筋肉が徐々に衰えていく指定難病の男性が、障がい者や高齢者と介護事業所などを結ぶ、無料のマッチングサービスを始めました。目指すのは『福祉革命』、障がいの有無に関わらず、誰もが楽しめる社会を目指し、新たなイベントも企画しました。

■目指すは“福祉革命”! 重度障がい者の社長の挑戦
名古屋市緑区に住む松元拓也さん、36歳。動くのは右手の親指と人差し指、それに左手の人差し指だけです。

体の筋力が衰えていく難病「脊髄性筋萎縮症(せきずいせい・きんいしゅくしょう)」で、食事やトイレなど、24時間ヘルパーの介助が必要です。
妻の祐香さんとは訪問看護で出会い、結婚。インスタグラムで夫婦の日常を投稿しています。
〈インスタグラムより〉
祐香さん:「重度障がい者の嫁です」
拓也さん:「旦那です。俺が家におったら ええ女が来たからさ、ナンパしたのよ」
祐香さん:「めっちゃナンパされました」

妻の裕香さん:
「精神的な面というか、心を支えてもらっているところは大きいですね。ポジティブだから」
松元さんは、企業から依頼されたホームページや動画を制作する会社「OLDROOKIE」の社長を務めています。

現在は訪問看護やヘルパー部門を立ち上げ、12人の従業員と目指すのは「福祉革命」です。
OLDROOKIE 松元拓也社長:
「指で革命を起こそうと思っております。僕の動画は自分で作っています」
〈TikTokより〉
松元さん:
「オッス!オラ重度障がい者 障がい者もやればできることを証明したいので、誰が考えても無理だろうという難題に挑戦していくぞお!!」
会社の動画は「できない」姿ではなく、「やってみる」姿を発信しています。
25メートルの水泳にも挑戦しました。
〈TikTokより〉
祐香さん:「足が大事だよ!足!足動かして。手と足!」

松元さん:
「きつかったです。寒いし。ビックリするくらい動かないんですよ。頑張って股関節を動かしてた感じかなー、くっくっくって」
松元さんはおよそ47分をかけて、見事に泳ぎ切りました。
■“無謀”に日々挑むワケ…「命の恩人」福祉マッチングとは
松元さんが、不自由な体を張ってでも注目を集めようとするのは、ある取り組みを知ってもらいたいからです。
松元さん:
「こちらです。『ふくはぴ』です。これは訪問サービスを提供する事業所と、訪問サービスを受けたい利用者側を、マッチングさせるというサービスです。完全無料で使えるマッチングサービスは『日本初』ですね」
『ふくはぴ』は、ヘルパーの林幸太郎さんとアイデアを出し合い、共同で開発しました。
これまで障がい者・高齢者などの利用者が、ヘルパーや看護師を探す手段は、ケアマネジャーなどが持つ情報のみでしたが、無料のマッチングサービスを作ることで、利用者と事業所の双方が日時やエリア・条件などを掲載し、広く相手を探すことができるようにしました。

『ふくはぴ』を開発した背景にあるのが「介護崩壊」の懸念です。
松元さん:
「僕の場合、24時間介護でヘルパーを利用しているので、1人でもヘルパーがいなくなっちゃうと生活が成り立たないんですよね。相談員さんにお願いしたんですけど、どこも『ヘルパーさんいないんです』と、返答が返ってきて」
厚生労働省の推計では、65歳以上の人口がピークを迎える2040年度に、57万人の介護職員が不足し、現行のサービスを維持することが困難になるとされています。
その中で『ふくはぴ』は、利用者の人生を大きく変えるきっかけになっているのです。

『ふくはぴ』に登録している24時間介助が必要な41歳の男性は…。
〈男性のチャット〉
「『ふくはぴ』が無かったら、今の事業所と出会うことは出来なかったと思います」
「大げさに言えば、命の恩人。『ふくはぴ』さまさまです」

