友人と連絡が取れなくなった。

闘病中の彼女は、昨年から短期の入院を繰り返しているが、4月上旬、「今回は短くて大丈夫そう」と入院の連絡があった。メッセージのやり取りを続けていたが、1週間ほどすると既読が付かなくなり、電話をするも留守電。その後も反応がない。

友人は東京で独り暮らしの62歳。両親は亡くなっており、兄弟などの親族もいない。

連絡が取れなくなって1か月。共通の友人Bさんに相談した。Bさんは、地方在住の筆者に代わって友人のマンションを訪ねてくれたが、不在。病院やマンションの管理会社にも連絡したが、個人情報として何も教えてもらえなかった。

怖くなった。私は親しい友人の安否すら知ることが出来ないのかーー。

「こうした状況は決して他人事ではありません。核家族化が進んだ今、身寄りのない人や、実子や親戚がいても疎遠という方が増えています。緊急時に友人への連絡まで行き届かないケースは今後ますます増加するでしょう」

こう話すのは、一般社団法人包括あんしん協会の大和泰子さん。おひとりさま、おふたりさま、一人暮らし高齢者らの病気や介護サポートから死後の手続きまで、家族のように寄り添った支援を行っている。自分に何かあった時に周囲を心配させないために、どんな準備をしておくべきなのか。詳しく聞いた。

“身寄りなし”は1割だけ「家族がいても頼れない」人たちのSOS

【包括あんしん協会 大和泰子さん】
身寄りのない“おひとりさま”をサポートしたいと思い、10年前に『包括あんしん協会』を立ち上げました。驚いたのは、相談に来られる方のうち、身寄りがない方は1割ほど。親族がいるけど付き合いがなく頼みづらいと、我々に依頼をされる方が7割です。

あとの2割はお子さん(実子)がいても「遠方で緊急時に頼めない」「疎遠になっているから」などという方たちです。

家族同然の親友でも越えられない“法律の壁”

仲の良いご友人に、亡くなった後のことを頼んでいる方は結構います。ところが友人では、最初にしなければいけない『死亡届』を出すことすら出来ません。死亡届を出せるのは、親族や土地管理人、任意後見契約を結んだ人、などと厳しく定められているのです。

日本の法律は“家族がいること”が前提となっています。しかし時代が変わり、今は兄弟や子供が少なく、実際に手続きを進める上で困ることが多々あります。今後、法律は変わっていくと思いますが、現時点では友人に手続きやお金の清算をお願いしたい場合は契約書を作成しなければいけません。

お金に関わらないことは『死後事務委任契約』という契約書を作っておけば有効です。「葬儀の手配をする」「お墓に遺骨を入れる」「荷物の片づけをする」などのことが出来ます。

しかし、未払いの病院代の清算やクレジットカードの解約などは費用が発生します。そうなると、どこから支払うのか決めておかなければいけなくなり、公正証書などが必要になる…思っている以上に複雑で手間がかかるのです。

“おひとりさま”をサポートしたいと「包括あんしん協会」を立ち上げた大和泰子さん
“おひとりさま”をサポートしたいと「包括あんしん協会」を立ち上げた大和泰子さん
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私たちは会員の方たちと『死後事務委任契約』『遺言書』『任意後見契約』の3種類の契約を必ず結んでいます。これらがそろっていれば、死亡届の提出から、病院代の支払い、クレジットカードの解約、などのさまざまな手続きが行えます。

費用は、目安の金額を生命保険として受け取る形をとっています。事前に現金を預けることが不要になるのと、生命保険は相続財産に含まれないので、後々のトラブルが起こりにくくなるからです。これは、友人に清算をお願いする場合にも有効な手段です。

友人の立場で手続きをしたりお金を預かったりするのであれば、必ず公正証書を作っておいてください。特にお金については、相続人が見つかった時にもめるケースが多いです。また、書類は友人同士で作成するのではなく、弁護士など専門家に相談をし、必要な契約書を確実に作るようにして下さい。

まず保険証に挟むべき“たった一枚の紙”

まず最初にしていただきたいのは、緊急連絡先となる方を決め、連絡先を保険証(マイナ保険証や資格確認書)と一緒にしておくことです。救急隊員は必ず保険証を探します。

その際は“紙に書く”などのアナログな方法をとって下さい。パッと見て分かるようにする。今、スマートフォンにたくさんの情報が入っていますが、ロックがかかっている場合が多く、緊急時には役に立ちません。

次に「誰に連絡してほしい」とか「重要な手続きは誰にやってもらう」といったことを、緊急連絡先の方に伝えて下さい。

緊急時に必要なことは主に3つです。
*保証人になってくれる人の情報
*お金の出し入れを責任をもってやってくれる人の情報
*葬儀に関する情報

倒れて救急搬送されて意識がない、本人に状況確認が出来ない時に誰に連絡すればいいか。入院も施設入居も保証人が必要です。

葬儀は、例えば互助会に入って葬儀会社が決まっている場合はそのことを伝えておいて下さい。分からないまま進んで、葬儀後に気が付くケースは少なくないです。

しっかり決めて伝えておかないと、大切な人にも連絡が行かないことになってしまいます。緊急連絡先の方に、「親戚関係はこの人に連絡する」「友達はこの人に連絡する」と伝えていただければと思います。

後悔しないための専門家選びを

今、全国に我々のような事業者が増えています。身寄りがない方や、親族を頼りづらい方は、事業者に頼むのも選択肢の一つです。ただし、ニーズがあるからと新規参入したものの数年でやめてしまう事業者も多いのが現状です。

事業者を選ぶ際に気を付けていただきたいのは、個人でやっているのか、法人で複数のスタッフでやっている事業者かということです。個人の場合、その先生が倒れたら契約が実行されなくなる可能性があるからです。

長年にわたりサポートしてきた会員と大和さん
長年にわたりサポートしてきた会員と大和さん

今は50代、60代の方からの問い合わせも増えています。早めに相談し備えると準備に余裕が出ますが、一方で契約の実行までの期間は数十年単位になります。「何年先か分からない約束をするのだ」と意識して、業者を見極めて下さい。

実は我々の業種は、まだ所轄官庁が決まっていません。免許制でもないのでトラブル数も多く、昨年、ようやくガイドラインがでました。今、どこが所轄官庁になるのか話し合っているそうなので、遠くない内に決まると思います。利用される方も少し安心できるのではないでしょうか。

「まだ元気だから」ではもう遅い 最後まで自分らしくいるために

2024年の国民生活基礎調査によると、一人暮らし高齢者世帯は903万世帯で過去最多。未婚の子供がいる世帯907万世帯とほとんど変わりません。“おひとりさま”の終活をどうすべきは、今、世の中の大きな問題なのです。

元気な時はなかなか気付かない…最期まで自分でやれると思ってしまいがちです。しかし、どんな人でも年齢とともに一つずつ出来なくなっていきます。

今は健康寿命が終わってから亡くなるまでの期間が長いこともあり、何も準備をされていない方は、病気で苦しみ、お金の出し入れや保証人で苦しみ、手続きを託せる信頼できる人がいないと悲惨な状況になりかねません。

一人でも多くの方に、“準備の大切さ”を知っていただけたらと思います。そして我々も、おひとりさまに安心していただけるサポートを目指し続けたいと思います。

(包括あんしん協会 大和泰子さん)

高知さんさんテレビ
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