手洗い問題を“公衆手洗い場”で解決

新型コロナウイルスの予防対策として、推奨されることの一つがこまめな手洗い。感染はウイルスが付着した手指が目や鼻などに触れることでも起こり得るので、気を遣う人もいるだろう。

しかし、手洗いは屋外だと思うようにできないことも多い。特に街中だと、現実的な手洗い場が近くになかったり、衛生的に不安になるところもある。

コロナ禍では悩ましいこのような課題が、新しい形で解決するかもしれない。誰もが利用できるスタンド型の“公衆手洗い場”を設置する試みが、東京・銀座で9月に行われたのだ。

有楽町マルイに設置されたWOSH(提供:WOTA)
有楽町マルイに設置されたWOSH(提供:WOTA)
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試みを始めたのは、水処理装置を製造・開発する企業「WOTA」とそのパートナー企業・賛同団体。「公衆手洗い推進パートナーシップ」として、WOTAが開発した水循環型のポータブル手洗い機「WOSH」の設置を進めるほか、既存の手洗い場の環境整備なども目指すという。

使った水の98%を再利用できる

WOSHの一番の特徴は、水道がなくても手洗いの環境を提供できることだ。機体には、フィルターによる膜ろ過・塩素添加・紫外線照射という、3段階の水再生処理機能を備えているほか、水質やシステムなどを常時監視・制御できるセンサー・AIを搭載している。

これにより、手洗いで使った水の98%以上を何度も再利用できる環境を実現した。飲用は想定していないが、WHOが各国が定める飲料水の基準に準じた衛生的な水に浄化できるという。

フィルターだけでも3つを備えている(画像はWOTAウェブサイトより)
フィルターだけでも3つを備えている(画像はWOTAウェブサイトより)

フィルターや消毒用の塩素タブレットなどは必要になるが、最初の水源となる20リットルの水を入れて設置するだけで、どこでも手洗いできる環境を作ることができる。

稼働させるには電源を供給する必要はあるが、発電機などがあればこの問題も解決する。コロナ禍での感染予防だけではなく、災害時の避難所などにも役立てることができるだろう。

スマホ除菌機能も...実際に体験してみた

9月25日は試みの第一弾として、東京・銀座の公衆手洗いを推進するイベント「WELCOME WASH GINZA」が開かれた。現地には実物のWOSHも設置されたので、筆者も利用してみた。

本体上部にはセンサー式の蛇口とソープディスペンサーが搭載され、洗い心地は普通の手洗い場にあるものと変わりはない。ただ、驚いたのは水の純度の高さ。多くの人が利用しても蛇口から出る水はきれいなままで、言われなければ再利用しているとは気付かないほどだ。

WOSHが利用される様子(筆者撮影)
WOSHが利用される様子(筆者撮影)

さらに本体上部にあるくぼみは、水の殺菌に使われる深紫外線の技術を流用したスマートフォンの除菌機能で、表面に付着した菌の99.9%以上を除菌できるという。

このくぼみにスマホを置くと...(筆者撮影)
このくぼみにスマホを置くと...(筆者撮影)

こちらも試しにスマホを置いてみると、機器内に吸い込まれて約30秒ほどで除菌された。

深紫外線で除菌してくれる(筆者撮影)
深紫外線で除菌してくれる(筆者撮影)

短時間でも手指やスマホの除菌ができるとあって、利用する人は増えそうだが、アルコール消毒などもある中、なぜ手洗いにこだわるのだろう。衛生面などはどう管理していくのだろうか。

プロジェクトの発案者である、WOTAの代表取締役CEO・前田瑶介さんにお話を伺った。

現状は手洗い場を活用しきれていない

ーー「WELCOME WASH」プロジェクト立ち上げの経緯を教えて。

きっかけはWOSHの開発に伴い、鎌倉市で6月に行った実証実験です。WOSHを商店街や飲食店などに置かせていただき、地元住民や観光客がどう利用するかを調べたのですが、「手洗いが身近にあると安心して観光できる、日常生活を送れる」という反響を多くいただきました。

ここで、手洗い設備は充実しているように見えてそうではない、特に公共空間には足りていないと感じるようになり、全ての人に開かれた手洗い環境が求められていると思ったためです。

WOTAの代表取締役CEO・前田瑶介さん(筆者撮影)
WOTAの代表取締役CEO・前田瑶介さん(筆者撮影)

ーー手洗い場自体は既にあるが、公衆手洗いにこだわる理由は?

