2022年10月、韓国・ソウルの繁華街で日本人2人を含む159人が死亡した雑踏事故。発生から3年がたった今、課題となっているのが凄惨な現場に駆けつけた救助隊員の心のケアだ。
2025年に入り当時現場で救助活動に当たった消防士たちが相次いで自殺。FNNのインタビューに答えた消防士は、事故後に起きるフラッシュバックや悪夢など、今も抱える過酷なトラウマを語った。
159人犠牲…癒えぬ遺族の心の傷
2022年10月29日。ハロウィーンを控え、多くの人でにぎわっていたソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で大規模な雑踏事故が起きた。狭い路地に集まった大勢の人たちが積み重なるように転倒し、日本人2人を含む159人が死亡した。その多くが圧死だった。(※関連死を含む)
事故からちょうど3年となる2025年10月29日。ソウルの中心部では政府主催の追悼式典が開かれた。
式に参加した遺族は「3年という時間、一日一日が長くて寂しくてつらい時間だった」「いつも『申し訳ない』という気持ち」「会って抱きしめて話をしたい」と、それぞれの3年間を振り返りながら決して忘れることのない家族への思いを口にした。
韓国政府は2025年10月、事故をめぐる調査結果を発表。被害拡大の要因として、事故現場に近い大統領府周辺で行われたデモに対応するため、梨泰院周辺の警備が不十分だったことを指摘した。
ただ遺族は、救助が遅れた原因調査が十分ではないとして追加調査を求めていて、真相究明を求める闘いはこれからも続きそうだ。
夢で「血まみれの現場に…自分の家族」
この3年間、癒えない心の傷を抱えて生きてきたのは遺族だけではない。あの日、凄惨な現場に駆けつけ救助活動に当たった多くの消防士たち。その中には今もトラウマを抱えながら日々の業務に当たる人たちがいる。
富川消防署 イ・ワンス消防士:
実は現場の音などは覚えていないんです。ある人が『来てください!来てください!この患者を受け入れてください!』と言ったところから覚えています。
ソウル近郊の消防署で救急隊員として働く、消防士のイ・ワンスさん36歳。3年前のあの日、同僚たちとともに梨泰院の雑踏事故現場で救助活動に当たった。
イ・ワンス消防士:
怖かったです。でも現場の状況や当時の感情を伝えなければと思い顔を上げました。本当に映画のような場面でした。スローがかかったように人々の行動が遅くなったように見えました。
元々は看護師として働いていたイ消防士。人が生死の狭間にある現場に長く立ち会ってきたこともあり、それまでは「助けられる人もいれば、そうでない人もいる」と割り切った心持ちで活動に当たっていたという。
しかし、梨泰院の現場は違った。
イ・ワンス消防士:
現場は、厳粛な葬儀場なのにみんながケラケラ笑っているような感じでした。非現実的だし、違和感もあるし、不気味でもあるし。その中で、すでに45分くらい応急処置で胸骨圧迫されたすごく痩せた20代前半の女性患者の心肺蘇生を行いました。胸の形が、小麦粉の生地がたたいて戻らないのと同じようにへこんでいました。すでにこの人の蘇生の可能性が高くないことが分かりました。その時から何かすごく無力感に襲われて。結末を知っているのに走り続けなければならないような感じで…。
大勢の傷病者。ハロウィーンの異様な熱気。懸命の措置もかなわず助からなかった女性。
そのときの衝撃と、抱いた無力感、絶望感が心の傷としてイ消防士に残り続けている。
