戦争の記憶と平和への思いを、絵日記で発信している女性が菊池市にいます。戦争を知らない世代でありながら彼女が描き続ける理由とは。作品に込めた思いに迫ります。

(朗読)
『1945年8月15日。ねえ兄さん。戦争は終わった。日本は負けた。早く母さんのところに戻って。この僕の日記も持って。』

当時の言葉づかいの文章に添えられた、やさしいタッチの絵。登場人物たちが記したという設定の絵日記が、その時の出来事や人々の思いを強く訴えかけます。

タイトルは『兵隊さん絵日記』。菊池市に住む坂本 眞菜さんの作品です。

【坂本 眞菜さん】
「(今日で何日目?)今日は1632日目。(毎日欠かさず?)はい」

坂本さんは仕事の傍ら毎日、絵日記を描き続け、SNSに投稿しています。

制作のきっかけは、大学時代に見た、ある夢でした。

【坂本 眞菜さん】
「海の上を一人乗りの飛行機で飛んでいる夢で、服装も見慣れないというか、現代ではない格好で、ここに名札がついていて、その名札の名前を起きても覚えていて、それ(名前)を調べたら、実際にいた人で、特攻隊で亡くなっていたので、そこから(戦争について)調べるようになり、本などに何も残っていない人の声を残していきたいなと思った」

それから4年半もの間、毎日一ページずつ話を紡いできた絵日記。

戦争経験者の話や資料などを参考にしながら、実際に起きたことや当事者の声を架空のキャラクターが代弁する形で、作品は進んでいきます。

【坂本 眞菜さん】
「『実在する人物を描いたら?』とよく言われるが、実在する名前で描いてしまうと、その人が言っていないことを言わせてしまう可能性がある。その人しか知りえないことを、私がズカズカと土足で踏み込むわけにはいかないし、架空の名前を使いながらも、その人(実在する人)の実際にあったことを時々交えながら語りかけていく作品」

しかし、坂本さんは今、実在する人を主人公にした作品の制作に取り組んでいます。

【坂本 眞菜さん】
「前田祐助さんの実際の経験談をそのまま絵にしている」

【前田 祐助さん】
「本日ここに70年前に散った戦友の前に私は生き延びて立っている」

元少年飛行兵、前田 祐助さんの経験談をテーマにした絵本です。

前田さんは1945年・昭和20年5月13日に、『旧陸軍菊池飛行場』でアメリカ軍からの空襲を経験。前田さんは防空壕に避難し助かりましたが、別の防空壕に逃げ込んだ同僚は爆撃の犠牲となりました。

【前田 祐助さん】
「第2波の空襲で顔だけ出した戦友を機銃掃射で狙い撃ちされて戦死した。34人の遺体を運び出し、油をかけて火葬した」

この経験談を形として残そうと、菊池飛行場ミュージアムで語り部などの活動を行う
会員たちが、絵本の制作を決意。

前田さんから聞いた話などを参考にしながら、坂本さんは絵を描いていきます。

【坂本 眞菜さん】
「絵本は実際に経験された方の一番つらかった思い出とかを形にしているものだから、本当に一枚一枚に命を捧げるというか、そのような感覚で描いている」

7月、菊池飛行場ミュージアムに絵本の制作メンバーが集まりました。

【菊池飛行場ミュージアム 永田 昭 館長】
「敵意がない表情かと思った」

【坂本 眞菜さん】
「敵意がある意味の、見下したような感じの笑顔かと思った。『お前たち命拾いしたな。運がいい奴め』ってちょっとイラっとしているのかと」

アメリカ兵の表情や風景について、話し合いが進められました。

しかし、その場に当時のことを誰よりも知っている、前田さんの姿はありません。

【前田さんは2023年に他界(享年96)】

【祐助さんの息子 前田 祐一さん】
「(父の体験を)絵にした時に、本人が体験したものと合っているのか、その人が亡くなってしまえば確認しようがない。私も今になって思えば、『父からもうちょっと
このところを聞いておけばよかったな』と」

実は以前、坂本さんも似た話をこぼしていました。

【坂本 眞菜さん】
(《戦争経験者から》話を聞きながら制作を今も行っている?)
「今はなかなか行えずにいる。そもそも話を聞ける人が少なくなってしまっていて、
新しい話を取り入れるのが難しくなっている」

終戦から80年が経ち、当時を知る人が減ってきていること。

そして、当時を知る人から話を聞いた語り部も、高齢化が進んでいるという現状があります。

【祐助さんの息子 前田 祐一さん】
「『私みたいな者の話を時々でも聞いて、そういうことが事実としてあったことを思い出してほしい』と(父が)言っていた。坂本さんを通じて彼女くらいの世代、彼女よりも若い世代に、父が言っていた『人と人との殺し合いが合法的に行われていた』ことに自分事として思いを馳せてほしい」

今しか聞くことのできない話に耳を傾けてほしい。自らの作品がそのきっかけになれば、と坂本さんは話します。

【坂本 眞菜さん】
「(絵日記は)私が描けなくなるまで毎日欠かさずに続けていきたいし、絵本も(戦争経験者や語り部から)話を聞き続けて描いていきたいと思っている。私たちみたいに平和しか知らない世代に戦争を伝えられるように、ということを意識しながら、描き続けている」

戦争の恐ろしさ、そして平和の尊さを未来に語り継ぐために。

坂本さんはきょうも、ペンを握ります。

テレビ熊本
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