世の中には既に手洗い場はありますが、場所が分かりにくかったり、お店の利用者だけが使えるということが多く、活用しきれていないところがあると思います。公衆手洗いが街中に数多くあれば、そうした状況の開放につながると思いました。

消毒のためにアルコールを置くところもありますが、手指が敏感な人は肌が荒れたり、気持ち悪さを感じる人もいます。そうしたストレスを感じずに手指衛生を保つこともできます。


ーー「WOSH」の特徴や魅力は?

一言でいうと「水道がいらずにどこでも置ける」ことですね。私たちの技術は、水を浄水したり下水処理をするといった、いわゆる「水再生」の領域です。WOSHはそうした自然界の循環を小さな装置で実現できるので、どこでも水が使えるという価値を生み出すことができます。

WOTAが目指す公衆手洗いの姿(提供:WOTA)
WOTAが目指す公衆手洗いの姿(提供:WOTA)

ーー循環型の水源はどう実現している?

水処理の機能・性能をコンパクトにし、自動化したものを搭載することで、使った水をその場で処理することを可能としています。汚れが溶け込んだ水の不純物をその場その場で取り除いているので、水がほぼ減らない状況を実現しています。


ーー衛生面の問題はどう解決している?

WOSHには飲料水や半導体の製造過程で使われる、純度の高い水を作るためのフィルターを採用しています。さらにセンシング技術とAIを活用して、浄水処理が常に正しく機能しているか、不純物を除去した後の水質などをチェックすることで、安全性を担保しています。

水質の異常があれば自動停止

ーー万一、飲み物などが入ったら?

飲料も水と不純物でできているので、一般的な飲料なら不純物を除去して使える水に戻すことができます。水質はセンシングでチェックしていて、万一、水質の異常があった場合は水が出ないようになっています。一般的な都市社会で想定されるような使い方をしていれば、水質がおかしくなるようなことは発生し得ない設計となっています。

水質に異常があれば水がでない仕組みになっている(画像はWOTAウェブサイトより)
水質に異常があれば水がでない仕組みになっている(画像はWOTAウェブサイトより)

ーー水源となる水には制限はある?

海水以外、いわゆる淡水であれば使用可能です。雨水や川の水でも使えます。


ーースマートフォンの除菌機能を搭載した理由は?

新しい手指衛生のスタンダードとして、搭載させていただきました。現代社会だとスマートフォンは「第3の手」と呼ばれるほど、手指衛生で重要とされていますし、鎌倉市で行った実証実験でも「手を洗ってもスマートフォンが汚ければ意味がない」という声がありました。


ーーWOSHを稼働した場合のコストは?

フィルターなどの消耗品にかかるコストを含めると、手洗い1回につき約5円の費用がかかります。※導入費用は除く

災害時にも使い続けられる手洗い環境を

ーーどんな場面や環境での活用を想定している?

災害時にも使い続けられる、手洗い環境を提供したいですね。個人的なことですが、僕は地元から上京した翌日に東日本大震災が発生し、水道などのインフラが止まったことで、思うように生活できない人を数多く見ました。水というライフラインは人間の生命・生活に不可欠なので、そうした面でも役立てたらと思います。

WOSHなら断水になっても使える可能性がある(画像はイメージ)
WOSHなら断水になっても使える可能性がある(画像はイメージ)

ーー手洗い環境の整備はどのように行う?

既存の手洗い場も活用しつつ、都市全体の手洗い環境の底上げを目指したいですね。例えば、駅だとハンドソープが切れていることが多いので、消費財メーカーと連携して整備する。百貨店だと、手洗い場が施設奥のトイレだったりするので、WOSHを入口に設置するなどしたいです。


ーープロジェクトの目標や予定を教えて

街中での手洗い状況などが可視化できる、日本の手洗いマップを作りたいですね。感染症とのデータに基づく相関関係などが分かると、公衆衛生の効果的な改善につながると思います。

WOSHに関しては、まずは都市部を中心に普及させて、どこでも利用できる状態を作りたいと思います。

既存の手洗い場の環境整備も目指すという(提供:WOTA)
既存の手洗い場の環境整備も目指すという(提供:WOTA)

WOSHの導入にかかる費用は一括購入が135万円、このほか月額2万円(最初にレンタル一時金として65万円が必要)のサブスクリプションサービスなども用意している。9月25日~27日の期間、東京・銀座の百貨店など15カ所に設置されたほか、今後は全国に展開していく方針という。

コロナ禍で手洗いの大切さが注目される中、WOTAの試みが手指衛生の在り方を変えていくか、これから注視していきたい。
 

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