ハンセン病に対する偏見差別の解消を目指す岡山県の会議で、国が実施した実態調査の結果が報告されました。「偏見差別は深刻な状況」という結果に、療養所の入所者からは、対策の強化を望む声があがっています。
◆「偏見差別は現存し、依然として深刻な状況にある」国の調査結果に入所者から怒りの声
(邑久光明園入所者自治会 屋猛司会長)
「誤った情報を国が流した、それを正当化するために法律まで作った。国民をだましたことになる。もう少し厳しくしてほしい」
ハンセン病問題について岡山県が対策を協議する会議。瀬戸内市のハンセン病療養所邑久光明園入所者自治会長の屋猛司さん(83)は、感情を露わにしました。
この日県から問題提起されたのは、国が実施したハンセン病に対する意識調査の結果です。1回目のWEB調査に続き、郵送によるアンケートでも同じ結果となりました。
「ハンセン病問題に関する知識は、社会に十分には浸透しておらず、ハンセン病に係る偏見差別は現存し、依然として深刻な状況にある」。
ハンセン病患者を隔離した法律「らい予防法」が撤廃されて、2026年で30年を迎えますが、国や県が行ってきた啓発活動は、国民にほとんど届いていないことが浮き彫りになったのです。
◆入所者にハンセン病問題について直接語ってもらうのは「限界」…有効な対策を望む声も
(長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長)
「私たちは説明の中で、私たちは障害者なのだからハンセン病は治った人、(病気のために)障害がある人だから、他の障害者と同じように扱ってほしいと子供たちには話している」
長島愛生園の入所者自治会長・中尾伸治さんは、91歳になった今も、県の依頼で学校に出向く「語り部」を続けています。愛生園の自治会役員は、中尾さん1人だけとなり、負担も大きくなりました。県はオンラインの機会を増やしたり、語り部の動画を作成したいとしていますが・・・
(委員 則武透弁護士)
「ハンセン病問題について、入所者に直接語ってもらうのは限界が来ているので、それをバトンタッチする教育の場(が必要)」
会議では、DVDやパンフレットなど、これまでの啓発だけでなく、もっと有効な対策を望む声が上がりました。
◆ハンセン病患者隔離の史実を伝えるために「施設を残してほしい」を国と交渉継続
(邑久光明園入所者自治会 屋猛司会長)
「あの島(長島)全体を永続化して、人権教育の島として、子供たちにつないでほしい」
全国の入所者自治会の代表も務める屋さんは、入所者がいなくなっても施設を残してほしいと将来構想の策定を目指し、国との交渉を続けています。
(長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長)
「終戦80年で広島では、原爆の慰霊碑に「過ちは繰り返さない」と誓いの言葉がある。ハンセン病の碑には誓いの言葉が入ってない。どこかで表してほしい」
◆”人間回復の橋”邑久長島大橋の開通日【5月9日】を共生社会実現の記念日に、という提案も
長島愛生園からは、岡山県独自の記念日を制定してはどうかと提案がありました。37年前、隔離の島にかけられ”人間回復の橋”と呼ばれた「邑久長島大橋」が開通した5月9日です。
(長島愛生園 山本典良園長)
「岡山県として5月9日、邑久長島大橋が開通した日。この日を、共生社会の実現を記念する日にしてはどうかと」
◆今のままでいいのか?の問いに岡山県の担当者は…
(岡山県疾病感染症対策課 藤田利宏総括副参事)
「(Q:今のままでいいのか?)岡山県としては、正しい知識をきちんと皆さんに届けるのが一番重要。なかなか届かない部分もあるが、工夫をしながら若い人に向けて、アニメを使ったり工夫しながら届けていきたい」
◆「のろのろしていたらみんないなくなる」ハンセン病の正しい知識は若い人に届けられるのか
(邑久光明園入所者自治会 屋猛司会長)
「怒りがこぼれた。そうしてもらいたい」
(長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長)
「もう少しスピードを上げてほしい、のろのろしていたらみんないなくなる、がちゃがちゃ言う人もいなくなる、それでは間に合わない」
岡山の2つの療養所の入所者の平均年齢は89歳を超えました。
【長島愛生園68人 89・1歳】
【邑久光明園44人 89・5歳】