セツの八雲に対する印象も大きく変わっている。自分に向けられる視線や言葉遣いが優しくなった。神経質で気難しいところはあるのだが、そのぶん、よく気がついて細やかな気遣いをしてくれる。本当は優しい人なのだと思うようになってきた。

お互い好印象をもつようになり、それがやがて恋愛感情に発展する。

出会いのエピソードがネタに!?

結婚して子供ができてからの八雲は、「世界で一番良きママさん」と、もうセツにメロメロ。初対面の際の暴言の数々をすっかり忘れているようだった。

ところがセツは自分の体格をけなされ、農家の娘と決めつけられたことを忘れていない。晩年になってからも、よくそれについて語っていた。

しかし、恨んでいる感じはなかった。当初は不快に思い怒っただろうけど、長い年月を経て、夫との懐かしい出会いのエピソードに変容している。それを人々に面白おかしく語って聞かせる…稀代のストーリーテラーの得意ネタにもなっていたようである。

青山 誠(あおやま・まこと)
作家。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。

青山誠
青山誠

作家。大阪芸術大学卒業。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。著書に『ウソみたいだけど本当にあった歴史雑学』(彩図社)、『牧野富太郎~雑草という草はない~日本植物学の父』、『三淵嘉子 日本法曹界に女性活躍の道を拓いた「トラママ」』、 『やなせたかし 子どもたちを魅了する永遠のヒーローの生みの親』、『小泉八雲とその妻セツ 古き良き「日本の面影」を世界に届けた夫婦の物語』(以上KADOKAWA)などがある。