みやざき中央支援学校の児童・生徒たちが制作した絵画や立体物など68点の作品が並ぶアート展「ゆめいろステーション」が宮崎市で開催。言葉だけでは伝わりにくい個々の思いや感性が、自由な発想で表現された作品群は、鑑賞した人に新たな視点と共感をもたらしている。同校では、アート活動を通じて障害や支援学校への理解を深め、誰もが共に生きる「共生社会」の実現を目指している。
自由な発想で制作された作品が並ぶ
宮崎市のアミュプラザで開催されているアート展「ゆめいろステーション」(2025年11月18日~12月15日)

4回目の開催となる展示会には、みやざき中央支援学校(宮崎市)に通う知的障害や知的障害を伴う肢体不自由のある児童・生徒たちが制作した絵画、貼り絵、立体物など、個性豊かな68点の作品が展示されている。

会場には、カラフルな建物で埋め尽くされた理想の街を描いた作品や、セロファンテープを細く割いて表現した雨と黒い雨雲を晴らすための銃が描かれた「闇を打つ2つの銃」、図鑑や画像を見比べながら忠実に宇宙を表現した「宇宙」など、制作者それぞれの感性や思いが詰まった作品が並ぶ。

アート展開催前に学校に取材に行くと、この日、中学1年生が段ボールを使って理想の街をつくっていた。

カラフルな建物で埋め尽くされた「ワクワクの詰まった街」。

中には、三角形の箱の中に色とりどりの画用紙が詰め込まれ、華やかさを放っている作品も。3年生16人で力を合わせて作り上げたものだ。

制作した中学3年生は、「楽しくてうれしい気持ちになります」と語り、ハートの形にできた部分を一番きれいにできたところだと話した。
また、別の3年生は、画用紙をくるくる巻いて止める作業が難しかったとしながらも、「完成した時はうれしかったです」と笑顔を見せた。
16人の生徒たちの力作が一つになった作品は、色使いや細かな部分の形など、それぞれの工夫が光る魅力的な仕上がりとなっている。
アートを通じた「共生社会」へのメッセージ
このアート展は、アートを通して障害や支援学校について知ってもらい、誰もがともに生きることのできる「共生社会」実現のきっかけとなることを目指して開催されている。

小豆野雅子教諭:
私たちが想像するはるか斜め上をいくような色を使ったり、形にしたり、そこにその色を置くんだ、というのは私たちも気持ちが広がっていくような作品作りをしているので、(作品を見た人の)これでいいのか、といった発想の転換であったり、自由な心の開放を目指したいと思っています。作者であるその子自身の『らしさ』を感じてもらえたらうれしいなと思って作品展を企画している。
パリで個展を開いたOBも

こうしたアート活動からは、国内外で活躍するアーティストも生まれている。

みやざき中央支援学校のOBで宮崎県内在住の画家、中武卓さんは、2022年にパリで開いた個展で出品した14作品全てが完売し、自由な発想で描かれた作品が高い評価を受けた。

中学時代の恩師である長曾我部徹さんは、中武さんの作品に心を打たれ、創作活動を支え続けている。

長曾我部徹さん:
花を描いているのは中学時代から。教室にある花を描くというのが自然と習慣化されて、いつもはうちの庭の花とかを描くことがほとんど。

週に1回、長曾我部さんのもとで絵を描く中武さんは、この日も普段通り、1時間ほどで作品を完成させた。
絵を描くことについて中武さんは「今日楽しかった」と話し、茎の線を描く「シュッ、シュッ」という表現に楽しさを見出していた。

長曾我部さんは、「しゃべれないから、いろんな気持ちが(絵に)出ているっていうのも言えるかもしれない」と、中武さんの絵について語る。
長曾我部徹さん:
僕たちは普通に会って話したりするが、彼はそういう言葉を言わない。そういう気持ちや『今日は晴れて気持ちがいいね』というのがないわけじゃないですか。それが言えなくて(心の中に)いっぱいあったらどうだって想像したら、ひとつのアウトプットの場になっているのかもしれないなって。
アートは、中武さんにとって感情を表現する重要な手段となっているようだ。

長曾我部徹さん:
(評価に対して)嬉しいですとは言わないけど、家族などの周りの人が喜んでいるというのは感じているので、必ず何かに還ってくると思う。

中武さんに描いていただいた竹下凜アナウンサーの画。独創的であり、特徴も捉えている。

「ゆめいろステーション」に並ぶ作品も、それぞれが制作者の思いを込めたものばかりだ。

言葉を介さないアートだからこそ、制作者と見る人をつなぐことができる。お互いを知ることから始まる「共生社会」において、アートはその渡し舟となるかもしれない。
(テレビ宮崎)