浜松市の中心部にある夜になると青く光るビル。年季の入った不思議な建物の正体を取材すると、そこにはオーナーやテナントの熱い思いが詰まっていた。
「ちょっと気になる」青く光るビル
静岡県内最大の都市・浜松の中心街「ゆりの木通り」のど真ん中に位置するビル。
夜になると一際目を引くのが青く光るフロアだ。

道行く人に話を聞くと「通勤で通ったりする。ちょっと気になっていた」「薄暗くてちょっと怖い」とその正体はあまり知られていない。
ビルを近くで見てみると、1階にはおしゃれな衣料品店が入っている一方、建物自体はかなり年季が入っている。

若い人が楽しく使える場所に
青く光るフロアはビルの2階、そこにはまるで隠れ家のような”夜カフェ”が…。
お酒を楽しむこともできるほか、ピザなどの軽食もあり、人気のスポットとなっている。

来店客のひとりが「雰囲気もいいし、コーヒーも安くておいしい」と言えば、別の客も「何なのだろう?入り口もどこだろう?と思っていたが、勇気を出して一歩踏み出したらすごく素敵なところだった」と満足げな表情を浮かべる。
青い光は東南アジアを旅することが好きな尾形宏一郎 店長のこだわりが詰まっていて、「向こう(東南アジア)の裏路地や街中の外れにはこういう照明は怪しいが心惹かれる店が多く、そういう雰囲気にしたいな(と思った)」と話す。

こちらのカギヤビルが建てられたのは1960年。
当時は飲食店やオフィスなどが入居していたものの、建物の老朽化もあり今から15年ほど前には空きテナントばかりになった。
そうした状況に寂しさを覚えたのが地元の不動産会社だ。

丸八不動産の平野啓介 社長は「いま46歳だが、中高生の頃の街中は今と比べると非常に活気があり、店もたくさんあって、休みの日に遊びに出かけたい場所だった。若い人が上手く楽しく使える場所にしたいと(カギヤビルを)取得した」と経緯を説明する。
地域の観光案内的な役割も
主に若手クリエイターを対象に貸し出しを進め、内装を自由にアレンジしても良いことに加え、地元出身の写真家・若木信吾さんがオープンした書店「BOOKS AND PRINTS」が話題となったこともあってすぐに満室となった。
若木さんの書店には写真集が数多く取り揃えられ、ファンのみならず、落ち着いた雰囲気に惹かれた客も訪れる。

来店客に話を聞いてみると「浜松にもこういう自分だけの場所が増えてほしい。浜松市は何もないという印象が若者からするとあるが、探したらいろいろあるのかなと」と口にし、BOOKS AND PRINTSの新村亮 店長は「街やこのビルを楽しんで帰ってもらえるように観光案内所的な要素も意識しているので、そういうところは持っていたい」と意欲をのぞかせた。
兵庫県から来たという女性は、以前浜松を訪れた時にカギヤビルの外観が気になり、SNSで評判だったBOOKS AND PRINTSを訪れたという。

そして、書店のスタッフから教えてもらったのが47年前からカギヤビルで営業を続ける「喫茶さくらんぼ」だ。
“お母さん”こと大澄富子さん(86)が切り盛りするレトロな店内やメニューがSNS映えするとして若い世代の間でも人気となっている。

大澄富子さんは「カギヤビルには若い人が古さに興味を持って寄ってくれる。なんだか毎日ここに来たいの。いろいろな人が来てくれて元気が出る」と笑う。
ビルオーナーとテナントの思い
歴史ある店から新しい店まで個性あふれるカギヤビル。

丸八不動産の平野社長は「何か新しい商売を始めてみようという人もいれば、昔からずっと街の変化を見てきた人まで入り混じりながら年代・考え方・価値観を問わず、いろいろな人がいるという多様性こそが街中のにぎわいを生んでくれると信じているので、この場所がいつまで続くのかは置いておいても、それが続いていくことがにぎわいにつながると思う」と熱い想いを語り、KAGIYA CAFEの尾形店長も「少しでも人が集まる場所を作りたいという思いはある。『バーやカフェも気軽に入れる』『街中のほかの店にも入ってみよう』と、それが一歩ずつではあるが、活性化というか人が集まるきっかけになればと思う」と決意を新たにした。

今後も耐震性には細心の注意を払いつつ、街全体ににぎわいを伝播させていきたいというのが”青く光るビル”のオーナーとテナントに共通する思いだ。
(テレビ静岡)