「餃子の王将」の運営会社の社長が射殺された事件から12年。

26日、初公判が行われ、被告の暴力団幹部の男は、「私は決して犯人ではない」と無罪を主張しました。

「無罪ちゃう言うてるやろ!工藤会が何やねん!一般人に手出していいんか!」

開廷後、廷内に響き渡った叫び声。注目の裁判は異例の展開となりました。

■「無罪ちゃう言うてるやろ」悲痛な叫び声が法廷内に響き渡る

【記者リポート】「午前9時半過ぎです。田中被告を乗せたとみられる車が、京都地裁に入ります。後部座席にはついたてがあり、車内の様子をうかがうことはできません」

京都地方裁判所に入ったのは、特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部、田中幸雄被告(59)。

田中被告は12年前の2013年、何者かと共謀し、王将フードサービスの社長だった大東隆行さん(当時72歳)を射殺した殺人などの罪に問われています。


■逮捕の決め手はDNA鑑定 直接証拠はなく、未だ動機も分からず…

事件から9年後、逮捕の決め手となったのは、現場のタバコの吸い殻から田中被告と一致するDNAが検出されたことなどでした。

しかし、目撃証言や犯行に使われた銃など、被告の事件への関与を明確に示す直接証拠がなく、さらに動機もいまだに分かっていません。

そんな中で行われる注目の裁判。

当時、大東さんの趣味だったハトの世話などを任され、事件の第一発見者となった富岡正和さんも26日、裁判所へ向かいました。

【事件の第一発見者・富岡正和さん】「長いようで短かったね。誰に頼まれたかしらんけど喋ってほしい」

■「任侠の志で濡れ衣は甘んじて受け入れるが」と無罪主張

過去、民間人に危害を加える事件を数多く起こしてきた工藤会。

そうした背景を考慮してか、この裁判は裁判員裁判から除外され、裁判官のみで行われます。

裁判の争点は田中被告が大東さんを殺害したかどうか。法廷で何が語られるのでしょうか。

午後1時半に開廷。白いシャツにスーツ姿で、法廷に現れた田中被告。その口から出た言葉は…

【田中被告】「私は決して犯人ではありません。任侠の志として濡れ衣の一つや二つ甘んじて受け入れます。だからと言ってセンセーショナルな事件までは到底承服できない」

これを受けて弁護側が「田中さんの言う通りで、犯人ではありませんので無罪です」と主張しました。

■「うちの大切なお父さんを殺しやがって…」ついたての奥から悲痛な叫び声

すると検察側のついたてなどで隠された場所から、「工藤会がなんやねん。一般人に手出していいんか。うちの大切なお父さんを殺して」などという叫び声がして、廷内は騒然。

急遽、一時休廷となり、田中被告は退廷しました。

その後再開し、行われた検察側の冒頭陳述では、「12月17日から19日の間、組員らに『旅行にいく。電話は出られない』などと伝えて音信不通になり、組事務所への出入りもなかった」と、事件の前後、音信不通だったと述べました。

また、事件の後、被告は携帯のメモ機能に「警戒を解いてはならない。息をひそめて行動しろ。深海魚のように人知れず泳ぎ回れ」などと保存していたと指摘。

一方の弁護側は「検察側は間接事実で立証しようとしているが、いずれも決め手ではない」と述べたほか「田中さんは当日、福岡にいた可能性がある」とも主張しました。

■検察側が『被告以外犯人ではありえない』ところまで証拠を積み上げられるか

波乱の展開となった初公判を傍聴した記者の報告です。

【酒井記者】「きょうの公判は通常と異なり、証言台や裁判官席のあるエリアと傍聴席が、高さ2メートルほどの透明の防弾パネルで区切られ、開廷直前まではパネルの上からブルーシートで覆われ、傍聴席から前の様子は見えない形となっていました。

さらに検察側には大きな衝立が設置され、誰が座っているか隠しているような形でした。

その隠された席から『工藤会が何やねん。うちの大切なお父さん殺して』などと泣き叫ぶような女性の声がしたとき、私は傍聴席にいました。

急に大きな声がしたので、一瞬何が起こったのかわかりませんでしたが、悲惨な殺され方をした大東さんの関係者の悲痛な叫び声のように聞こえました。

また印象的だったのは、時折、田中被告が傍聴席を見渡すような仕草が見られたことです。暴力団が絡む裁判では、関係者が傍聴席に訪れることがあります。田中被告も知っている顔があるかどうか確かめたのかもしれないと感じました」

【吉原キャスター】「この裁判というのは直接証拠がないということで、立証が大変難しくなるとも言われていますが、今後の裁判のポイントはどういうところでしょうか」

【酒井記者】「弁護側は『犯人ではない』と無罪主張となりますので、間接証拠しかない中、検察側が『田中被告以外犯人ではありえない』といえるレベルまで証拠を積み上げられるかがポイントとなります」

■工藤会は「絶対に『親分に言われた』と言わない組」ジャーナリスト鈴木哲夫さん

ジャーナリストの鈴木哲夫さんは福岡の放送局で記者をしていた際に、工藤会の取材をしていました。

【鈴木哲夫さん】「ちょうど警察担当で、工藤会、当時は工藤連合って言っていました。工藤会は2つポイントがあって、1つは民間人とか一般の人に危害を加えるんですね。そういう事件たくさんあったんですよ。だから、今度の裁判でもそういうところに非常に気を遣っている。

もう1つは、組の中の『上意下達』と言っていいかな。とにかく『親分に言われた』とか、絶対言わない。『誰がやった』とか組の中でも、絶対にそういうことを言わない。

徹底して、工藤会の1つの看板と言ってもいいぐらい言われていた。だからそういう意味では、とにかく物証が少ないので、そういう証言でベラベラみんなが喋って『あの人こうしてた』なんてことは絶対にやらない組ですから。

だから物証をどう積み上げるかがここにかかっているので、検察側にとっては難しい、厳しい裁判になっていくかなって気がします」

事件の真相は明らかになるのか。判決は来年の10月に言い渡される予定です。

(関西テレビ「newsランナー」2025年11月26日放送)

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