備前焼の人間国宝で、2025年度の文化功労者に選ばれた伊勢崎淳さん(89)。芸術家として最も高い場所に到達しながら、それに満足することなくさらなる高みを目指しています。
◆文化功労者に選ばれ「感謝の気持ちでいっぱい」 伝統工芸の保存や伝承・向上に貢献
(伊勢崎淳さん)
「備前焼しかなかった。それで文化功労者となり感謝の気持ちでいっぱい」
古代から備前地域で発展し、土と炎の芸術と呼ばれる備前焼。伊勢崎さんは、1936年、備前焼で岡山県重要無形文化財の保持者だった故・伊勢崎陽山の次男として、備前市で生まれました。
伝統的な技法を守りつつ、斬新なデザインを取り入れた作風が特徴で、2004年には人間国宝に。そして今回、伝統工芸の保存や伝承、向上に貢献したとして、文化功労者に選ばれました。
◆伊勢崎さんの作品「陶壁」が首相官邸に 当時の小泉純一郎元首相が毎日、陶壁の前でインタビュー取材
作品は、2002年に移転した首相官邸にも。26種類の焼き物850個を複雑に組み合わせて壁を演出しました。「陶壁」と呼ばれる作品で、伊勢崎さんが得意としています。
(伊勢崎淳さん)
「“これならいける”ということで使ってもらったのが首相官邸の陶壁で(当時の首相)小泉純一郎さんが5年間、毎日その前でインタビューを受けていた」
他を圧倒する作品ですが、伊勢崎さんは納得できなかったと言います。
(伊勢崎淳さん)
「“ああすれば良かった”“こうすれば良かった”と後から思った」
◆制作におよそ1年半…伊勢崎淳さんの自信作は25年7月オープンの「備前市美術館」で展示
89歳になった今、1番の出来栄えだと、自信を持つ作品があります。2025年7月にオープンした備前市美術館に設置された備前焼のモニュメントです。
(伊勢崎淳さん)
「うまくいったと思った。1年半ほどかけて仕上げて備前焼独特の作品に仕上がり、誇りに思っている」
◆「備前焼しかなかった…」その自分の道をきわめ、行けるところまでと意欲を見せる89歳
さらなる高みを目指して挑戦を続けてきた伊勢崎さん。その歩みを止めることは考えていません。
(伊勢崎淳さん)
「新しい作品をできたらやっていきたい。(来年)90歳だからどこまでやれるか分からないが、それしか私の道はないので、何とか行けるところまで行きたい」
◆若手作家に向け「独特の焼き物を…」とエール 伊勢崎淳さんのメッセージ
さらに後進の育成にも励み、備前焼全体の発展に尽くしてきました。若手作家には、こんなエールを送りました。
(伊勢崎淳さん)
「備前焼の特徴、土の特徴を最高に生かした独特の焼き物を目指してほしい。それには世界に目を広げないと良いものはできない」
伊勢崎さんなど文化功労者の顕彰式は11月4日、東京で行われます。