連続テレビ小説「ばけばけ」でドラマ化された「小泉八雲とセツ」の物語が、島根・松江市に新たな熱気をもたらしている。
互いを深くリスペクトし合った国際カップルの絆と、日本の知られざる姿を世界に紹介した八雲の功績が再評価される中、松江市と熊本市では、記念館の来場者増加や特別展の開催など様々な波及効果が生まれている。
小泉八雲の「開かれた心」=“オープンマインド”の精神は、130年を経た今も私たちに大切なメッセージを伝えている。

小泉八雲記念館(松江市)
小泉八雲記念館(松江市)
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松江市が"心のふるさと" ドラマ効果で注目高まる小泉八雲とセツの物語

小泉八雲・セツ夫妻をモデルにしたテレビドラマが9月29日にスタート。
その放送開始を前に、松江市を中心とした島根県内では、波及効果を狙った商戦が熱を帯びていた。

小泉八雲にちなんだスイーツ
小泉八雲にちなんだスイーツ

雪女をモチーフにした砂糖菓子や、八雲が愛した「プディング」、八雲の好物にちなんだ「卵まんじゅう」など「八雲グルメ」が登場。

松江堀川遊覧船の「怪談」バージョンに
松江堀川遊覧船の「怪談」バージョンに

さらに怪談を聞きながら堀川をめぐる幽霊船の特別運航など、八雲にちなんだ様々なイベントも開催されている。
今回のドラマのヒロインとなる八雲の妻・セツは、八雲の名作誕生の背景にはなくてはならない存在だったとされている。

貧しい生活を送ったセツと八雲の出会い

1868年(慶応4年)、松江藩の士族の家に生まれたセツは、生後間もなく親戚の士族の養女となった。
明治維新で士族が没落するとセツも貧しい生活を強いられ、進学をあきらめて機織りの収入で家計を支えた。
そんな中、英語教師として赴任したラフカディオ・ハーン(のちの小泉八雲)の身の回りの世話をする住み込み女中となったことが2人の出会いとなった。

小泉八雲・セツ夫妻
小泉八雲・セツ夫妻

来館者は前年同期比140% 放送開始前からドラマ効果

松江市の小泉八雲記念館では、八雲に関わる資料を保存し、その足跡を紹介している。
現在、セツの生き方にスポットを当てた企画展が開かれており、ドラマが始まっていない状態でもすでに2024年と比べて40%以上多い来館者が訪れているという。

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)

2024年6月から2025年9月まで開かれた企画展には約12万人が来場し、記念館はすでにドラマ効果を実感している。

小泉八雲の曾孫・小泉凡氏
小泉八雲の曾孫・小泉凡氏

記念館の館長で、小泉八雲の曾孫・小泉凡さんは「ニュージーランドのアーティストの方が来られて、小泉八雲に関心を持って、これから予算をとってニュージーランドでもイベントをしたいという話があった。直接のゆかりの地じゃないところの方も、少しづつ関心を持ち始めている」と話す。

“オープンマインド”の精神で培う  国際結婚カップルの深い絆

当時は珍しかった国際結婚をした八雲とセツ。
八雲の曾孫・凡さんは「しっかりと結びついている夫婦でリスペクトし合っていて、ハーンは『世界で一番のママさん』と言い、セツは『世界で一番のパパさん』と言っていた」と説明。
国籍や生まれ育った環境の違いを超えて、深く結ばれていたという。

その根底にあったのは"オープンマインド"の精神だと凡さんは語る。
「八雲の精神の根幹にある"開かれた心=オープンマインド"とか、かそけき者の声音に耳を傾ける態度を貫いた人だった」と、八雲は様々な人を受け入れ、どんな人にも平等に接していたという。
「偏見を持って相手を見ない、そういう人柄は130年くらい前の人ですが、現代に通ずることを言っている」と、凡さんは八雲の現代性を強調する。

提供:熊本市
提供:熊本市

松江に赴任して約1年3か月後、八雲は第五高等学校の英語教師として招かれ、九州・熊本に移ることになった。
「知り合って1年も経っていないし、愛情を確認してから半年もないその中で一緒に熊本へ行くということは、良く言えば勇気あるし変わってたんだなと思う」と「八雲会」の内田融理事は振り返る。

八雲会の内田融理事
八雲会の内田融理事

1915年、松江時代の八雲に直接教えを受けた人たちを中心に創設された「八雲会」は、八雲の功績をたたえ次の時代に伝える活動に取り組んでいる。

熊本市も“八雲ゆかりの地”として盛り上がる

ドラマ放送で盛り上がるのは松江市だけではない。
八雲が3年間過ごした熊本市でも、当時2人が暮らした住居が移築・保存されている。
熊本博物館では「小泉八雲来熊135周年」を記念した特別展が12月から開催される。

熊本博物館
熊本博物館

八雲にとって熊本にもお気に入りの場所があり、いくつかのエピソードが残されているという。
熊本博物館の学芸員(民俗学)の湯川洋史さんは、「有名な話だと、セツをデートに誘ったら墓だった…」という逸話を紹介した。

セツ愛用の「英単語帳」
セツ愛用の「英単語帳」

特別展では、セツが熊本の自宅で使っていた英単語帳や、八雲の「家族愛」を示す資料など、松江市の記念館が所蔵する資料を中心に約40点が紹介される。

小泉八雲とセツが出会ったまち松江をPRする幟
小泉八雲とセツが出会ったまち松江をPRする幟

今回のドラマをきっかけに、松江市と熊本市は連携して「八雲」を通じた文化・観光面での交流を進めるなど、新たな地域のつながりも生まれている。
小泉凡さんは「(松江市が)八雲を通して世界とつながる街になって欲しい」と願いを語る。

日本の知られざる姿を世界に紹介した八雲。赴任から130年あまりとなった今、こよなく愛した松江の風景が再び脚光を浴びている。

(TSKさんいん中央テレビ)

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TSKさんいん中央テレビ
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