おもちゃと言えば、思い入れはあるが使わなくなったり、捨ててしまったり、壊れたまま放置したり…という人も多いのではないだろうか。だがそういったおもちゃをできるだけ大切に扱い、次の“人生”へと後押しする取り組みが、鹿児島で行われている。
使わなくなったおもちゃ、どうしていますか?
使わなくなったり、壊れてしまったりした“おもちゃ”について街を歩く人たちに聞いてみた。「タンスの中に眠ってます。修理とかはしたことないですねぇ。」「仮面ライダーのベルトとかもずっと残ってるし…。」「ラジコンも動かないからもう、手で動かしています」。使わなくなったまま、壊れたまま放置しているという人は多いようだ。
だが、そんな状態を解決する場があるのをご存知だろうか。

壊れたおもちゃを修理する「おもちゃ病院」
「おもちゃ病院」。鹿児島では2009年以降に活動が始まり、現在、鹿児島市や鹿屋市、奄美市など県内15カ所にある。
鹿児島市の「かごしまおもちゃ病院」は第1、第3、第4日曜日の午後1時から3時まで市内の公共施設などで“開業”していて、所属しているおもちゃドクターは23人。ボランティアで、修理代は無料だ。

夏休み真っ只中の8月3日、オープン前のドクターたちは作業机にペンチやカッターなどのあらゆる工具を準備して、子どもたちが来るのを待っていた。
「持ってくれば直る」頼れるドクターたち
「この道具たちは何ですか?」
竹﨑將輝ドクターは「修理する道具。」と答えると、ベージュの輪っかがたくさん入った袋を取り出して見せてくれた。「これはプラレールの車輪のゴム。やっぱり10年近くたつとゴムですから朽ち果ててしまいますね」

69歳の竹﨑さんは、元自衛官。「おもちゃは、基本的に思い入れのあるものが多いですからね。捨てられるというのは非常に悲しいことなんですが、それがおもちゃ病院に持ってくれば直ると」。自信を持ってこう語る竹﨑さん。おもちゃドクター歴15年のベテランだ。

吉留吉弘ドクターは、79歳。「もともとは公務員だったんです。修理が好きだったものですから。」得意分野を生かし、2011年から活動している。
思い出あるおもちゃが直って、まだ使える
午後1時のオープンとともに、続々とケガをしたおもちゃがやってきた。
「動いたところを見たことがない」状態で持ち込まれたのは、駅のおもちゃのようで、遮断機がついている。「お下がりでもらって…」と持ち主。
また、大きな4つの車輪が付いたラジコンを持ってきた女の子は「お父さんが『髪の毛が引っかかってるんじゃないか』って、ここら辺に」。気になる場所をドクターに指さして見せた。するとドクターは「あー、多分それじゃないと思うな。はははは」と笑いながら診察すると、早速治療に取りかかっていた。
「動いた動いた動いた動いた…良かったね!」後ろ足を骨折していたウサギのおもちゃを持ってきた女の子は、「わぁ~」と治療を終えたウサギを両手で抱きかかえて大喜び。「お父さんが踏んだから骨折して、前は悲しかったけど直してもらってうれしかった」。笑顔がはじけた。

「かごしまおもちゃ病院」は、子ども達に“修理の様子を見てもらう”ことを大切にしている。竹﨑ドクターは、幼い男の子に「ねえ、中身こんなになってるんだよ」と、その子が持ってきたおもちゃを解体して中を見せた。レジのおもちゃの音が鳴らなくなったらしい。
「ここでつないで接着しちゃいます」。ドクターは、故障の原因になっていた配線の手当てをして「はい、どうぞ!」と、完治したおもちゃを手渡した。受け取った男の子は、アンパンマンの顔をかたどったバーコードリーダーを操作。ピッと音がして、「できた!ありがとう!」とドクターにお礼を伝えた。
「思い出のものとかそういうものが直って、そしてまだ使えるというところも、おもちゃ病院のいいところじゃないかと」。竹﨑ドクターは、直ったおもちゃで男の子がうれしそうに遊ぶ様子に優しいまなざしを向け、カメラのシャッターを押していた。
自分が使ったおもちゃを他の人に
街ではおもちゃに関してこんな声も。「部屋の上に本棚があるんですけど、そこにぬいぐるみを全部飾って。生きてるやつ、動くやつを捨てるのは、何かかわいそうじゃないですか」。
確かに、思い入れのあるおもちゃは捨てづらいものものだが、そんな悩みに答える仕組みとして、自分が使ったおもちゃを他の人に使ってもらうという取り組みがスタートしている。
日置市役所の入り口には「PASSTO」と書かれ、大きな投入口のある青い箱が4つ置かれている。「PASSTO」は「次の人に渡す」を意味するPASSTOの造語。ボックスは日置市内の31カ所にあり、衣類やおもちゃなどが無料で回収されている。
おもちゃなどを回収する箱の中をのぞくと、ぬいぐるみがまとめて入っていた。
2024年7月に設置され、約1年。「この1年で約1.7トン集まっています。おもちゃ・雑貨だけで全体の約10%ほどを占めています」。日置市役所市民生活課の榎園明義さんはこう語る。「PASSTOボックスは“リユース”を目的に行っている事業なので、次必要とする方の手に渡るということを思えば手放しやすい、という声を市民からたくさん頂いている」。PASSTOボックス、なかなかの手応えのようだ。
”捨てる”以外の選択で次に生かして
「きょうは多い方ですね。」集まったおもちゃを引き取りに来たのは、薩摩川内市の企業“ECOMMIT”の宮田晴輝さん。不要になったおもちゃなどの回収・選別・再流通を行っている会社で、日置市と協定を結び、事業を行っている。
回収されたおもちゃは、ECOMMITの回収の拠点、エコベース鹿児島がある薩摩川内市へ運ばれる。ECOMMITでは日置市のほかにも、いちき串木野市など県内6つの自治体と協定を結んでいて、エコベース鹿児島には直接の持ち込みも含め年間約2500キロのおもちゃが集まるという。
そのあと、再流通させるための選別作業が進められる。選別作業を担当する和田芳弘さんは「ボロボロであれば廃棄、使えるものであれば海外へ出荷。もしくはネット、もしくは併設の売り場があるので、店頭販売に分けて」といった基準で仕分けしているという。
広報の鈴木衣津美さんは「海外に出荷するときにコンテナに詰めて出荷するんですけど、川内港が近いので以前はそこから海外に出荷していました」と語る。そして変動はあるものの、海外への出荷は、集まるおもちゃのだいたい6割に及ぶという。
「次の子どもたちに大事に使ってもらえたらうれしいなと思って、いつも磨きながら選別しています」。選別作業を担当している新屋裕希さんは、心を込めて、おもちゃを次のステージへ送り出している。
鈴木さんは「さまざまな形で次に生かす道があるので、”捨てる”以外の選択肢としてPASSTOを使ってほしい」と呼びかける。
大切なおもちゃを次の人に渡す取り組みと、直す取り組み。方法は違うが、両者の根底にあるのは「ものを大切にしてほしい」という思い。おもちゃを大切にする思いは時間を超えて、時には海を越えてつながっていく。
