アメリカは10年半ぶりに利下げへ

この1週間、欧米や日本の中央銀行では、金融政策を決める重要な会合が相次ぐ。

FRB=アメリカ連邦準備制度理事会は、30日から31日にかけてFOMC=連邦公開市場委員会を開くが、ここで、10年半ぶりに政策金利の引き下げ、つまり「利下げ」に踏み切る見通しだ。

「利下げ」が行われると、市場金利の低下を通じて、企業や個人がお金を借りやすくなり、設備投資や個人消費が促される結果、景気を刺激する効果をもたらす。

FRB=アメリカ連邦準備制度理事会
FRB=アメリカ連邦準備制度理事会
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本来は、景気が悪化した場合に行われる「利下げ」だが、アメリカ景気は拡大局面が戦後最長の11年目に突入し、雇用も消費も底堅い状態だ。
6月の雇用統計では、景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数が前月に比べて22万人増えたほか、失業率も歴史的低水準にとどまっている。
4~6月の個人消費は、1年半ぶりの高い伸びとなった。

好景気なのに「利下げ」を行う理由

こうした状況にもかかわらず、FRBが利下げに踏み切ろうとしている理由は「景気の下振れリスク」だ。

貿易戦争を背景に、企業投資には減速懸念が広がっている。
製造業の景況感指数6月には2年8か月ぶりの水準にまで低下、4~6月の設備投資は、トランプ政権発足後、初めてマイナスに転じた。
FRBのパウエル議長は、10日と11日に議会証言に臨み、ここ数か月で先行きの不確実性が増してきたとしたうえで、日本を引き合いに出し、後手にまわることのないよう物価上昇を維持し、好景気を保っていくことの必要性を強調した。

つまり、今回FRBが利下げに動けば、それは、景気落ち込みに先手を打つ「予防的利下げ」であり、低金利での資金融通を通じて市場の安心感を高めておくのが目的となる。

ヨーロッパも「利下げ」検討

FRBの金融政策をめぐっては、再選をめざすトランプ大統領が利下げへ圧力をかける言動を繰り返してきた。
また、金融市場は、利下げをすでに織り込んだ上に、その幅は0.25%だとする見方を強めている。

FRBは、利下げを催促するかのような相場と向き合う展開が続きそうだ。

トランプ大統領はFRBに「利下げ」圧力
トランプ大統領はFRBに「利下げ」圧力

一方、25日に開催されたECB=ヨーロッパ中央銀行の理事会でも、近い将来、利下げを行う可能性が示された。
米中の貿易摩擦やイギリスのEU=ヨーロッパ連合からの離脱をめぐる不透明感が広がるなか、景気や物価を下支えしていく姿勢を打ち出したもので、9月にも追加緩和に踏み切る公算が強まっている。

利下げシフトで強まる円高圧力

このような中、日銀は、FRBの会合に先んじて、29日から30日にかけて金融政策決定会合を開く。
欧米が利下げに動けば、金利差を意識して円高が進むおそれがあるが、日銀が打てる方策は限られているのが現実だ。

FRBやECBは、経済不況を脱するため、世の中に大量にお金を供給してきた「量的緩和」をいったん手じまいして、金融正常化への道に踏み出したあと、再び緩和へと引き返そうとしているのに対し、いまだに大規模な緩和を実施し続けているのが日銀だ。

特に、これまでに9回利上げしたうえで、「予防的利下げ」に転じようとしているFRBとは立場が大きく異なる。

日銀は将来を見据えた判断を迫られる

利下げシフトの中、日銀の選択は・・・
利下げシフトの中、日銀の選択は・・・

日銀が追加緩和を行う場合、マイナス金利をさらに拡大すれば、金融機関の経営を一層圧迫することになりかねない。
また、政策金利の先行き指針で「2020年春ごろまで」としている超低金利の想定期間をさらに伸ばして、緩和姿勢を演出するのではとの観測もあるが、これではインパクトに欠けるという声が聞かれる。

FRBの決断が小幅な利下げにとどまる限りは、すぐには急激な円高に傾かないと見られるが、世界の市場はすでに年内の追加利下げがあるものと見込んでいる。

景気減速に備えて、緩和シフトが世界的に強まる環境で、日銀はいかなる手立てを打っていけるのか。
FRBに先だって金融政策を示すことになる中、将来を見据えた判断を迫られる。

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員