8月の大雨で大きな被害を受け、復旧と生活再建に向けた活動が続く秋田・仙北市西木町上桧木内地区。9月下旬に開催された100キロチャレンジマラソンでは、コースの一部となっているこの地区を多くのランナーが駆け抜けた。災害ボランティアなどの支援に対する恩返しをしたいと、ランナーや大会スタッフに温かい食事を提供した被災住民たち。浸水被害を受けた老舗旅館の女将は、ランナーたちから逆エールを受け、営業再開に向けた一歩を踏み出した。
災害ボランティアの支援に“お返し”
8月19日から秋田県内に降った大雨では、106棟の住宅が浸水などの被害に見舞われたほか、農林水産関係の被害額は47億円余りに上っている(9月30日時点の県のまとめ)。

この雨で仙北市西木町では桧木内川が氾濫し、上桧木内地区を中心に大きな被害が出た。

9月28日午前4時。夜が明ける前のこの地区で、一つの建物に明かりが灯っていた。創業約100年の「なか志ま旅館」だ。3代目女将の中島勝子さん(83)が、調理場で手際よく調理を進めていた。

なか志ま旅館は大雨の際、床上70センチまで浸水した。旅館に併設する食事どころは、厨房の床下に泥がたまったほか、調理道具や家電などが水に漬かったため営業を停止。全国からのボランティアの支援を受け、再開を目指している。
先日は業務用の調理器具を譲り受け、再開に向けて明るい光が差し込んだ。

中島さんは「みんなからお見舞いをいっぱいもらった。ボランティアも来て手伝ってくれた。それがなかったら、こんなに早く復活できなかったから『何かでお返しを』と考えた」と語った。
近くにある紙風船館も浸水被害に遭い、そこにあった店もなくなり、いつも応援に来る人の休む場所がなくなったこともきっかけだった。
温かい食事で“感謝”伝える
「助けてもらった恩返しを」と考えた中島さん。仙北市角館町から北秋田市鷹巣を目指す100キロチャレンジマラソンの応援に来た人たちに、感謝の食事を振る舞うことを決めた。

大雨の後、厨房を使ったのはこの日が初めて。中島さんは「ようやく一歩だな。まだ全部はできないが」と、大会当日の28日未明に作業を開始した。
地元の農家から譲り受けた「あきたこまち」の新米のおにぎりと、地元でとれたマイタケと山菜が入った味噌汁を作った。

そして午前6時半過ぎ、地区の紙風船館前にランナーが見え始めた。
中島さんはテントを立て、仲間たちとそれぞれ持ち寄った料理を応援に来た人やスタッフに振る舞った。

「おつゆも食べて」と声をかけて味噌汁を手渡した中島さん。
岩手から応援に来た人は「おふくろの味。皆さんの心のこもった味がする。おいしい」と笑顔を見せた。
ランナーからの“逆エール”が後押しに
おいしそうな匂いに誘われたのか、ランナーも次々とテント前に集まってきた。

中には「頑張ってください。桧木内、応援してます」「ありがとう。水害に遭ったのにありがとうございました」と、中島さんたちを応援するランナーの姿もあった。
たくさんのエールは、旅館の再開に向けて大きな力となったようだ。

「1カ月前は想像できなかった。やる気もなかったし、やるつもりもなかった。だんだん片付いてきて、周囲も応援してくれるから、だまっていられない。旅館をやらないと駄目だなという気持ちになった」と語った中島さん。
「応援する人を応援して、自分も応援されて、やって良かったと思う」と前を向いた。
なか志ま旅館は11月に併設する食事どころの再開を目指している。
(秋田テレビ)