イ・ワンス消防士:
女性は『救急隊員がいるのに、私はなぜこうならなければならないのか』と感じながら亡くなられたと思います。とても苦しかったと思います。それ以降、特に20代前半の痩せた女性の傷病者を見ると気になって、感情的になってしまいます。
事故の後は悪夢も続いた。
イ・ワンス消防士:
例えば、心肺蘇生法を一生懸命やっているのにAED=自動体外式除細動器の電源が消える夢。現場が血まみれになっていて、患者の胸を圧迫しようとすると自分の家族だったという夢を見ます。『最近幸せだ』『出動できることも幸せだ』と言えるようになるまで1年半はかかりました。現場や出動内容によっては集中できなくなることがあるので、ちょっと様子がおかしかったら配慮してもらうという感じで、最近は仲間にたくさん助けてもらっています。
専門家は消防士の“継続的ケア必要”
韓国消防庁によると当時、事故現場では1316人の消防士が活動に当たった。今、課題となっているのが、この消防士たちの心のケアだ。
2025年の夏には、梨泰院事故で活動した消防士2人が立て続けに自ら命を絶ち、韓国社会に衝撃を与えた。亡くなった消防士の父親によると男性は事故現場での活動後、体重が激減し口数が減るなどの異変がみられ、2024年12月にはPTSD=心的外傷後ストレス障害の診断を受けたという。
消防庁は事故直後から約1年間、現場で活動した職員を対象にしたカウンセリングを実施し約1割が病院で診療を受けた。しかし、時間の経過とともに積極的な支援は手薄になっていると指摘されていて専門家も継続的な心のケアの必要性を訴えている。
慶熙大学校精神健康医学科 ペク・ジョンウ教授:
トラウマは2~3年過ぎた頃に現れます。特に消防、また警察のような救助に関わる人の場合には、新しいトラウマにぶつかったりして苦痛がさらに加わり累積します。トラウマにさらされる職業に対しては、より定期的な検診が必要です。勤務環境、文化、色々な点でより根本的な改善が必要だと考えます。
“うつ病”症状ある消防職員94%増加
近年、韓国では梨泰院事故だけでなく、2024年の年末に発生した飛行機事故や相次ぐ水害など多くの人の命が奪われる事故や災害が多発していて、救助活動に従事する職員の心理的負担が増していると指摘されている。
全国の消防署で毎年行われているメンタルヘルス調査によると、2020年から2024年までの5年間でPTSDの症状が見られた職員は64%増加し、うつ病の症状がある職員は94%増加した。
梨泰院事故をきっかけに「仕事に臨む態度を変え、より使命感を持つようになった」と語り、これからも救急の仕事を続けていこうと考えているイ消防士。インタビューの最後に率直な気持ちを打ち明けた。
イ・ワンス消防士:
生まれ変わったら 救急隊員はやらないと思います。つらかった時期から日常に復帰するのにとても長くかかったし、それをまた繰り返したくないんです。
梨泰院事故から3年。凄惨な現場で人命救助に当たる消防士たちの心と命をどう守るかが、今、改めて問われている。