『ふくはぴ』の登録者は徐々に増え、対象エリアは愛知に加え、4月からは北海道と東京にも拡大し、全国へのサービス拡大を目指しています。

松元さん:
「完全無料で利用できるサービスのため、お金に非常に困っております。スポンサー大募集中なので、ぜひお問い合わせいただければと思います。よろしくお願いします!」
■福祉革命へ「夏の陣」開催も 松元さんの体に異変が…
2025年の夏。松元さんたちはあまり知られていない多様な訪問サービスが体験できるイベント「ふくはぴんち」を企画しました。

松元さん:
「訪問ヘルパーをいろいろ利用するようになって、充実した生活を送ることができるようになったんですけど、その状態になるまで、いろんな情報を集めてきたんですよ。それに16年くらいかかったんですね」
ヘルパーの林幸太郎さん:
「子供たちが孤立しないように、寂しくないように、人とのつながりとか、人生楽しいよって、障がいがあるからとあきらめないで欲しい」
松元さんは特別支援学校を回って、参加を呼びかけました。
地元ラジオ局「Heart FM」の協力で、DJのジェイムス・ヘイブンスさんとともに、イベントの告知もしました。

多くの人々に支えられ、8月9日、愛知県東浦町で「あつまれ!ふくはぴんち」が開かれました。
しかし、イベント初日、松元さんの体に異変が起きていました。

松元さん:
「ずっと肺の具合が悪くて、スクイージング(排たん処理)してもらってます」
松元さんの姉(看護師):
「どうしても肺の動きが抑制されちゃうので、それをしっかり広げてあげて、肺を動かすことで、たんが肺胞からはがれて、出しやすくなります」
全身の筋力が弱いため、たんを吐き出すことができず、呼吸困難になっていました。
体調は「絶不調」、それでも松元さんは、パンダのかぶりものを着け、イベントに臨みました。
松元さん:
「子供たちの人生が明るく輝かしい未来になるように。皆さんご協力お願いします。『あつまれ!ふくはぴんち』始めます」

訪問介助に訪問入浴など、在宅向け訪問サービス事業所などが、およそ20のブースを出展しました。
介助者も一緒に押してくれる「車いすアシスト」や、「折りたためる電動カート」など、最新機器も並びました。

来場した親子:
「うちの子は、肢体不自由だから、この子は『将来運転したい』と言っているんですけど」
男の子は上半身だけで車の運転ができる、アクセルやブレーキの体験をしました。いつかお母さんが乗せてもらえる日が来るかもしれません。
母親:
「感動して、泣いちゃうかもしれない」

「1人暮らしが夢」という少年は、訪問入浴サービスの体験で、イメージを膨らませます。
特別支援学校 高等部3年の少年:
「初めての体験でした。こんな感じにやるのかと勉強になりました。(1人暮らしが)こういう感じになるのかと、結構ワクワクしてます」

「ふくはぴんち」には乙武洋匡さんなど、日頃、介護について発信している著名人も参加し、会場は盛り上がります。
■サポートと工夫で…「誰もが自由な人生を」
しかし、イベント2日目、松元さんの体調は、さらに悪化していました。
松元さん:
「呼吸器をつけています。全然、肺が動かなかったんで、息が全然できなくて」

これまでの疲労から、さらに体調が悪化、ここまでしてでも、松元さんには、その目で見たい光景がありました。
来場者の母親:
「普段こんなにね、ずっと目を開けて覚醒していることないんですよ。よっぽど多分楽しいのかな」

皮膚の難病がある通信制高校に通う女子生徒は、父親とダーツを楽しんでいます。夏場は外出を控えていますが、この日は、どうしてもとやって来ました。
女子生徒:
「いろんな方に会えたのが、すごい良かったです。松元さんも自分ですごい頑張って、いろんな活動されているから、すごいなと思ったので、自分もそういうことをしたいなって」

サポートを受けたり、工夫することで、人生は大きく変わる。より自由な生き方ができる。
「ふくはぴんち」には2日間で350人以上が来場し、目を輝かせて帰っていきました。
松元さん:
「無事に終わってよかった。全員が『めちゃめちゃ楽しかった』って。とにかく『知らないこと知れたし、楽しくてまたやってほしい』とお声をいただけて。感無量って、こういうことですかね」

障がいの有無に関わらず、誰もが楽しめる社会に。指先から始まる、松元さんたちの福祉革命に注目です。