2025年3月に自治体による営業を終えた新潟県村上市のぶどうスキー場が民間企業によって復活することになった。手がけるのは新たにリゾート事業を立ち上げた東京のIT企業。なぜ、地域のスキー場を存続させるのか、オープンに向けた動きを取材した。

村上市の“ぶどうスキー場”復活へ!

10月1日、新潟県村上市の高橋邦芳市長と面会した東京に本社を置く企業『シンクファースト』の沼前純一社長。

シンクファースト 沼前純一 社長
シンクファースト 沼前純一 社長
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歓談の中で高橋市長は「新規参入してくれる事業者・企業の皆さんをしっかり応援していくスタンス、これは紛れもない」と語り、シンクファーストを歓迎した。

IT企業のシンクファーストだが、今回、村上市にオープンするのはオフィスではない。

「リゾート事業は全くの初めてなので、大丈夫かとよく言われる」と話す沼前社長。

手掛けるのは、村上市にある『ぶどうスキー場』。

ぶどうスキー場
ぶどうスキー場

1988年の開業以来(当時は朝日町)、公営のスキー場として、地元の人をはじめ多くの人に愛されてきた。

しかし、降雪が少なくなり営業日数を確保できなくなっているうえに、利用者の減少や施設の老朽化などから、市の財政健全化の一環で、25年3月に惜しまれつつも営業を終了することになった。

新潟市からスキー場を訪れていた男性は「斜面もすごく練習に持ってこいだし、食堂の皆さんがすごくいい方ばっかりでご飯もおいしいし、大好きなスキー場。ローカルゲレンデがなくなるのはさみしい」と話し、地元の男子中学生は「市内という身近なところで友達と一緒に滑れて最高の環境。なくなってしまうのは悲しい」と惜しむ声が聞かれた。

営業最終日にスキー場を訪れ「なくすのはもったいない」

ウインタースポーツが趣味という沼前社長は、営業最終日に初めてぶどうスキー場を訪れたという。

「滑ったらいいスキー場だったので、このスキー場をなくしちゃうのはもったいないなと。小学生・中学生が私に声をかけてくれたときがあって、その子たちが滑れなくなってしまうのはかわいそうだなというのがあった」

そこで、会社としてリゾート事業を立ち上げることに。

この日、村上市との間で土地の賃借のほか、議会での賛成が得られたリフトやロッジなどの施設・設備を3年間無償で借り受ける契約を結んだ。

市長との面会が終わり、沼前社長は「市もバックアップしていただけるということなので、大いにフルスロットルで頑張っていく」と決意を新たにしていた。

ようやく施設引き継ぎ「やっと…」

市と契約を結んだ直後、ぶどうスキー場にやってきた沼前社長が乗っていたのは、キャンピングカーだ。

趣味のウインタースポーツをする上で必要だったので買ったといい、打ち合わせなどで村上市を訪れる際に活用。

自由度もあるため、時には日中に村上市で打ち合わせを行い、夜に東京で仕事をすることもあったという。

東京から片道約6時間かけ、スキー場存続のため動き出した25年3月から10回以上にわたって村上市に通い、ようやく施設の引き継ぎに至った。

ロッジの鍵
ロッジの鍵

ロッジの鍵を受け取った沼前社長は「年季も入っていたので、重要なものをいただいたなと。やっとやれるんだなという思いが湧いてきた」と話す。

目標としているこの冬の営業再開に向け、ロッカーや貸し出し用のスキー板といったロッジ内の設備を確認した。

支配人を務めるのはノウハウ持つ地元民

市とのやりとりを主導するのは、今回、スキー場の支配人に就任する飯山達哉さんだ。

飯山達哉さん
飯山達哉さん

神奈川県出身の飯山さんは、18年に村上市に移住し、20年からシーカヤック施設などを営業。また、ここ3シーズン、冬の間はぶどうスキー場でパトロールを行っていた。

村上市とぶどうスキー場に詳しく、さらにレジャー事業のノウハウがある地元の若者であることから、沼前社長から支配人のオファーを受けた飯山さん。スキー場オープンに向けた実働を担っている。

人気の“食堂”存続へ!雇用契約に向け賃金など確認

10月3日には、かつてスキー場で食堂を運営していた葡萄集落のスタッフとファンの多かった食堂の存続に向けて打ち合わせを行った。

今後はスキー場と一体で食堂を経営していく方針で、老朽化が進み、更新が必要な設備や、村上市の特色ある食材を使った新たなメニューの案について共有。

また、スタッフは会社と雇用契約を結ぶことになるため、賃金についても確認が行われた。

最低賃金よりわずかに高い時給になるほか、利益が出た場合は、賞与が出る方針が表明されたスタッフは、「今までボランティアみたいな感じでしかもらっていなかったので、時給がもらえるのはありがたい」と話した。

「赤字にするわけにはいかない」

ただ、その分コストカットや販売促進が重要になってくる。自治体による運営が終了した理由の一つが赤字のため、売り上げの確保は避けては通れない。

支配人を務める飯山さんは「民間になるから赤字にするわけにはいかないので、いかにお客さんに来てもらうかというのはすごく考えている。僕らは年間パスポートを買ってほしい。トレーニングにたくさん来てもらえるようなスキー場を目指したい」と今後の戦略を話す。

これまでのファミリー層だけでなく、急な斜面がある特徴を生かして技術向上を目的に訪れる人の獲得を明確に打ち出していくほか、近所にある空き家をリノベーションして民泊をオープンさせる構想もある。

また、雪の降らない夏の間は、キャンプ場やRVパークとして営業する考えだ。

ゲレンデの草刈り作業は自らの手で

ただ、目下の作業はゲレンデの草刈り。この日は10月にも関わらず、村上市で最高気温が26.6℃に達し、夏日となる中で作業が行われていた。

「自分たちの手でやるスキー場だという思いがすごく強くて、できるところは自分たちでやろうということ」と飯山さんはこだわりを話す。

新たな事業を立ち上げたり、自らの手で草を刈ったりするのも、すべてはこのゲレンデを残すため。

沼前社長は「次の世代につなげていくために、まずは3年間、しっかり黒字化して、リフトの更新とかもできるように頑張っていきたい」と意気込む。

地方のスキー場を存続させる取り組みは、まだ始まったばかりだ。

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NST新潟総合テレビ
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