LEDなどの光を使って野菜を育てる工場が、異常気象などに左右されず1年を通して安定した量の農産物を供給できるとして注目されています。一方で採算性など経営面の課題も指摘されていて、新規参入もあれば撤退する企業もあり、全国の工場数はここ10年、ほぼ横ばいです。そうした中、福井県内にある2つの植物工場の新たな取り組みを取材しました。
みずみずしく育ったレタス。敦賀市にある植物工場フレデリッシュは2021年に設立され、グリーンリーフとフリルレタスの2種類を栽培。主に大手飲食チェーンやコンビニの総菜などの中食向けに販売しています。
この工場ではある挑戦を始めました。
フレデリッシュ・瀬戸重行社長:
「現在こちらで赤色レタスの栽培をしています」
フレデリッシュは2023年から、市内にある若狭湾エネルギー研究センターと共同で「赤色レタス」の栽培研究に取り組んでいます。
「これが今日植えた苗ですが、赤いですよね。これが育っていくうちに緑色に変化していく。小さいうちは赤い」(瀬戸社長)
本来、一般的な植物工場で使われるLEDの波長ではサニーレタスなどの赤色レタスはうまく育ちませんでした。
研究ではレタスの遺伝子を調べ、通常のLEDとは異なる波長の光を組み合わせて照射。そのタイミングなどを調整することで赤色の発色に近づける条件を突き止めました。
「全国に植物工場がたくさんある中で、価格競争だけでは会社の発展は難しいところがある。他との植物工場の差別化という観点で赤色レタスを販売することで当社の強みになると考えている」と瀬戸社長。赤色レタスという付加価値で他社との差別化を図ろうとしています。
一方、9月に美浜町にも大型の植物工場が完成しました。大阪に本社を置く機械用チェーンの製造などを手掛ける「椿本チエイン」が整備しました。
フル稼働すれば、県内最大規模の1日最大1万株の生産が可能としています。
この工場最大の特徴について福井美浜工場長の熊倉淳さんは「完全無人な自動化の工程です」と説明します。
案内されたのは生育工程のエリア。高さ10メートルまで棚があり、収穫を迎えるまでの16日間は一切、人の手を介しません。管理は全て機械が行います。
「少ないスペースでたくさんの量が栽培できるのが人工光型植物工場の特徴。大規模化しようとすると棚の高さがどんどん高くなり、収穫量も多くなる。自動化機械化は避けられない」と熊倉工場長。
椿本チエインは、これまで苗の移植機や昇降機といった機械を開発し、多くの植物工場で採用されてきました。しかし、今回は自ら「大規模化」や「自動化」を進めた工場の整備・運営に踏み切りました。
この工場では、種まきから出荷までの栽培工程のうち自社の技術を生かして半分程を自動化。その結果、同規模の工場に比べて人員は半分程度になりました。
機械を開発する企業が自ら植物工場を運営することについて熊倉工場長は「現場に密着した開発というのが非常に重要」と話し「植物工場を自ら運営して、それを魅力ある工場にして、それで新しい事業者を増やしていくことにつなげていきたい」とします。
椿本チエインは、ここを単なるレタス栽培の施設ではなく、最適な栽培設備を開発する実証実験の場と位置づけています。
人工光型植物工場の経営状況については、6割が赤字決算という調査結果もあります。
その背景には施設の建設費、高騰する電気代や人件費といったランニングコストなど、事業としての採算性の課題などが指摘されています。
だからこそ、この2社は赤色レタスでの付加価値の創出や、自動化・大規模化の推進など新たな取り組みを進めています。
度重なる異常気象や食への安全の関心から需要が高まる植物工場。しかし、コスト面や技術面などが発展途上という面もあり、今後の展開が注目されます。