京都の観光名所・伊根の舟屋。
オーバーツーリズムによって町が二分する事態となっています。
物産展からは「(売り上げの)70%が観光客です。ありがたいですね」という歓迎の声が上がる一方、「穏やかな伊根に戻して欲しい」といった声も…。
京都府の北部に位置する伊根町。
観光名所「伊根の舟屋」の風景を求め、人口約1800人の町に年間48万人の観光客が訪れます。
舟屋とは、1階部分が海に面し、舟置き場となっている独特な建物のこと。
約230軒が軒を連ね、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。
日本海に浮かぶ舟屋は、世代を問わず、平日も多くの観光客でにぎわいを見せます。
観光に来た大学生:
風情があるというか、京都を感じますよね。静かで良い観光地やな。
しかし、そんな町で今、ある異変が…。
地元住民からは「(観光客が)増えていることは感謝しないとあかんこともあるのもわかるんですけど、ちょっと異常ですね」「(土日は)もう出ないです、家から。穏やかな伊根に戻してほしい…無理だろうけど」といった声が。
住民が頭を抱えるのは、オーバーツーリズム。
京都市などの都市部で問題となっているオーバーツーリズムが、伊根町でも深刻な事態に陥っているのです。
地元住民によると、週末は観光客でごった返すといいます。
取材班が伊根町に向かったのは、8月24日の午前10時。
観光客はまばらで、平日と変わらない光景が広がっているように見えますが、平日にはいなかった交通誘導員の姿がありました。
交通誘導員:
向こうからも来るし、両方からくるからこっちを止めたり、昼休みがごちゃごちゃになる。他県ナンバーが多い。
午後1時を過ぎると多くの車が入り込み、辺りは大渋滞。
伊根町には鉄道がなく、ほとんどの観光客が車で訪れます。
周辺の道路はかなり狭いうえ、対面通行のため、対向車とすれ違う時はスレスレに。
そこに歩行者もいて、かなり危険な状況となっていました。
京都市から来た観光客:
道が狭いなと思って。さっき脱輪しかけたので、怖かったですね。周りの方が助けてくれました。うしろから「右右右!」って言われて。
伊根町の2024年の観光客数は約48万人と、過去最多を更新。
さらに2025年は、それを上回るペースで推移しているといいます。
オーバーツーリズム対策として、町は3カ所の駐車場を設置。
約100台を止められるようにしているものの、この日は、ほぼ満車状態でした。
多くの観光客が訪れることで、こんな影響が…。
「私有地につき立ち入り禁止」の文字がいたるところにあり、無断で私有地に入る観光客が後を絶ちません。
さらに、あちらこちらで見られたのがごみのポイ捨てです。
そして、個人の舟屋周辺で泳ぐ観光客まで。
小さな漁師の町で巻き起こる深刻なオーバーツーリズム。
その影響は、住民たちの関係性にも及んでいました。
物産展を営む北野恵さん。
昔は地元住民用の食料品を主に扱っていましたが、今は観光客向けの商品を多く販売しています。
北野商店・北野恵さん:
伊根町にうちしか店がないんですわ。2、3軒あったんですけどみんな辞められて。(売り上げの)もう70%が観光客です。ありがたいですね。この商売だけで生活しているので。
こうした観光客の恩恵を受けられる地元住民はほんのひと握りで、多くの人がそうではありません。
舟屋で生まれ育ったという女性は「(観光客は)ひたすら迷惑!本当に。人が入っていると、入ってもいいんやと入ってくる」と話し、観光客への不快感をにじませます。
舟屋が、観光客が多く通る道路に面しているため、無断でトイレを使われることもあるといいます。
取材中にも、写真を撮っていたのか、勝手に敷地に入っている人がいました。
地元住民:
伊根は産業がないところなんで、だから伊根町としては、観光業で生活を立てようと思うとそれはOKかな。我々は要らんけど…。
町の状況を理解したうえで、今の状況を我慢すると話す女性ですが、最後に「伊根町がどう思っているかですよね、我々を。お客さんが多い方が収入があるんかどうか知りませんけど」と不満を口にしました。
地元住民の生活を脅かすだけでなく、町の分断を助長しかねないオーバーツーリズム。
観光業にかじを切る町は、この状況をどう受け止めているのでしょうか。
伊根町企画観光課・豊田裕子係長:
多くの方に伊根町を楽しんでいただいているんだなと思いつつ、一方で地域住民の皆さんの静かな暮らしが…。維持ができていないと、問題を抱えていると認識している。観光の方も楽しんでいただいて、町民の方も安心して過ごしていただけるまちづくりを目指していきたいです。
オーバーツーリズムがもたらすさまざまな問題。
解決の手はあるのでしょうか。