日本各地で相次ぐ「クマの出没」。今年度は過去最悪の被害が出ていて、これまでクマが生息していなかった“空白地”の京都府の市にも現れています。

その理由は、「明らかにクマの数が増えて、分布域が広がっていて、別のエリアに生息していたクマが数を増やし、空白地だった市に流れ込んできた」ということです。一方で、これまでクマ対策のノウハウがない市は、対応に苦慮しています。

生活圏に忍び寄る“クマの脅威”を緊急取材しました。

■クマによる死者の数は10人“過去最悪” 関西にも迫る危険

北海道や東北地方で深刻な被害が出ている「クマ」。

24日も秋田県でクマに襲われ、1人が死亡し、3人がケガをしました。

これで今年度のクマによる死者の数は10人になり、統計を始めてから“最悪”を記録しています。

■関西にも迫るクマの危険 クマ出現で小中学生は“鈴”を携帯

クマの危険は関西でも…。

取材班が向かったのは、京都府の木津川市。ツキノワグマが生息していないとされるいわゆる「空白地」です。

その街を調査してみると、ほとんどの小学生が鈴を鳴らして登校していました。保護者にワケを尋ねてみると…。

【児童の保護者】「ことしの夏にクマが出たので…初めて。怖いですね」

■「ガチクマやん…」“空白地”京都・木津川市ではクマよけの鈴配布

【視聴者撮影の映像】「いや!ガチクマやん!ガチクマやん…」

ことし5月に木津川市でクマが初めて確認された時の映像には、“空白地”とされてきた木津川市内の道路を、クマが走り去る様子が。

こうした事態を受けて市は、全ての小・中学校にクマよけの鈴を配ったのです。

【木津川市立恭仁小学校 吉村建哉校長】「学校が終わってから、子供たちがこのあたりで遊ぶんですけど、その時(5月中旬)にクマを見たと」

(Q.大きさは?)
【木津川市立恭仁小学校 吉村建哉校長】「『黒っぽくて1.5メートルくらい』と言っていましたね」

■「ウゥ~」取材中に聞こえる声 その正体は?

この街の異変に市民は…。

【市民】「毎日(目撃情報の)メールが、学校と市役所から入ります。怖いです。だって絶対勝てないですから」

別の市民も…。

【市民】「イノシシは来ないようにネット張ったりしてるけど、クマ(対策)は、やってないですね」

と、そのとき、「ウゥ~~~~」という鳴き声が。

【記者】「なんか声聞こえた。…犬か。なんか鳴き声が…と思ったら、犬でしたね」
【市民】「うちそこに犬いるんです。ハハハ」

■新たなクマの目撃情報 現場の痕跡を探すも「なかなか判断難しい」

これまでクマへの対策が、ほとんど行われていなかった木津川市。自治体はどう対応をしていくのか話を聞くため市役所を訪ねると、何やら慌ただしい様子。

【木津川市建設部 木下勝史次長】「朝の6時ごろに(クマが)出たということで、警察から連絡をいただきまして」

新たなクマの目撃情報が入ったというのです。現場に同行させてもらうことになり、向かったのは市役所から車で10分程の住宅地。

【パトロールのアナウンス】「本日、梅谷区でクマらしき動物の目撃情報がありました」

【記者リポート】「クマが出たということで、そのせいか、人の姿はまったくありません」

この住宅地からさらに5分ほど山の方へ進んでいくと、現場に近づくにつれ動物の足跡が多く見られるようになりました。

【木津川市建設部 中島武史係長】「ここのブドウ畑の方が来られて、この柿の木の下にいるクマを見て、クマがあの山手の方へ逃げて行くのを見られました」

23日午前6時ごろ、ブドウ畑で作業をしていた男性が、クマを目撃し、警察に通報したということです。

(Q.足跡はあるんですか?)
【木津川市建設部 中島武史係長】「この辺りとかが、もしかしたらクマかもしれないです」

さらにクマの痕跡を探していると…。

【記者】「全部そう見えてきますね」
【木津川市建設部 中島武史係長】「そうなんですよ…」

■「聞いたことがない声で威嚇された」とクマと遭遇した人

どういう状況だったのか、遭遇した人に話を聞くことができました。

【クマとみられる動物を目撃した人】「パッと前を見たら、100メートル向こうにクマがいてたんです。『ウーッ』っていう感じで、聞いたことがないような声で威嚇してきたんですよ。距離的に危ないと思って、どうしようかなと逃げようと思ったけど、向こうが山の中に逃げていったので良かったなと思って。夢にも思わなかったです。クマが出るなんて」

去年までこうした目撃情報は、1件も無かった木津川市ですが、ことしに入って24日までに36件の情報が市に寄せられています。

■専門家が警鐘「今の東北の状況が関西でも」「早め早めに対策を」

この事態について、クマの生態に詳しい専門家の森林総合研究所・大西さんによると、「ついにそこ(木津川市)まで来てしまったかと。明らかにクマの数が増えて、分布域が広がっている。これに尽きる」と話します。

【森林総合研究所 大西尚樹さん】「別のエリアに生息していたクマが数を増やし、空白地だった木津川市に流れ込んできた」

さらにクマの数が増えるリスクについては。

【森林総合研究所 大西尚樹さん】「数が増えると当然ながら人身事故も増えるので、5年後、10年後、今の東北の状況が、関西でも十分起きる可能性がある。(自治体などは)早め早めに対策を打つことを考えていただく必要がある」

■「オリで捕まえてどこへ持って行くねん」放獣できず、オリ設置できない市。クマハンターも1人もいないという

木津川市も様々な対策を試みたいところですが、圧倒的に足りないのがクマ対策への「ノウハウ」です。担当者も頭を抱えています。

【木津川市建設部 中島武史係長】「(基本的には)殺処分とかはできない地域になっていて、まずは『オリで捕獲して逃がす』という形になっていますので」
【住民】「オリで捕まえて、どこへ持って行くねん」
【木津川市建設部 中島武史係長】「そこが一番大きな問題…」

実は、捕獲したクマは人間の怖さを教えてから山奥に返す「学習放獣(ほうじゅう)」が原則。しかし、クマと無縁だった木津川市は、市民などから「放獣」の理解が得られず、オリが設置できないのです。

場合によっては駆除も可能ですが、現状、市にクマハンターは1人もいないということです。

【木津川市建設部 木下勝史次長】「『市役所は何もしないのか!』という厳しい意見を頂戴しているところですが、クマがよく出るような自治体に色々と問い合わせたり、準備を進めているのが現在の状況です」

■クマとの共生に限界か「駆除も当然必要になってくる」

すでにクマの被害が出ている兵庫県豊岡市では、以下のような対策をしています。

・クマのえさになる柿の木の伐採を無料で行う
・木にトタンを巻き付け、木に登れないようにする

専門家の森林総合研究所・大西さんによると、「空白地に定着させないため、ある程度の駆除が必要では」と言うことです。

番組コメンテーターの京都大学大学院の藤井聡教授は「自然を守るのも大事ですけども、我々の社会を守ることが大事なわけですから、駆除は当然必要になってくるでしょうね」とクマの駆除に対し理解を示しました。

【吉原キャスター】「これまではクマは保護対象でしたが、そのステージを管理という方向にしていく必要があるのではないかという」

【藤井聡教授】「こういう被害がないことが前提で、保護してたわけですから。やはりこういう弊害が出てくると、共生のラインを調整していくのは、大事になりますよね」

自治体がどう対応していくのかが今後、問われてくるということになります。

(関西テレビ「newsランナー」2025年10月24日放送)

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