セツの八雲に対する印象も大きく変わっている。自分に向けられる視線や言葉遣いが優しくなった。神経質で気難しいところはあるのだが、そのぶん、よく気がついて細やかな気遣いをしてくれる。本当は優しい人なのだと思うようになってきた。
お互い好印象をもつようになり、それがやがて恋愛感情に発展する。
出会いのエピソードがネタに!?
結婚して子供ができてからの八雲は、「世界で一番良きママさん」と、もうセツにメロメロ。初対面の際の暴言の数々をすっかり忘れているようだった。
ところがセツは自分の体格をけなされ、農家の娘と決めつけられたことを忘れていない。晩年になってからも、よくそれについて語っていた。
しかし、恨んでいる感じはなかった。当初は不快に思い怒っただろうけど、長い年月を経て、夫との懐かしい出会いのエピソードに変容している。それを人々に面白おかしく語って聞かせる…稀代のストーリーテラーの得意ネタにもなっていたようである。
青山 誠(あおやま・まこと)
作家。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。
