道は使えますが、今も、一般車両の通行はできず、不自由な生活が続いているといいます。

取材班は、役場の職員の付き添いで通院のため村の外へと出かけた住人に話を聞くことができました。

【井光地区の住人】「診療所に行ってね。『しんどなったらあかん、しんどなったらあかん』と、それの不安ばかりでした」

【井光地区の住人】「食料はある程度、日頃からストックする習慣があって、食料とかは不自由なく。ちょっとでもしんどならんように、けがせんように、自分たちの生活をより一層守ることが大事かなと」

■雨が降っていないのに土砂崩れ 専門家と現場へ

住民の生活に大きな影響を与えている今回の土砂崩れ。

発生前に現場では雨は降っていませんでした。そんな中、どうして土砂崩れは起こったのか。

取材班は土砂崩れを研究する京都大学の山崎准教授と現場へ向かいました。

【京都大学斜面未災学研究センター 山崎新太郎准教授】「左側のところに平滑な面がありますけれども、ああいったものが地下深いところでできた亀裂ですね」

まず目に留まったのは、今回の崩落で露出したとみられる亀裂面です。

【京都大学斜面未災学研究センター 山崎新太郎准教授】「山が隆起して斜面を作る。元々あった傷が斜面の上で開いて、そこに地下水が作用したり、自分の重力自体で、やがてごろっと転がって落ちてくる。基本的に重力の作用でじわじわじわと山自体が崩れていくのは、もう止めることができない現象です」

■土砂崩れの原因は「岩盤クリープ現象」 日本中どこの斜面でも起こり得る

今回の土砂崩れの理由として考えられるのが…「岩盤クリープ現象」。

「岩盤クリープ現象」とは、岩盤に生じた亀裂が、重力や水の力で広がったり増えたりする現象で、その結果、すべり面が完成し、土砂崩れが起こるというものです。

山崎准教授によると、岩盤クリープ現象による土砂崩れは、日本中どこの斜面でも起こり得るとのこと。

その中でも川上村のある紀伊半島は、特にそのリスクが高いことが現場からも分かるそうです。

【京都大学斜面未災学研究センター 山崎新太郎准教授】「この沢の岩が、やたらゴロゴロと非常に多いことですよね。この地域は両岸から、非常に長いタイムスケールでの話ですけど、何度も何度も崩壊が発生していることが、この川底の様子を見たら分かる」

■雨や地下水で崩落リスクは“飛躍的に高まる” しかし「対策については限界がある」

さらに、このような指摘も…。

(Q:大雨や地下水などが重なると崩落の危険性は高まる?)
【京都大学斜面未災学研究センター 山崎新太郎准教授】「飛躍的に高まります。上の方にピキピキと開いていますよね。こういう所に水が浸透していって、そこに圧力が生じるんですね。大きな水圧で岩盤を前の方へ前の方へ押し出そうとする、落下させようとすることが生じます」

生じた亀裂に大雨が流れこむことで、土砂崩れの被害が拡大する恐れが高まるのです。

死者・行方不明者が88人に上った2011年の紀伊半島水害では、『岩盤クリープ現象』で生じた亀裂に大雨が流れ込み、被害が拡大したとみられています。

しかし、その対策については限界があるといいます。

【京都大学斜面未災学研究センター 山崎新太郎准教授】「発生しそうなところは至るところにあります。ここはリスクが高そうだというところは、あらかじめ大雨の時は、“あそこが崩れるかもしれない”、“近づかないようにしてください”と呼びかける。そういう方法しか基本的にはないですね」

■日本最大級の“地すべり地帯”で行われる土砂災害対策 鉄筋コンクリートの杭を170本

発生を未然に防ぐことが難しい土砂災害のリスク。

こうした中、発生そのものを食い止める大規模な対策を行う場所があります。

奈良と大阪の境目で、大和川沿いにある「亀の瀬」地区。日本最大級の“地すべり地帯”と言われています。

資料館で過去の被害や対策について教えてもらいました。

【国交省・大和川河川事務所 堀川裕太建設監督官】「亀の瀬の地すべりは、古くは4万年前から起きていたといわれる。過去に最も大きな地すべりというのが、昭和6年~7年に起きています」

ジオラマではおよそ100年前の最も大きかった地すべりの状況を再現しています。

【国交省・大和川河川事務所 堀川裕太建設監督官】「山全体が地すべりを起こしてるのですが、横を流れる川ごと地すべりを起こしてます。それによって、大和川が閉塞した。長い所では8カ月ぐらい、ずっと水が引かなかった」

これが当時の様子で、大和川がせき止められ、上流の奈良県側で水害が発生。

再び地すべりが起きると大阪府側にも土砂が流れ込み、深刻な被害が発生すると想定され、国は63年前から大規模な工事を始めました。

これまでに投じた金額はおよそ945億円。

一体、どんな対策なのか…。

【国交省・大和川河川事務所 堀川裕太建設監督官】「地すべりを物理的に抑えるということで、鉄筋コンクリートの杭を、合計170本ほど打っている。大きいもので『通天閣』ぐらいの高さの杭がずらっと亀の瀬地区の中には入っている」

■地下水や雨水を土の中に貯めない『排水トンネル』

さらに見せてもらったのは、地下水や雨水を土の中に貯めないようにするという排水トンネル。この排水トンネルは、7本設置されています。

【国交省・大和川河川事務所 堀川裕太建設監督官】「上見てもらうと、パイプが見えるかと思います。これが土の中の水を抜くためのパイプ。土の中の水がパイプから流れ出て、排水トンネルに集まる」

(Q:今流れてるのが地中の水?)
【国交省・大和川河川事務所 堀川裕太建設監督官】「常にこれぐらいは水が出ていまして、雨が降るとさらに量が増えてくる。それが地すべりを誘発するということになる」

ひとたび発生すると我々の命や生活を脅かす土砂災害。被害を拡大させないために、場所の特性に応じた対策が求められています。

(関西テレビ「newsランナー」2025年11月26日放送)

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