「スカウトは必要悪」と風俗店経営者

東京都心で風俗店を経営する男性は「人気店の中で、スカウトを使わない店をここ10年見たことがない」と語る。女性が稼いだ給与のうち10%程度を、女性を斡旋してきたスカウトに支払ってきた。

風営法改正以後、経営が成り立たずに閉店する店舗が相次いでいるとして、「グレーゾーンで綱渡りしている自覚はあるが、スカウトに頼らず生きていけない現状があるのに、法改正だけ先行されても困惑しかない」と話す。

スカウトは、女性と店の間を円滑に取り持つ“仲介役”であるとして、「お金を稼ぐ必要のある女性を助ける側面もあり、『必要悪』と言えるのではないだろうか」と強調する。

組織化進める“トクリュウ”

関係者らが口々に「実質的には変わっていない」と語る夜の街。規制対象となった“トクリュウ”の当事者はどう見ているのか。

ナチュラルの現役男性メンバーは、グループへの規制が強まった一方、より強固になったのが摘発への対策や情報管理の徹底だと明かす。

「警察に供述したり第三者に情報を漏らしたりしてリンチされた、といった話は珍しくはない」

このメンバーによると、ナチュラルには、全国の主な繁華街を拠点に1千数百人のメンバーがいる。メンバーらは“赤・青・黄・緑・黒”といった色ごとチームに分かれ、更に細分化された班で統制を取っている。

それぞれに顧問弁護士が割り当てられ、検挙された際などに対応できるようにしているという。

“闇アプリ”で情報管理

組織内での情報管理の徹底のために用いられているのが、記事冒頭に登場した“闇アプリ”の存在だ。このアプリは公式のアプリストアではインストールできない。男性メンバーは「飲食店で担当者と面談した際、しばらくスマホを預けたら返却時にインストールされていた」と振り返る。

アプリを開くと、一見、普通のニュースサイトが出てくる。しかし、右下にある“+”ボタンを押すと、出てくるのは何故か電卓。そこに決められた数式を入力することで、アプリの真の姿を見ることができるという仕組みだ。

スカウトらが勤怠入力をできる機能があるほか、風俗店を中心とした全国の求人情報が掲載されていた。不動産業者や美容整形クリニックに、女性顧客を紹介する求人情報も。
男性メンバーは「我々は女性を誰かに繋げるプロ。お金になるなら、どんな業界にも手を広げていく」と語った。 

「おはよう逮捕」に3つの対策

このアプリで最も象徴的なのが、摘発を逃れるための“脱法マニュアル”が数多く掲載されている点だ。

警察を“プロ”と称し、多種多様な「プロ対策」が共有されている。

「プロ対策3ヶ条」というマニュアルでは、➀絶対に携帯の暗証番号を言わない、②絶対に店の名前を言わない、③絶対に会社名を言わない、と掲げ、「守れない人は責任取らせます」などと記されており、実際に違反した際の罰金の額なども列挙されていた。

また、早朝の家宅捜索と逮捕を「おはよう逮捕」と表現し、3つの対策をするよう呼びかけていた。

➀インターホンを押され「警察だ!逮捕状出てるから開けろ!」と言われるので、無視してしっかりとチェーンを掛けてください。

②上司や本社の人間に電話をし、おはよう逮捕が来た事を伝えてください。

③スカウト関係の物を処分します。給料袋、領収書、スカウト関係の事が書いてあるノートなどです。

実際に逮捕されたメンバーの体験談も掲載されていた。

「この度は自分の仕事への認識の甘さでご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした」と杓子定規に始まる体験談は、逮捕に至るまでの経緯や、取り調べで何を問われ、どう受け答えしたかなどが事細かに書かれていた。体験談を書くと、実際に逮捕された際の弁護士費用や、刑事罰の罰金の半額を、“会社”が肩代わりしてくれるという。

摘発逃れのために、ありとあらゆる情報共有がされている印象を受けるが、ナチュラルの対策はそれだけにとどまらなかった。