こちらは現在、鹿児島市で個展を開いている画家、コダマリさんが手がけた絵本です。

一人の女の子と動物たちが旅をするお話なんですが、物語が生まれたルーツをたどっていくと彼女が描こうとするものが見えてきました。

深い森を探検するように物語を味わってみませんか。

地面からむくむくと沸き立つ草木。

タイトルは「芽吹き」

あどけない子どもの腕に抱かれているのが、この絵を描いた画家コダマリさんです。

画家・コダマリさん
「絵を描き始めたのは覚えている限りだと保育園から」


画家コダマリさん。

鹿児島市出身で赤塚学園を卒業後、フリーランスのデザイナー、イラストレーターとして活動してきました。

画家として制作を始めたのは5年前。

出産をきっかけに子どもたちに絵を見せたいと、自分の内側にある世界を描き始めました。

コダマリさんの絵はミリペンと呼ばれる先端が細くとがったペンと水彩絵の具で描かれます。

その原点となる絵がありました。

「世界」

まるで壁画のような作品には、二人の子どもたちがくるくると渦を巻いています。

博物館の展示のように隣には注釈がー

この子どもたちは、「愛」と「真実」を描いているようです。

画家・コダマリさん
「私が読み解いた限りでは、子供が世界をつくっているんじゃないかと思って。子供がきれいになるには世界がきれいになってから生まれて循環していく世界なのでは」

子どもや動物たちをモチーフにした作品の数々。

その中には2024年初めて発表した絵本があります。

「BREAK DAY ミマとモリーのいちにち」

ある朝、森の中からパリンという音がしました。

大切な花瓶を割ってしまった、女の子ミマ。

鹿のモリーと一緒に割れた花瓶を直す旅に出ます。

ウサギにはお花を、クマには貝殻をもらって、最後には鳥が集まり、割れたかけらをつなぎ合わせていきます。

物語の舞台は作品を展示したことがある鹿児島県日置市美山。

登場する花瓶は薩摩焼です。

この作品は2024年、出版社が主催する公募で2300を超える応募の中から2位の優秀賞に選ばれました。

女の子と動物たちが織りなす優しいストーリーはどうやって生まれたのでしょうか。

彼女のアトリエを訪ねました。

「こんにちは」
「こちらがアトリエです。ここでいつも描いています」
「あったかい雰囲気ですね」

絵本の原画もありました。

画家・コダマリさん
「頭の中の構想。ミマちゃんという女の子が父の死から立ち上がるところから始まった」

コダマリさんがメモした、もう一つの物語の始まり。

父の死。

画家・コダマリさん
「もともとお父さんと暮らしていなかったが、15歳位の時に『お父さんが亡くなったらしいよ』と母から聞いて。その時は「ふーん」と思っていたが、だんだん『私のお父さんもういないんだ』みたいな気持ちがあって。お父さんというものを初めて実感したというか」

パリンと割れた花瓶は、父の死で壊れたコダマリさんの心でした。

Q.なぜ父を書こうと?
画家・コダマリさん
「結局自分の中にあるものでしか書けないと気づいてから、自分の過去を深掘りする期間が多くて。黒い物を1個見つけたときにそれがお父さんの死だった。私はそこからどうやって立ち上がったのか記憶を頼りに考えていて」

もう会えない父の「ミマ・モリ(見守り)」の中で生きていると信じて。

女の子はミマ、鹿のモリーは父の生まれ変わりとして描きました。

いろんな人に出会い、いろんな人に助けられて、つなぎ合わさった花瓶は卵の形に変わります。

パリン、という音とともにたまごがわれました。

今度割れたのは花瓶ではなく、卵の殻。

新しい花瓶が生まれます。

コダマリさんにとって、心が壊れる音と命が生まれる音は不思議にも同じ響きでした。

画家・コダマリさん
「細かい線をたくさん描いているんですけど、私にはそれはいろんな血液に見えて。いろんな私の思いを画に残している気がして。本当に命を描いている気持ちになる。そういうのがあって、作るということをしていると思います」

心の奥底に向き合い、生きる道を探るコダマリさん。

命を描く音が、聞こえます。

絵本も販売されているコダマリさんの展覧会は11月30日まで、鹿児島市のマルヤガーデンズにあるzenzaiマージナルギャラリーで開かれています。

鹿児島テレビ
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