「宇宙飛行士です。宇宙で攻撃を受けて酸素が足りません。お金を送ってください」――。こんな荒唐無稽な話でも、実際に被害に遭う人がいる。

北海道内の特殊詐欺被害は2025年8月末で12億8000万円を超え、前年同期の3.7倍に膨らんだ。

なぜ冷静な人でも騙されるのか。明星大学の藤井靖教授(心理学)に聞いた。

「実は、非現実的な話ほど信じてしまうリスクがあるんです」

藤井教授によると、突拍子もない話が突然舞い込むと、人は驚きや不安、恐怖といった感情が強く刺激される。すると脳の感情をつかさどる部分が活発になり、冷静に判断する部分の働きが鈍くなる。

その結果、普段なら「おかしい」と気づけることでも、信じてしまうのだという。

“宇宙飛行士”をかたる人物からのメッセージ
“宇宙飛行士”をかたる人物からのメッセージ
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詐欺師は巧妙だ。心理学的に3つの要素を使い分ける。

まず「権威」。警察官や金融庁職員を名乗り、「この人の言うことなら間違いない」と思わせる。特に地方では公務員への信頼が厚く、効果は絶大だ。

次に「恐怖」。「逮捕状が出ている」「すぐ対処しないと大変なことになる」と不安をあおる。感情が高ぶると、人は客観的に状況を見られなくなる。

最後が「遮断」。「誰にも相談してはいけない」と言って孤立させ、その場で即断を迫る。第三者の意見が入ると詐欺がバレるからだ。

最近はSNSを使った手口も増えている。マッチングアプリで相手を探し、メッセージのやり取りで「この人は要求を聞いてくれそうか」を見極める。

SNSを使った手口が増加
SNSを使った手口が増加

藤井教授は「『いい人』ほど狙われやすい」と話す。

実際、カウンセリングした被害者の多くは「周りから『いい人だね』と言われる人」だという。

相手の話を最後まで聞き、すぐに返事をしてしまう。詐欺師は「はい」を引き出すような話し方をしてくるため、最後に「お金を振り込んでください」と言われても「はい」と答えやすくなってしまう。

詐欺師はさらに巧妙な心理テクニックも使う。

よくわからない話を次々と説明し、被害者を混乱させる。

藤井教授は「話を聞けば聞くほど、だんだん本当のことのように思えてくる。これは心理学でよく知られた現象です」と説明する。

明星大学の藤井靖教授
明星大学の藤井靖教授

では、どう身を守るか。藤井教授は3つのポイントを挙げる。

まず時間を置くこと。「急いで判断を」と言われても、一度電話を切る。本当に重要な連絡なら、相手からまたかかってくる。

次に誰かに相談すること。家族でも友人でも構わない。一人で抱え込まないことが大切だ。

そして質問をすること。「キャッシュカードはどこの銀行のものですか」「何色ですか」など、具体的に聞く。詐欺師は台本が存在するため、予想外の質問に答えられず、粗が出る。

「自分は騙されない」と思う人ほど危険だと藤井教授は警告する。

「そういう人は思い込みが強く、最初の印象に縛られやすい。柔軟に考えることが詐欺被害を防ぐカギです」

なぜだまされるのか?身を守るポイントは
なぜだまされるのか?身を守るポイントは

北海道函館市では2025年、2億円の被害も発生した。

不審な電話を受けたら、まず警察相談専用電話「#9110」に連絡を。1人で判断せず、必ず誰かに相談することが身を守る第一歩だ。

(取材協力:明星大学・藤井靖教授)

道内では特殊詐欺の被害相次ぐ
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北海道文化放送
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