被爆から80年がたち被爆者から直接、その体験を聞く機会が減る中、平和の重要性を訴え続ける被爆体験伝承者がいます。

核保有国・フランスで平和を訴える、25歳の若者の姿を追いました。

≪フランスでの講話≫
【被爆3世・井上つぐみさん】
「ボンジュールハローエブリワン。私は井上つぐみです。被爆体験伝承者をしています。1945年8月6日 8時15分 原子爆弾が広島市の中心部にある相生橋に向けて投下された」

外国で被爆の実相を伝える、一人の女性。
被爆3世の井上つぐみさん。
訪れたのはいまも核を保有しているフランスです。

≪フランスでの講話≫
【被爆3世・井上つぐみさん】
「(被爆者の)川本さんは広島駅のあたりで姉と一緒に見つからない父と妹を探し回った。そこにいる人たちはみんな大やけどを負っていて皮膚がただれていて、顔では誰かがわからなかった」

原爆によって壮絶な人生を歩んできた被爆者・川本省三さんの経験と「核兵器廃絶」の重要性を訴えました。

原爆投下から80年。
被爆者から直接声を聞く機会が減るなか、井上さんはその声を代弁したいと今年、被爆体験伝承者になりました。

伝承しているのは88歳で亡くなった被爆者・川本省三さんの被爆証言です。
川本さんは原爆によって母・弟・妹を亡くし、父と姉は行方知らず…。
「原爆孤児」としてこれまで懸命に生きてきました。

≪広島県立千代田高校での講話 10月1日≫
【被爆3世・井上つぐみさん】
「当時、川本さんは国民学校6年生、11歳でした。爆心地から60キロ離れた疎開先の善徳寺からもきのこ雲が見えたといいます。

実際に川本さんと一緒に作った紙飛行機と折り鶴を持ってきました。私はこの紙飛行機と、おりづるを川本さんから受け取った平和へのバトンだと思って大切にしています」

【井上つぐみさん】
「川本さんは原爆孤児のことを伝えたいという思いで、証言活動を始められたので、いかに原爆孤児が壮絶な人生を強いられたのかというのを伝えていきたい」

一人前の医師を目指すと同時に新たに始めた被爆体験の伝承。

≪英語の講話の様子 原爆資料館 9月≫

【井上つぐみさん】
「(聞きにくる外国人は)多い。(日本語講話の)倍以上です。皆さん英語だから聞きに来るという感じだと思う。英語での伝承講話のニーズの高まりを感じている」

【英語の講話を聞いた外国人】
「ありがとう」

井上さんは今年6月、外務省が企画した被爆80年のプロジェクトに参加し、ヨーロッパの3カ国で伝承者として被爆実相や核廃絶を訴えてきました。

【井上つぐみさん】
「そこで私のスピーチを聞いてくれた人が伝承講話をしてほしいと声をかけてくれて、今回パリで伝承講話をすることになりました」

核保有国・フランスから届いた依頼。
直接経験していないことをどう伝えていけばいいのか直前まで自問自答します。

【井上つぐみさん】
「聞いてくれたすべての人が原爆は恐ろしいものであり、戦争はするべきでない。核兵器は廃絶するべきだと考えられるような伝承講話にしていきたい」

≪広島空港 9月≫

【井上つぐみさん】
(Q:昨日はぐっすり寝られました?)
「あまり寝られていなくて30分くらいしか寝られませんでした。頑張ってきます。行ってきます」


フランス・パリへ…。一歩を踏み出します。

世界150を超える国の学生たちが生活する「パリ国際大学都市」
この会場で川本さんの被爆体験を海外の人に伝えます。

事前のリハーサルが進み、井上さんも緊張の面持ちです。
あの日の出来事を聞こうと会場にはおよそ70人が集いました。

【井上つぐみさん】
「多くの原爆孤児たちは冬の寒さと飢えで亡くなった。 中には犯罪に巻き込まれて、命を落とすものもいたと。川本さんは当時を振り返る。原爆投下後から6カ月、一緒に暮らしていた川本省三さんの姉は髪の毛が抜け始め、そして動けなくなった。17歳という若さで姉は亡くなった」                     

ほとんどの人が『被爆』の話を聞くのは初めて。
井上さんの講話を聞いて何を考えたのか。


【講話を聞いたフランス人】
「原子爆弾による直接のものだけではない、被害者の苦しみを知りました」
【講話を聞いたフランス人】
「現在の出来事とも結びつけて考えることができました。今、世界中でたくさんの戦争が起きていて、私たちに行動する必要があることを思い出させます。時間をかけてでも努力していかなければならないと強く感じます」

なかには「被爆者はアメリカを恨んでいるのか」という質問もありました。


【井上つぐみさん】
「アメリカを恨む気持ちはあったけど、恨んでいては平和な世の中を作れないということで、恨む気持ちもあるけど、同じ未来を見て、同じ方向性を持って、平和な世界を作り上げていくというのを被爆者の方がおっしゃっていたので、その言葉をお伝えして納得していただいた」

川本さんから受け取った平和のバトン。

【井上つぐみさん】
「被爆者の方々が果たしていた役割を今度は被爆体験伝承者の私たちが果たす時代が来ているのではないかと思う。これからも川本さんの証言を第一に伝承活動をしていきたい」

被爆者なき時代が迫る中、託された思いは国を超えて繋がっていきます。

テレビ新広島
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