「問題すり替え」批判受けても菅政権が指摘する学術会議への疑念

任命拒否は「違法」なのか「適法」なのか。日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人の任命を拒否した“菅流人事”をめぐり賛否が分かれる中、ここにきて日本学術会議そのもののあり方がスポットライトを浴び始めた。

日本学術会議総会
この記事の画像(10枚)

河野行革相は9日の会見で「私のところで年度末に向けて予算、あるいは機構定員については、聖域無く例外なくみることとしている」と述べ、日本学術会議について、行革の観点から在り方を見直す検討を始めることを明らかにした。

菅首相も同日のインタビューで「これを機会に日本学術会議のあり方、良い方向に進むようなら、そうしたことは歓迎したい」と、改革に向けた議論に前向きな姿勢を示した。

こうした動きには、野党などから問題のすり替えであり任命拒否の理由をまず明らかにすべきだとの批判が出ているが、自民党も検討チームを立ち上げ、会議のあり方の見直しを議論する方針だ。では菅首相はじめ政府自民党は、日本学術会議の何を疑問視しているのか、学術会議を巡るこれまでの経緯や政府内からあがる様々な声を元に紐解いていきたい。

前例踏襲でよいのか、菅首相が疑問を呈した理由

菅首相は10月5日の内閣記者会のインタビューで、学術会議から推薦された105人のうち6人を任命しなかった理由を、次のように説明した。

「日本学術会議は、政府の機関であり年間10億円の予算を使って活動していること、また任命される会員は公務員の立場になるということ、また、会員の人選は推薦委員会などの仕組みがあるものの、現状では事実上自分の後任を指名する事も可能な仕組みとなっていること、こうしたことを考えて推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲して良いのか考えてきました」

「予算」「公務員」「後任指名可能」という3つの要因をあげた菅首相はさらに、学術会議は過去にその必要性の是非が問われてきたという歴史的経緯に言及した。

「日本学術会議については省庁再編の際に、そもそも必要性を含めてそのあり方について相当の議論が行われ、その結果として、総合的俯瞰的な活動を求めることになりました。まさに総合的俯瞰的な活動を確保する観点から、今回の任命についても判断させて頂きました」

野党や、任命されなかった学者たちは、任命拒否について「学問の自由の侵害だ」などと一斉に反発しているが、菅首相のこの発言からは、かつて廃止も検討された学術会議の現在のあり方自体に疑義を抱いていることが窺える。

野党合同ヒアリング

“存在意義が不明”に“名誉欲発散の場“かつては廃止論も議論

では菅首相が言及した「省庁再編の際の議論」とはどのようなものだったのか。1997年11月に開かれた政府の行革会議の議事概要には、出席者から出た次のような意見が記述されている。

「会議は会員となる学者の単なるステータスとなるだけで、その存在の意味が分からない。いっそ一度廃止し、どうしても必要なら再度設置すればよいのではないか」

「会議は、名誉欲の発散の場になっているきらいがあり、廃止して総合科学技術会議に吸収すればよいのではないか」

このように学術会議そのものを痛烈に批判する声が挙がっていたのだ。一方で「廃止するには相当なエネルギーを要するので、廃止は必ずしも得策ではない」「当面存続し、どこかでその在り方を検討してはどうか」などの意見も出て、これらを踏まえて「当面存置するが、在り方は総合科学技術会議で検討する」との結論が了承された。

それから6年後の2003年2月の総合科学技術会議では「日本学術会議の在り方」についての意見がとりまとめられた。その中では「日本学術会議は、新しい学術研究の動向に柔軟に対応し、また科学の観点から今日の社会的課題の解決に向けて提言したり社会とのコミュニケーション活動を行うことが期待されていることに応えるため、総合的、俯瞰的な観点から活動することが求められている」と結論づけられ、運営体制の見直しが提言されている。

この際に盛り込まれた“総合的・俯瞰的”という言葉に基づいて菅首相は5日のインタビューで「まさに“総合的・俯瞰的“な活動を確保する観点から、今回の任命についても、判断させて頂きました」と語ったことがわかる。

“後継指名可能”の根拠の1つに推薦者重視の構図

一方、会員の選出については2003年2月のとりまとめで「候補者に関する情報を学協会からの提供を含め幅広く収集する工夫、選考基準の明確化などに留意する必要がある。また、科学に関する知識・意見の集約を幅広く行うため、産業人や若手研究者、女性研究者、地方在住者など多様な会員が業績、能力に応じて適切に選出されるようにすべきである」と提言された。

しかし、菅首相が5日の内閣記者会のインタビューで「現状では事実上自分の後任を指名する事も可能な仕組みとなっている」と指摘したように、政府は現在の人選のあり方にも疑念を抱いている。

そして7日の衆議院内閣委員会では自民党の薗浦健太郎議員が、新任の推薦会員を選ぶ際に、学術会議会員らが学術会議内の選考委員会に提出する「候補者推薦書」について疑問を呈した。

薗浦健太郎議員・7日

薗浦氏が指摘したのは、候補者本人の名前や経歴よりも推薦者の名前が先に記述される仕様になっていることだ。薗浦氏は、この推薦者の名前が重視されていることが、特別職の公務員の選定方式としてどうなのか疑問を覚えるとしている。

自民党・薗浦健太郎議員が指摘の新会員の推薦書

政府の説明責任の一方で、学術会議は様々な“疑念”にどう応えるのか

また自民党内で学術会議の在り方を検討する作業チームを設けた下村政調会長は、日本学術会議から政府に対する勧告は2010年以降出されておらず、要望についても2009年が最後だと指摘していて、学術会議が果たす役割がどの程度果たされているのかという疑問を検証の理由に挙げた。これに対し、学術会議側は、「勧告」や「要望」は出していないが、「提言」は多数出していると指摘し、下村氏の主張はミスリードだなどと反論していて、今後の成り行きが注目される。

下村政調会長

こうした経緯を踏まえ政府関係者は「日本学術会議の在り方そのものが20年来議論されてきているが、いまだに活動内容が分からない」と指摘している。菅首相は9日のインタビューで、日本学術会議の活動と会員任命について改めて次のように語った。

「法律に基づいて任命を行う際には、日本学術会議がこれまでいわれてきたように総合的、俯瞰的な活動、いわゆる幅広い視野に立ってバランスのとれた活動を行い、国の予算を投じる機関として、国民に理解される存在であるべきである、こうしたことを念頭に判断したい」

菅首相の“任命拒否“で一躍クローズアップされた日本学術会議という組織。26日から始まる臨時国会で行われる菅政権下初の本格論戦でも、今回の”菅流人事“の是非は大きなテーマの一つになるだろう。それに加え、問題のすり替えだという批判は出るにせよ、学術会議のあり方に関する議論も、与党から政府への質問などを通じて活発になるとみられる。

この機会に、本質に根ざした議論の深まりを期待するとともに、政府・日本学術会議それぞれが、自らに向けられた疑念についてどのように説明していくのか注目される。

(フジテレビ政治部・千田淳一)