2023年、長野県中野市で警察官を含む男女4人が殺害された事件。9月4日、長野地方裁判所で初公判が開かれ、被告の男は「黙秘します」と述べた。裁判は、被告の刑事責任能力と量刑を争点に進められる。

被告「黙秘します」

傍聴券を求めて370人が集まった9月4日朝の長野地方裁判所。注目の裁判員裁判が始まった。

殺人などの罪に問われている、中野市の青木政憲被告(34)。

事件現場(2023年5月、長野県中野市)
事件現場(2023年5月、長野県中野市)
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起訴状などによると、2023年5月、散歩をしていた女性2人をナイフで刺して殺害した上、通報を受けて駆け付けた警察官2人を猟銃やナイフを使って殺害したとされている。

初公判(2025年9月4日、長野地裁)
初公判(2025年9月4日、長野地裁)

午前10時に始まった初公判。青木被告は、グレーの長袖シャツとカーキのズボン姿で入廷。落ち着きながらも、ちらちらと傍聴席に目を向けたり、上を向いたりしていた。

起訴状を読み上げられた後、裁判長から「どこか違うところはありますか?」と聞かれると、青木被告は10秒ほど沈黙したあと、「黙秘します」と話し、認否を明かさなかった。

争点は「刑事責任能力」と「量刑」

裁判の争点は被告の「刑事責任能力」と「量刑」。

青木被告が、1年ほど前から被害女性2人に「ぼっち」「きもい」などと言われていると思っていたこと、ナイフや猟銃を使って4人を殺害したことは、検察側、弁護側とも共通している。

検察側「完全な責任能力あった」

その上で、検察側は、「ナイフを購入して、刃を研いで鋭利にしていた」「遺体を隠す目的で台車に乗せ、自宅の敷地まで運んだ」などとし、「犯行時の被告人の判断に問題はなく、合理的な行動がとれていて、完全な責任能力があった」と主張した。

初公判の廷内スケッチ(イラスト:一色こうき)
初公判の廷内スケッチ(イラスト:一色こうき)

さらに検察側は、被告が事件で使用としたとみられるナイフを購入した2日後の2023年4月14日に弟に送ったLINEメッセージを証拠として提示した。

メッセージには「ごっつええナイフこうたった」「人をいっぱい殺すで」などと書いてあったという。

また、被告の部屋には「人殺し大百科」という本もあり、その中に警察官が身に着ける防刃ベストについての記述があったと指摘した。

弁護側「心神耗弱の状態だった」

一方、弁護側は、精神鑑定の結果、「犯行当時は統合失調症の症状が再発・悪化した状態だった」とした上で、善悪の判断力などが著しく低下した「心神耗弱」の状態だったと主張した。

青木政憲被告(2023年5月)
青木政憲被告(2023年5月)

また、弁護側は被告が大学生時代、同級生らに「ぼっち」「きもい」と言われているように聞こえる、ネットを通じていじめられているといった趣旨の話をしていた。さらに、アパートの部屋に監視カメラや盗聴器が仕掛けられていると両親に話し、探偵が調査したが、それらは見つからず「総合失調症かもしれない」と指摘されたとしている。

現場に駆け付けた警察官が出廷

その後の証人尋問では、事件直後に現場に駆け付けた警察官が出廷した。被告の家の敷地内で倒れていた人のもとに向かったところ、猟銃を持った被告に追いかけられたと証言した。

事件現場(2023年5月、長野県中野市)
事件現場(2023年5月、長野県中野市)

警察官(証人):
「『ここは銃を持ってよい場所ではない』などと警告した。『そんなことはわかっている。撃たないのでどこかに行くように』と言われた」

また、その時の被告の様子については、「冷静に対応しているように見えた。通常の受け答えだった」などと話した。

被告が黙秘した理由は

裁判の後、取材に応じた弁護士は、被告が黙秘した理由について、「当初、黙秘権の行使は裁判ではしないと考えていたが、誰にも聞いてもらえなかったことを思い出して、裁判でも『何を話しても信じてもらえないだろう』という気持ちになって黙秘権を行使することに。私としては、これも本人の症状の一つだろうと思う」と述べた。

鑑定留置で移送された青木被告(2023年8月)
鑑定留置で移送された青木被告(2023年8月)

裁判には被告の両親も出廷し、判決は10月14日に言い渡される。

(長野放送)

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