クマによる被害が全国で相次ぐ中、富山県上市町では「公務員ハンター」が地域の安全を守る切り札として活躍している。通常業務の合間を縫って猟銃を手に現場へ駆けつけるというこの仕組みを取材した。

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財務課職員が猟銃を持って出動

「柿を食べた後のフンの痕跡を見て、どこに逃げていったのかクマの足跡を探す」

上市町役場で財務課管理班の係長として勤務する木原剛さん(45)は、庁舎の物品などを管理する通常業務の傍ら、クマ出没時には現場へ駆けつける「公務員ハンター」の一人である。普段は「役場が管理している車の高速料金の請求や電気料金の予算の執行をしている」という木原さんだが、クマの痕跡が見つかると現場確認や駆除を担う。

上市町の公務員ハンターは現在7人。全員が病院の事務などそれぞれ別の業務を持ちながら、緊急時には本来の仕事を中断して現場対応にあたる。

「大切な業務があるときは、相手にお断りを入れて現場に行かせてもらう。(ハンターに)切り替えられるときとできないときがある。服を着替えるときや鉄砲の準備をするときに気持ちを切り替えるしかない」と木原さんは語る。

イノシシ被害から始まった独自の取り組み

上市町で公務員ハンターが誕生したのは2010年。当時、県内ではイノシシによる農作物被害が相次ぎ、猟友会の負担が課題となっていた。そこで上市町は狩猟免許に必要な経費を負担し、職員に免許取得を促す独自の取り組みを始めた。

当時、鳥獣被害対策を担当する部署に所属していた木原さんも自ら手を挙げ、公務員ハンターになった。「元々、農林整備班の事務に携わっていて、クマやイノシシが出た時にハンターに連絡してもすぐに駆けつけることができない時があった。初動だけでも何か支援できればと思った」と当時を振り返る。

時間短縮が最大のメリット

公務員ハンター導入の最大のメリットは、捕獲までの流れがスムーズになった点だ。

従来はクマ被害などが発生すると、猟友会が現場確認し行政に報告、行政が捕獲可否を判断、猟友会へ依頼、実行という複雑な手続きが必要だった。公務員ハンターが現場に行くことで、確認から捕獲依頼をその場で行えるようになり、捕獲までの時間が大幅に短縮された。

上市町産業課の碓井秀樹課長は「職員が狩猟免許を持っていてすぐに対応できる。住民の安心安全に役立っているのではないか」と評価する。

木原さん自身も「普通は自宅に鉄砲があるので、自分たちは役場内で着替えて(銃を)持ってすぐ現地に着けるのがメリット」と説明する。

猟友会からも「専門的な知識を持つ職員が現場にいるのは大きなメリット。捕獲の腕も確かで、安心して任せられる」との声があがっている。

今年、全国でクマ被害が相次ぎ、市街地での銃の発砲を自治体の判断でできる「緊急銃猟制度」の導入を背景に、国も公務員ハンターの育成・確保策を強化している。

多いときで月に2、3回出動するという木原さんは、今後も「やぶの中にいるのが分かったので一挙手一挙足見逃さないように集中。今まで以上に猟友会や警察と連携し、より住民の安全に導けるようにしたい」と意気込みを語った。

(富山テレビ放送)

富山テレビ
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