5年前、福岡市の商業施設で当時21歳の女性が殺害された事件。娘を奪われた母親が、損害賠償を求めた裁判の控訴審が開かれた。
心にぽっかりと開いた穴
9月12日、福岡市内。裁判所へと向かう1台のタクシー。タクシーに乗っているのは、5年前に福岡市の商業施設で最愛の娘を殺害された50代の母親だ。

「娘に『控訴審が始まるよ』と。『あなたも聞いておきなさい』と言いました。一緒についてきてくれると思っています」

2020年8月28日、福岡市の商業施設で当時15歳の元少年が、当時21歳の女性を包丁で十数回刺し、殺害した事件。12日の裁判を前に、被害女性の母親が取材に応じた。

「娘が使っていたシャンプーとかパックとか、ボディートリートメントとか、そういうのも全部、とっています。もう、あの日のまま、ずっと時間が止まってしまっています。私の中では」と被害女性の母親は声を絞り出しように話した。

いま尚、心にぽっかりと開いた穴。思い出されるのは、娘の無邪気な人柄だ。
「とにかく笑わせる、自分では笑わせているつもりはないんですけど、もう本当に面白い子で、天然キャラって言うんでしょうかね」
「謝罪というのが分からない」
事件から2年経ち、始まった裁判員裁判では、元少年の特異な家庭環境が明らかになった。弁護側の話では、父親が家にいることは余りなく、母親は家事と育児の能力が低かった上、家庭内では、性的虐待もあったという。

少年院を仮退院した際には、母親が引き取りを拒否したため、福岡県内の更生保護施設に移った。そして、その翌日、施設を脱走して事件を起こしたのだ。

当時、裁判に出廷した元少年。謝罪の気持ちについて問われると「謝罪というのがどういうのか分からないので特にない」と答えた。

福岡地裁は「非常に凶悪な犯行」で「人格的な未熟さや成育歴などを理由に保護処分を受けることは社会的に許容し難い」として元少年に懲役10年以上15年以下の不定期刑を言い渡し、判決は確定した。

この判決を聞いて被害女性の母親は「私はとにかく犯人…、死刑にしてもらいたかったんですよ。死刑…、でもそれはできないっていって、懲役10年から15年の不定期刑、これは少年の裁判にとって一番、重たい刑だって聞いたけど、受け入れることはできませんでした」と心境を語った。

被害女性の母親ら遺族は2023年、元少年の犯罪行為と母親の監督義務違反を理由に、総額約7800万円の損害賠償を求める裁判を起こす。
2025年3月、福岡地裁は、元少年に支払いを命じた一方、元少年の母親に対しては「更生保護施設入所中の少年が、第3者の生命に危害を加える可能性は予見できなかった」として請求を棄却した。
「全部、全部、奪われてしまった」
「そんな虐待までされて育ってきて、母親の影響がないわけないじゃないですか。誰だってお母さんの影響ってみんな大きいと思うんですよ。あの子がどういう子だったのかって、母親にも分かってもらいたいです。元少年の母親にも事件に向き合ってほしい」と被害女性の母親は悔しさを滲ませる。一貫した遺族の思いだ。
「帰ってこないんだよね、もう。どんなに思ったってもう…、凄く子どもが好きな子だったんですよね。娘の友だちには、結婚してお子さんいらっしゃる子とか、子どもを連れてきて、仏壇に参ってくれたりとかするんですけど、娘にもそういう将来っていうのは、いつかきっと来たはず」

「全部奪われたって。全部、全部、私たち家族の楽しみとか、全部奪われてしまったという気持ちが強いですね。これだけ思っても通じる相手じゃないかなと、そういう思いもありますよ。通じる相手じゃないよねって」

「お金…、だけどそういう責任の代償っていうのは、やっぱりお金になりますよね。お金じゃないけど…、償いっていうのは、それでしてもらいたいというのはあります」
次回公判は11月20日に予定
そして12日午前、被害女性の母親が裁判所へと入っていった。12日に始まったのは、元少年の母親に対して起こした裁判の控訴審。

被害女性の母親は、元少年の母親に対し、監督義務違反があったとして、合わせて約5400万円の損害賠償を求めているのに対し、元少年の母親側は、請求の棄却を求めた上で「こちらの言い分は、訴訟手続きで粛々と申し上げていきます」とコメントした。
(テレビ西日本)