いまや中学校の授業で、会社の作り方や株式の仕組みを学ぶ時代。子どもたちが始めた小さなビジネス“プチ起業”を取材した。
小さなスペースが1軒の店舗
2025年10月5日、福岡市東区の『ガーデンズ千早』で開催された子どもマルシェ。子どもたちが主体で商品を作り、販売するイベントだ。

客とやり取りする小学6年生の湯野葵さん。「人と話すことやみんなの前で話すのが、いまはまだ出来ないけど、ちょっとはできるようになりました」と照れる葵さんだが、客とのやり取りも板に付いている。葵さん、実は小学生ながら事業を立ち上げたのだ。
この日、取材班が訪ねたのは、福岡・新宮町の『新宮CoCoスクエア』。企業のスタートアップ支援を主に行っている。店内には店長を務める葵さんの姿があった。販売しているのは自分の作品だ。

BOXで販売されていたのは、アルコールと特殊なインクで製作する『アルコールインクアート』。作品は全て、葵さんの手作りで、この場所が葵さんの事業の拠点となっている。

このBOXは、月2000円のレンタル料を支払うことで、子どもも商品を置いて販売することができる。現在、レンタルボックスの利用者は約100人。そのうち4つのBOXを子どもたちが利用している。
この小さなスペースが、いわば1軒の店舗なのだ。
トイレ掃除も店長の大切な仕事
この試みを立ち上げたのは『新宮CoCoスクエア』センター長の平井良明さん。子どもも使えるようにした理由を「いまの時代はどうしても、仕事というと就職になっていますが、子どもたちにも自分たちで会社を興したり、事業を興こしたりするのも仕事だということを分かって欲しい」と話す。

3年前にアルコールインクアートを始めたという葵さん。インクを専用の紙に垂らし、その上からアルコールを吹きかけるとインクが広がり、独特の模様が浮かび上がる。世界にひとつだけの自分の作品なのだ。

母親の勧めもあって2025年6月からBOXを利用しアートの販売を開始。小さなスペースが葵さんの発信、そして起業の場になったのだ。

BOXの利用条件のひとつに1日店長がある。接客は勿論だが、トイレ掃除も店長の大切な仕事だ。「家でトイレ掃除はしないです。トイレ掃除はこんなに難しいんだ、と思った」と話す葵さん。

また「お金に対して厳しくなった。本当に、これは要るのかと考えたりして。前はあんまり考えていなかった」とも話す。
海洋プラスチックごみについて知って
『地球にやさしい店』と記されたひとつのBOX。陳列スペースには、ボールペンやペンダントなどが並ぶ。

商品を制作したのは中学1年生の富塚悠貴さん。富塚さんが、このスペースを借りたのは、或る思いからだった。「海洋プラスチックという海に落ちているゴミを拾っています」と話す富塚さん。「僕が作っている商品をお客さんが買って貰って、環境問題について知って欲しい」のだという。

富塚さんが使うのは、海の魚の量を近い将来上回るという試算もある海に漂うプラスチックのゴミ。それを加工してペンダントなどに仕上げる。

富塚さんは小学生の頃から、友人と一緒に自宅近くの海で清掃活動を行ってきた。大好きな海や魚を守りたいからだ。

「大きなゴミは、段々、減ってきている代わりに、ゴミはどんどん小さくなっていて、拾うのが難しくなってきてます」と富塚さんは、海を取り巻く異変について話す。

海岸に打ち上げられたプラスチックゴミを活用して作る富塚さんの作品は、1つ100円から500円ほどで販売されているが、材料費や手間などを考えると採算が取れないのが実情だ。

しかし、それでも作り続けるのは美しい海を取り戻したいとの思いからに他ならない。

「手間を考えると『値段を上げたい』と思ったりしますけど、海洋プラスチックについて知って欲しいのが目標なので、より多くの人に知ってもらうためには、安くてもいいのかな」と富塚さんは話す。

広がりをみせる子どもたちのプチ起業。増加する背景には、SNSの発達などの技術革新、お金や株に関する教育等の変化、そして働き方の多様化、副業の肯定など社会の変化があげられる。

自ら考え、価値を生み出すだけでなく社会問題をも発信していく子どもたちの起業の動き。BOXを運営している平井さんもこうした活動を支援していきたいと話す。

「子どもたちのまだ先は長いですけども、創業、起業を含め、いろいろなことにチャレンジして欲しいなと。それこそ、自分の活躍の場所を見つけて欲しいと思っています」
(テレビ西日本)
