名古屋市西区で1999年に女性が殺害された事件で、10月31日、69歳の女が逮捕された。事件発生から26年での急展開、そこには被害者女性の夫の「執念」があった。
■突然奪われた「幸せ」 現場は当時のままに
名古屋市西区稲生町のアパートの一室で暮らしていた、3人の幸せな家族。事件があったのは、1999年11月13日午後2時半ごろだった。
高羽悟さんの妻・奈美子さん(当時32歳)が、首から血を流して倒れているのを、訪ねてきた近所の人が発見した。奈美子さんは首など数カ所を刺されていて、うつぶせになって死亡、死因は失血死だった。
事件当時、悟さんは仕事のため外出中で、犯行は当時2歳だった長男・航平さんの目の前で行われたとみられるが、航平さんは無事だった。
事件後も悟さんは家賃を払って、現場となった部屋を借り続けてきた。
高羽悟さん「(カレンダーは)当時のままですね 歯科検診が18日に入って」
犯人は玄関で奈美子さんを切りつけたあと、さらに奥に逃げこむのを追いかけて、何度も刺したとみられている。
高羽悟さん:
「こっちにうつぶせで顔を右側にして倒れてて胸の下は血だまりになっていました。この辺りまで血しぶきが飛んでましたんで」
■血痕に目撃情報も…捜査は難航
犯人はいったい何者なのか。捜査にはいくつかの手がかりがあった。
犯人は奈美子さんともみ合いになった際、手に傷を負ったとみられ、現場には足跡も残されていた。路上には、自宅から北東の方向におよそ500メートルにわたって、犯人の血痕が点々と残されていた。
愛知県警捜査一課OB(2019年):
「だーっと流れている状態ではなくて、ぽた、ぽた、という感じ。一定のリズムでなくて、ポッポッとあって、また離れてポッとあって」
さらに、目撃情報も寄せられていた。
高羽悟さん(2014年):
「目撃情報では、この階段を上がったところで、手をかばって血を流している女性がいたから、犯人じゃないかと」
これらの情報から、愛知県警は犯人を『身長160センチほど、血液型B型の女』とみて、捜査を開始した。その上で、県警がにらんだ奈美子さんの知人関係だった。
愛知県警捜査一課OB(2019年):
「どこかで奈美子さんに逆恨みした、地元で接触のある人物。ただ、ご主人や友達、身内も聞いたことない人、奈美子さんの慎重な性格などを考えると、奈美子さんと接点のある友人知人の中の一人ではないか。ただ奈美子さんよりも年上、どちらかというとお母さんに近いくらいの感じ」
県警は、奈美子さんの知人関係を中心に、のべ10万人以上の捜査員を投入したが、捜査は難航した。
そして、26年の月日が経った2025年10月31日。
愛知県警 村上健司刑事部長:
「本日、発生から26年の時を経て、被疑者を殺人罪で通常逮捕いたしました。安福久美子、69歳」
逮捕された安福久美子容疑者は、悟さんの高校の同級生だった。動機など犯行に至った詳細はわかっていないが、警察によると、現場から見つかっていた血痕が安福容疑者のDNA型と一致したことなどから、逮捕に至ったという。
■夫の「執念」実り…ついに容疑者を逮捕
容疑者の逮捕につながったもう1つの原動力。それは、悟さんの“執念”だった。
毎年、事件のあった11月にビラを配り、情報提供を呼びかけた。
殺人事件被害者遺族の会「宙(そら)の会」代表としても活動した。2010年には、刑事訴訟法が改正され、殺人罪の時効が撤廃され、今回の犯人検挙につながった。
26年間に支払った家賃は、2000万円以上にのぼる。
借り続けた事件現場に2024年、若手警察官を案内するなど、解決をあきらめたことはなかった。
高羽悟さん(2024年取材):
「24年も26年も自分の中では変わらなくて。2歳の子供育てながら25年ですから。私は奈美子と血がつながっていなくて、航平だけがつながっている。本当の遺族は航平だと思っていた」
当時2歳で事件を目の当たりにした長男の航平さんは2024年に結婚。お相手の咲月さんは、偶然にも奈美子さんの友人の娘だった。
高羽悟さん:
「航平から大人になったときに、『何で一生懸命、犯人捜ししてくれなかったんだ』と言われたら親として恥だと思って、そういうことがないようにやってきて…」
10月31日、逮捕を伝えるニュースを見た悟さんは、今の思いを語った。
高羽悟さん:
「手が震えるって言っています。一生懸命いろんなことトライしてきたので、26年かかったけど捕まえてよかったなという思いしかないです」
26年前、突如壊された、家族3人の日々。関係者の執念が実を結び、ついに容疑者が逮捕された。