北海道内で相次ぐクマの出没について、北海道猟友会札幌支部のヒグマ防除隊隊長の玉木康雄さんにお話を伺います。
―連日、人の生活圏に当たり前のようにクマが出没している状況をどのように考えていますか?
「最前線にいる私たちにとっても、これほどまで状況が悪化してくるということは想像していなかったです。クマが増えてきているということもわかっていて、いずれはそのような状況に備える必要があると予測していたので、札幌市のヒグマ防除隊として備えてきましたが、まさかここまでとは思っていなかったです」
―札幌市西区山の手のクマが一時間ほど居座って木の実を食べていたということでしたが、この行動をどう見ていますか?
「今年は木の実が本当に少ない。ドングリ、コクワはほぼ全滅の状態。ヤマブドウもわずか。そのような中で住宅地周辺は水はけもよく、ある程度肥料があるので、クリとか、オニグルミといった食べられるものがある。それによってその場所に執着していた可能性があります」
札幌市西区を中心にクマの出没が相次いでいますが、地図上で見るとその多さが伺えます。
2週間前の9月26日に平和丘陵公園で男性が襲われました。
10月8日には西野の住宅街で目撃され、9日の夜にはクマが目撃されてから一時間ほど居座り食べ物を食べる姿が確認されました。
―完全に我々の生活圏に入ってきてしまっているので、対処の仕方が非常に難しいのではないですか?発砲するにしても市街地だとデリケートな問題になりますよね。
「そもそも市街地ですから、どこに銃口を向けるにしても市街地。人がいる場所ですよね。人間に被害が及ぶ発砲はそもそもできませんから、隊員たちには、住宅密集地で活動しなければいけない限りは、矢先に注意しながら、撃つときでも人間に危害が及ばないように注意をしながら発砲するようにしています」
―札幌でクマの事件というと、2021年6月に東区で起きたクマが4人の方を次々と襲った事件が頭をよぎるのですが、またこのような状況になってしまうことはあるのでしょうか?
「4年前に出没したクマと、いま西区に出没しているクマとはちょっとだけ状況が違うと思います。東区のクマは水路をつたって突然人間の居住圏のほうに入ってきてしまったことで、もとに戻れなくなってしまってパニックになったことがありました」
「今回の山の手周辺の、山林近くのクマはエサが足りなくなってきて、徐々に人間の生活圏に踏み出してしまっている。このような点でどちらが冷静であるかと考えると、今回の西区のクマの方がパニックにはなっていない、冷静と言えます」
―市街地深くに入りこんでしまったクマはなにをしでかすかわからない状態にあるのではないでしょうか。
「そうですね。クマがパニックになってしまうトリガーは人間にはわからない。そのようなときにどのように対応するか。あるいは個体数を調整していかなくてはならない日も目前に迫ってきている」
―西区にはヒグマ警報が発令されています。早朝深夜に散歩したり山に登ったりするのが本当に危険ということをもう一度認識してもらうことが必要だと思うのですが…
「その通りだと思います。今後一生この状態を続ける必要はないが、今年はクマのエサが少なく餓死する個体もいるだろうし、人里にでてくることで捕獲される個体もいる。そうすることで個体数が調整される。やがてバランスがとれるまで、危険なときには(クマが出そうな場所には)行かないというように生活を考えてほしいです」
もしクマに出くわしたらどうするか。
知床財団のホームページによると『とにかく落ち着いて行動する』ことが大切だそう。
クマとの距離が100mほどだったら、静かにゆっくりと離れることを心がける。
クマとの距離が20mから50mほどだったら、ゆっくりと両腕をあげて振り、穏やかに声を出す。クマに「ここにいますよ」「人間ですよ」ということを伝えることが重要となります。
さらには障害物の後ろに隠れることが重要だそう。
―この対応についてどのように思いますか?
「指摘するならば、クマがすぐに乗り越えられるような障害物に逃げてはいけません。ブロック塀のような丈の低いものはクマの障害物にはならないので、太めの木を抱えるような格好で逃げるとよい。直進するクマに直撃されないような状況を作ることが大切です。しかしそのような対応に迫られるような状況をつくる前に、しっかりと距離を保って対応することが大切です」