わずか0.01mmの世界
金属が回り、刃が触れ、静かな集中が生まれる。わずか0.01ミリの世界で、松山工業高校2年で機械技術部の林杏奈さんは日々、旋盤という機械と向き合っている。
松山工業高校機械技術部・林杏奈さん:
「残り100分の1(ミリ)を削りたいとき、間違えて入れすぎてしまったときが一番ダメージが大きいです」
その手にかかれば、1000分の1ミリの精度で金属を削り出すことも可能だ。
機械技術部旋盤班で技を磨く林さんは、高校生ものづくりコンテストの愛媛大会・四国大会で優勝し、全国大会への切符を手にした。その結果は…。
金属を思い通りの形に削る”ものづくり”の世界
大きな機械を器用に操り、金属を思い通りの形に削り出す、『ものづくり』にかける青春を追った。
松山工業高校機械技術部2年・林杏奈さん:
「作品を作り終わった時に、先生に見せて『とてもいい作品だ』って言ってくれることが一番うれしいです」
林さんが操るこの大きな機械。「旋盤」と呼ばれ回転する台に取り付けた金属を専用の刃物で削り、加工するもので、自動車産業を始め、私たちの生活にとってなくてはならない技術だ。

金属の円筒状部品の様々な加工技術
林さんの技を見せてもらった。
林さん:
「51(ミリ)のところを50(ミリ)にしてみます」
直径を1ミリだけ削る。加工したものを計測すると…
鈴木キャスター:
「おおー!50ミリピッタリ、すごい…」
何と、50・000ミリ!100分の1どころか1000分の1の狂いもない。このほか滑り止め用の溝を刻む『ローレット加工』や、角度をつける『テーパ』、『ねじ切り』など、旋盤ひとつで金属を様々な形に加工することができる。

工業高校で磨く技、全国大会への切符
機械技術部の旋盤班で日々『技』を磨く林さん。旋盤作業の技術を競う、高校生ものづくりコンテストで今年、愛媛大会・四国大会で見事優勝し、四国代表として全国大会に出場する。
今回の課題はこちらの「2つの部品」、制限時間2時間で設計図の寸法通りに完成させる。出来上がり作品見せながら…
林杏奈さん:
(Q.審査基準は?)「まずは、寸法の正確さ、ねじの嵌合値(組合せの精度)、面粗(表面の状態)の良さとかです」
本番に向け、1日に1セットは課題を製作している。
林杏奈さん:
「日々の努力の積み重ねで自分の成長が一番目に見えるものだと思ってます」

普段は「普通の高校生」でもクラスメートからの評価は高い
幼いころから工作が大好きだったという林さん。
林杏奈さん:
「小さいころから空き箱とか、トイレットペーパーの芯とかでいろんなものを作っていました」
将来は教員など、指導者として工業に携わりたいという根っからの“ものづくりガール”だ。そんな林さんも普段は「普通の高校生」。昼休みのランチタイムは友人と過ごす楽しいひと時です。
友達:
「(林さんは)ちょーまじめな人ですね。努力家で」
全国の舞台で戦う林さんをクラスメートも応援している。
友達:
「(旋盤は)0・01を合わせるところが僕はすごく難しいと思ってる。いつも通りやったら林さんは大丈夫だと思うので、クラスみんなで応援してます」

部員は現在わずか3人、でもその絆がある
放課後に活動している機械技術部・旋盤班。部員は現在わずか3人だが、少ないからこその絆がある。日々ものづくりに没頭する旋盤班の青春の一コマ。
機械技術部旋盤班1年・二宮歩叶さん:
「林さんはとてもやさしい先輩だと思います」
機械技術部旋盤班2年・瀧菫さん:
「杏ちゃんは。杏ちゃんはわからないことか、悩みを優しく聞いてくれる頼りになる存在です」
林杏奈さん:
「いっぱいになったら捨てに行く。ギリギリで抑えて次の人にやらせる。本番のプレッシャーに負けることなく、日々の練習の成果を存分に発揮できるように頑張りたいと思います」

高校生ものづくりコンテストの全国大会へ出場
今月9日、高校生ものづくりコンテスト全国大会の旋盤作業部門が、松山市で開かれた。
林さん:
「めっちゃ緊張してます。できるだけミスを少なくして、悔いの残らないようにしたいと思ってます」
林さんにとって初めての大舞台が始まった。全国9ブロックの予選を勝ち抜いてきた10人が頂点をかけ戦う。減点やタイムロスがないよう、器具の付け替えは、スピーディーかつ正確に。

緊張の2時間…集中した表情で作業に挑む
林さん、集中した表情で作業を進めていきます。旋盤班の仲間も、固唾を飲んで見守る中、制限時間の2時間が迫ってきた。林さんの作業も大詰めに。そして。「おわりました」制限時間の3秒前!無事、時間内に完成させることができた。
先生:
「はいおつかれおつかれ」
林杏奈さん:
「つかれた…うん…あんまり上手くいかなかったかなって思う。(ねじを)締め込みすぎると開かなくなることが最近あったので、ちょっと緩めに閉めてしまってて、そこで組寸が上手くとれなかったかなって」
反省点はあるものの、張り詰めた緊張からようやく開放された。

全国大会の結果は…
審査が終わり、いよいよ結果発表。
アナウンス:
「第3位、愛媛県立松山工業高校、林杏奈さん」
2年生ながら堂々の第3位!初めての全国大会でしっかりと結果を残した。しかし…机にうなだれる林さんの目に浮かんだのは涙でした。詳しい採点表をみると1位との差はわずか3点。さらに2位とは同点でしたが、『見栄え』の評価で3位となった。

流した涙はきっと成長につながるはず
「あと一歩届かなかった…」悔しさがこみ上げる。
林杏奈さん:
「僅差で負けてしまったのでとても悔しいです。3点、あればなって。来年はもっともっと細かいところまで気を配って、悔いの残らない大会にしたいなと思います。もちろん1位を狙います」
全国の舞台で経験を積み悔しさを胸に刻んだ小さな旋盤ガールは、これからもものづくり一直線。「目指せ!旋盤職人!」

