安倍元首相が殺害された事件から3年。

宗教団体への高額献金や、霊感商法。そして政治との癒着…多くの社会問題を浮き彫りにしました。

事件から3年3カ月を経て、28日、山上徹也被告(45)の初公判が開かれます。

被告はいま、何を思い、法廷で何を語るのでしょうか。

■大阪市北区にある公園は異様な雰囲気に

先月28日。大阪市北区にある公園は、異様な雰囲気に包まれていました。

集まっていたのは、世界平和統一家庭連合、旧統一教会の信者ら1000人以上。ことし3月に東京地裁が決定した解散命令への抗議集会です。

【2世信者】「家庭連合は安倍元首相の事件以降、反社会的な団体というレッテルが張られました!」
【2世信者】「2世として生まれたこと、信仰を持って歩めていることに心より誇りに思っています!」

■山上被告のSNSには「オレが憎むのは統一教会だけだ」

奈良市の大和西大寺駅前。事件の現場となった道路や横断歩道は整備され、今や当時の状況をうかがい知ることはできません。

3年前の7月8日、参議院選挙の応援演説を行っていた安倍元首相。背後にいたのが、ポロシャツ姿の山上被告でした。

手製の銃で撃たれた安倍元首相は緊急搬送。銃弾は左肩を貫通し、その時点で心肺停止。妻の昭恵さんの到着を待ち、午後5時3分に死亡が確認されました。

殺人や銃刀法違反などの罪で起訴された山上被告。

【山上被告のSNS】「オレが憎むのは統一教会だけだ」

捜査関係者などによると、山上被告の母親は旧統一教会の信者で、多額の献金を繰り返し、生活は困窮を極めたといいます。

■「教団とつながりがあると思った」安倍元首相のビデオメッセージを見て犯行決意

【安倍元首相】「朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、皆様に敬意を表します」

山上被告は安倍元首相が教団の関連団体に送ったビデオメッセージを見て、「教団とつながりがあると思った」と供述し、事件を決意するきっかけとなったとみられます。

そして、28日から始まる裁判で最大の争点となるのが「宗教被害」です。

【山上被告弁護士】「私たちはその部分(宗教被害)を抜きにして、この事件の中身を論じることはできないと思っています」

山上被告の弁護側は、殺意を認めた上で、「事件の背景に宗教被害があったことを主張する」とし、母親や宗教学者を証人として呼ぶことを明らかにしました。

■教団に苦しめられてきた元信者「他人事ではない」

山上被告の弁護側は、旧統一教会による高額献金などが事件の背景にあるとして、「宗教被害」を法廷で明かす方針です。

教団に苦しめられてきた元信者たちは、裁判の行方を自分事のように見守っています。

【池田さん(仮名)】「他人事ではないなっていう風に見ています。一歩間違った自分だったんだろうなって」

東海地方に住む元信者の池田さん。20年ほど前、「ママ友」に誘われた風水の物品即売会で、親族に災いが起こるなどの不安をあおられ、300万円の水晶を購入。

1年以上が過ぎたころ、初めて「旧統一教会」だと明かされました。

【池田さん(仮名)】「人生をかけてじゃないですけど、全財産をつぎ込んで…」

その後も脱会するまでのおよそ3年で献金総額は1000万円に。山上被告の境遇に共感する部分があるといいます。

【池田さん(仮名)】「そこまでしてしまう心境に追い込まれている訳ですよね総理大臣をやるまでにないにしても、(教団の)婦人部長とか襲ってしまってるかもしれないよね、思い詰めて」

■両親や教団による“英才教育を受けた宗教2世は

近畿地方に住む平井さん(仮名)は合同結婚式で結ばれた両親の下に生まれた宗教2世です。幼いころから「神の子」と呼ばれ、両親や教団による“英才教育”が行われました。

【平井さん(仮名)】「教会が運営している幼稚園に通っていて、周り全員信者。先生も信者」

幼稚園の卒業アルバムを見せてもらうと…

【平井さん(仮名)】「まずこれですよね。文鮮明」

(Q:これ何て書いてるんですか)
「アボニム、お父様っていう意味と、オモニっていうお母様って意味」
(Q:書かされた訳では?)
【平井さん(仮名)】「え~…書かされた訳でなく、多分、信じていたんでしょうね…」

両親が収入のほとんどを献金していた平井さんは、貧しい生活を送ったといいます。

【平井さん(仮名)】「幼少期は信者同士で固まってマンション借りたりアパート借りたりしてますので、周りに信者しかいないし信者の子どもしかいない状態なんですよ。古いアパートもあったので、ネズミが出てきて子どもがミルクの匂いするのでかじられたりとか…僕の大学の費用も、おばあちゃんが貯めてくれていたもの全てなくなってますし。全部。全部ですね…」

■「事件がなかったらまだ親にお金払い続けて生活していた」宗教2世は複雑な胸中語る

教団は先月、ホームページを更新。2020年以降、新たな献金裁判や、消費者庁からの勧告・命令は0件などと掲載し改革の姿勢をアピールしています。

しかし、平井さんは教団による活動は今も変わらないと訴えます。

【平井さん(仮名)】「つい最近までお金を親に渡してたんですよ。毎月毎月。山上さんきっかけなんですよ。山上さんが、山上さんって言ったらだめかも分かりませんが、同じような境遇でいつまでやらないといけないんだとなってから」

両親に金銭を渡すことを止め、2世当事者として教団を提訴することを決意。そして、今回の裁判で改めて「宗教被害」が世間につまびらかになることを期待しています。

(Q:山上被告がああいう事件を起こした。彼に言いたいことは?)
【平井さん(仮名)】「複雑やな…。ありがたいっていうか…うん…。あの事件がなかったらまだ親にお金払い続けてゆっくり生活していたと思う。何か見えないふりして、自分は仕方がないよって思いながら…」

■ある捜査幹部は「宗教被害」が争点となることについて、激しく批判

一方で、ある捜査幹部は、「宗教被害」が争点となることについて、激しく批判しています。

【捜査幹部】「これは旧統一教会や安倍氏を断罪する場ではなく、殺人事件だ。関係ないことを法廷に出すべきではない」

現在、大阪拘置所に勾留されている山上被告。親族によると、事件以降、全国から手紙や現金などの差し入れが相次ぎ、現在も続いているということです。

弁護団によると、「手紙には全てに目を通しており感謝している」と話しているといいます。

初公判を前にした被告の様子については…

【山上被告の弁護団】「裁判の中身に関しての打ち合わせはしてますから、そこは真剣に取り組んでくれているので、山上さんとしてもきっちりこの裁判に臨みたいという気持ちがあるんだろうなと」

■「どんな動機で本当に動いたのかは私たちも知りたい」

教団はこの裁判についてどう考えているのか。田中富弘会長は先月、こう述べました。

【田中富弘会長】「どんな動機で本当に動いたのかは私たちも知りたい」

(Q:献金によって生活が破綻したという話もある)
【田中富弘会長】「私も(山上被告の)ご家庭にアプローチかけて色々確認しました。実際に献金された後、教団や信徒会が一緒になって返金してきたのが5000万円の返金。しかも一括じゃなくて毎月40万円ずつの返金。10数年間ずっと毎月40万円ずつ返金してるんです。こういう状況下で生活苦は想定しづらい。今回の事件は距離感があるんですよ」

教団によると、山上被告の母親はいまも信者を続けているといいます。

社会に大きな影響を及ぼし、さまざまな問いを投げかけた事件。初公判で何が語られるのでしょうか。

(関西テレビ「newsランナー」 2025年10月27日放送)

関西テレビ
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